幼馴染の彼に想いを伝えれないまま死んだはずの私がタイムリープで幼稚園児となり人生をやり直す。

NOV

第1章 タイムリープ編

第1話 あなたに想いを伝えたかった

 【昭和六十年八月】


 私の名前は『石田浩美いしだひろみ』、十五歳。

 中学三年生の女の子……


 私は『白血病』を患っている。

 昭和六十年の現時点では私の病気が完治するのは難しいらしい。


 だから私はもうそんなに長くは生きられない……と思う。


 もっともっと色んな事をやりたかったし、高校にも行きたかったなぁ……

 でもそれは叶わないと今は諦めている。


 しかし一つだけ……一つだけ叶えたい事があったのに……

 それすら私は叶えることができないの?


 神様、どうしてなの?

 私が何か悪いことでもしたの?


 どうして『初恋』の人に『好き』だという想いさえも伝えられないの?


 ―――――――――――――――――――――



『お客様!! シートベルトをして、両手を前の座席に交差させて前かがみになってください!! 前列の方は膝を抱えて出来るだけ低姿勢に!!』


『キャーッ!!』



 私は今、墜落しかけの飛行機に乗っている。

 そして私の隣には泣きじゃくる母がいる。


 母だけではない。他の乗客もほとんどの人が泣き叫んでいる。

 そうでない人は手帳みたいなものに走り書きをしているようだ。

 おそらく『遺書』を書いているのだろう。


 私も書こうかな。

 仲良しだった『久子』や『キシモ』や『川ちゃん』や『いなっち』に……


 それと『あの子』にも……


 そんな事を考えていた私の横で母は泣きながらずっと謝っている。


「ごめんね、浩美!! お母さんが飛行機のキャンセル待ちなんかしたせいで!! あなたまで巻き込んでしまって!! 最初から新幹線で帰ればこんな事には……ウウッ……」


「お母さんは何も悪くないよ。私の体調を考えて少しでも早く帰れるように気を遣ってくれたことなんだから……」


 そう、私達は昨日から東京に行っていた。


 私の病気を診てもらう為に東京にある『白血病』の専門医のところに行っていたのだ。


 母は私の病気を治す為に必死に調べてくれてようやく見つけた病院……


 私達はわらをもすがる思いで行ったけど、結局今の医学では少しだけ延命ができる程度という話だった。


 でも私は嬉しかった。


 少しでも長く生きられるのなら『あの子』と少しでも長い時間を過ごせる……

 

 そう思ったのも束の間、私は間もなく予想もしていなかった形で死んでしまう……


 泣きじゃくる母の前で私は冷静を装っているけど、本当は……


 怖いし、泣きたいし、悔しい……


 こんな死に方なんて本当はしたくない。


「私はどうでもいい!! 浩美……浩美だけでも助かって欲しい!!」


「お母さん……」


 お母さん、それは逆よ……私はいずれ死んじゃうの。でもお母さんはそうじゃない。


 病気でも何でも無いのに死んでしまうなんて……

 まだ小さい弟や妹を残して死んでしまうなんて……


 とても仲良し夫婦で私にとっても自慢の両親なのに……

 そんなお父さんまで残してしまう……


 私のせいでお母さんまで巻き込んでしまうなんて、とても心苦しい。


 私なんかよりもお母さんが生きるべきなのに……


 自分を犠牲にして、私の為にここまで頑張ってくれたお母さん……

 難病を持った子に産んでしまった自分を毎日の様に責めていたお母さん……

 近所でも美人で評判のお母さん……


 神様、お願いです!!


 どうか、お母さんだけでも……

 私はいいから、お母さんだけでも助けてあげてください!!



 ブォ――――――――――――――――――ンッ


「キャーッ!!」「うわぁぁああ!!」


 飛行機がどんどん落ちて行くのが分かる。


 もうダメだ。助からないんだ……


 私は母の手を握りしめる。


 そして母も覚悟を決めたのか優しく微笑み私の手を握り返す。


「お母さん……今まで有難う……そしてゴメンね……」


「私もよ、浩美……私の子供に生まれて来てくれてありがとう……そして、また生まれ変わったらもう一度私達、親子になりましょうね……」


「うん……」



 飛行機は急降下していく。

 なんだか呼吸が苦しい。


 このまま呼吸ができなくなって落ちる前に気を失った方が楽かもしれない。


 でも、私はどうしても気を失うことができない。

 いえ、失いたくない……


 だって私の脳裏に『あの子』との思い出が走馬灯の様に出てきて……出てきて……消したくない……


「五十鈴君……五十鈴隆君……」


 もう一度会いたかった。そして私の想いをあなたに伝えたかった。



 五十鈴君……私はあなたが好きでした。


 小学生の頃から大好きでした。


 

 あなたは幼稚園の途中から私が通っている幼稚園に転入してきたのよね。

 凄く大人しそうで、誰とも話さない子。


 唯一、担任の先生だけに心を開いていた子。


 だから最初、私はあなたの事なんて気にも留めていなかった。


 でも小学四年生の時に同じクラスになってからよく話をするようになったよね?

 まぁ、話といってもほとんどが口喧嘩だったけど……


 だから私の想いなんて全然、気づかなかっただろうなぁ……


 本当はあなたの事が好きだったから……あなたと何でも良いから話をしたかったから……余計につっかかっていたのよ。


 でも、四年生の時に一緒だった『演劇部』や五、六年生の時の『ミニバスケ部』ではお互いに頑張ったよね?


 私はあなたの頑張っている時の顔が大好きだった。


 中学生になったらあれだけ口喧嘩をしていたのが嘘みたいに仲良しになったよね?

 お互いに『大人』になったのかな?


 それに塾も一緒だったね。


 私の方が先に塾に通っていたけど、川ちゃん達からあなたも同じ塾に来るって聞かされた時は嬉しくて自分の部屋で飛び跳ねたくらいなのよ。


 でも私は病気が理由でということは誰にも言わずに塾を辞めちゃったけど……


 これからも、もっともっとあなたとお話がしたかった。

 口喧嘩でもいいからしたかった。


 一緒に中学を卒業して一緒に高校生になりたかった。


 


 私は中学生になったら、あなたに告白しようと思っていたの。


 でも私が『白血病』だと分かり、長く生きられないと言う事を知った私はあなたに告白するのをやめた……

 

 もし告白が実ってもあなたを苦しめるだけだから。


 だから告白しなかったけど……こんな形で死ぬくらいなら……

 

 あなたに想いを伝えたればよかった。


 それだけが心残り……


 五十鈴隆君……


 私の初恋の人……


 もし生まれ変わる事ができれば、またあなたの事を絶対に好きになります……


 さようなら……




 ブォンッ ドンッ ドッカ――――――――――――――――――ンッ





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。

新作いかがだったでしょうか?

まだ初回で悲しい場面ばかりでしたが次回からは新たな展開になりますので楽しみにして頂きたいなぁと思っております。

応援♡、感想などを頂けましたら光栄です。


これから読者の皆様に感動&満足して頂ける様に頑張って執筆させて頂きますので皆さま応援宜しくお願い致しますm(__)m

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