O'z-オズ-

ココビ

第1話『目の前の景色』

声が聞こえる

聞き覚えがある声

心が落ち着く声

それでも、誰の声なのかわからない。


「起きて、水戸」


その言葉で私は眠りから覚めた。


目の前に広がる景色、それは見慣れた学校

見慣れているはずの教室。

そんな教室は掲示がボロボロになり、机や椅子は倒れていて、プリントが床に散らばっている。

「教室…?いつのまに学校に来ていたの…?それにこの有様…ここで一体何が起きていたの…?」

私の脳内は周りの事態を把握することに精一杯だった。


なぜ私が教室にいるのか。

なぜ眠っていたのか。

なぜ教室が荒れ果てているのか。

何故私一人なのか。

先程の声の正体はなんなのか。


「いや…謎すぎるだろ…」


これは夢?夢ではない。頭の痛みは本物だ。

ならば一体何なのだろう。

一旦心と脳を落ち着かせるために、深呼吸をした。

「焦ったら負けだ。推理小説にも書いてあった。まずは他に誰かいないか探してみるのもありだな…」


ここでようやく、1歩前に進み出したんだ。


ドアを開けるとそこには荒れ果てた廊下が私を出迎えていた。どうやら教室だけではなく学校全体が荒れ果てているようだ。

あたりを見回してから、私は目を大きく見開いた



『私が巻き込まれている事件について

関連数値100%



「学校全体の数値が100%…やはりこれはただ事ではないな…」


私…解峰水戸は特殊な力を持って生まれた「Oz」の1人。私の力は「疑眼(ギガン)」。目を細めると目に見えるものが分析、解析される。


「なかなか厄介なことに巻き込まれたな。

まずはあせらず周りの状況を観察していくか…」


耳を澄ましながら1歩ずつ進んでいく。

これでも耳はかなりいい方だ。


カタン カタン


誰かがいる。音のリズムから考えておよそ2名。

1人はオドオドとした足音。

もう1人は片方を守ろうとする体勢が感じられる。


カタン カタン


近づいてくる。私はサッとロッカーの後ろに身を潜めた。

かなり近づいてきたところで声が聞こえた。


「ねぇ、本当に大丈夫なの?暗いしボロボロだし…」

「大丈夫。何かあったら守るから安心して!それより、早く探さないと…もし危ない目にあっていたら…」


聞き覚えのある声。心臓の鼓動が早くなっていく。目元がじんわりと熱くなる。


「綴…春樹…??」

私は幼なじみ2人の名を呼ぶ。

「…!!水戸!?そこにいるの!?!?」

春樹の声が響いた。

やはり、私の幼なじみ信定綴と剣城春樹だ。

「よかった!!私一人だけかと思った…」

「俺達もびっくりしたよ…とりあえずそっちに向かうね!!」

「で、でもこの瓦礫どうするの!?めっちゃ重そうだしビクともしないけど…」

「僕に任せて!!水戸!!3歩くらい後ろに下がってて!!」

そういうと春樹は深く深呼吸をすると自身の右腕から力強い風が吹き始めた。

そしてその腕を刃物のようにガレキに切りつけた。

「うわあああああああ!!!!?????ちょっと!!危ないんですけど!?」

「まぁまぁ通れるようになったんだから感謝してよ。あ、水戸!!よかった!!怪我とかしてない?」

「私は大丈夫だ。春樹は?すんごいもの真っ二つにしたけど」

「僕は大丈夫!!こんなの楽勝だよ!!」


春樹…剣城春樹の特殊な力は「風術」。

その名の通り、風・空気を操り技を出す。心地いい風を使って回復術も使える。手足を使うと剣のように鋭い風になる。


「嘘つけ~!!少しヒリヒリしてるんじゃないの?念の為、その腕はしばらく休ませときな」


綴…信定綴の特殊な力は「ライアーグラス」。

私とは少し違って何もせずに発動させることができる。相手が嘘をついているか、なにか後ろめたいことがあるかがわかる。簡単に言えば嘘を見抜く力だ。


「ちょっと綴!!勝手に見ないでよ!!恥ずかしいじゃん!!」

「恥じらいよりも自分を大切にしましょうね~」

こんな所で楽しく話している場合ではない。

わかってはいるけれど、そんな他愛もない会話をするだけでとても落ち着いたのだ。

それでも…この状況から逃れられない。

これが現実だということを受け止めなくてはならない。


私たち3人は瓦礫の中、また足を動かし始めた。

3人一緒ならきっと大丈夫。いつもそうだったから。きっと…いや、絶対に大丈夫。

大丈…「水戸?」

そんなことを考えていると綴が声をかけてきた。

きっと私の顔が怖かったのだろう。

「なに?」

「もしかして、怖いの?」

「いや、別に。」

私は春樹に背を向けながら綴に言った。

綴には嘘がバレてしまうから。

春樹に私の作り笑いを見られたくなかったから。

「そっか。よかった。」

綴はそう言った。きっと私をかばってくれたのだろう。綴は怪しんだ素振りも見せずに満面の笑みで答えた。彼はポーカーフェイスがとても上手い。そのおかげで助かっていることは多いが逆に困ることもある。普段からポーカーフェイスなのかもしれない。ずっと作っているのかもしれない。深くまで考えすぎてしまう。でもそんな考えはいつも一瞬で消えてしまう。

だって綴はいつも私たちのことを考えてくれている、とてもいい親友だからだ。

「何かあったら俺に頼ってね?」

春樹は少し凹んだ顔をしながらそう言った。

多分背を向けたからだろう。こいつは凹みやすいし友達思いすぎて自分のことを後回しにしてしまったり自分を責める癖がある。それをカバーするのが綴だ。

「うん。そうするよ。でも春樹も自分のことを先に守ってな?」

「残念ながらそれは無理だな~!!」

「おいおい…」


そんな会話をしていると広い広間のような場所に着いた。もちろん広間も瓦礫があちらこちらにある。

「水戸、綴、下がって。」

いつもより低い声で春樹は私たちを自分の腕で庇うような体勢になった。


「……誰かいる。」

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