そは汝がために鳴るなれば #novelber

深山瀬怜

Day1「Student Dance」/門

 私たちが逃れられる場所は、そこしかなかった。街に逃げたところで、私たちの傍にあって、私たちを見張るもの――『セイレーン』が私たちの動きを大人たちに伝えてしまう。けれど学校なら。学校に行くことは不自然なことではないから、報告はいかない。時間がおかしいのは確かだけれど、忘れ物を取りに行ったり、学校に泊まる合宿だってあるから、学校は聖域とされているのだ。

 昼間はこんな場所にいたくないと思っているのに、夜はここに逃げるしかないなんて皮肉だ。

「大丈夫?」

 先に門を乗り越えた由真ユマが尋ねる。由真はあっさりと越えてしまった門だけれど、私にはできるだろうか。

「手伝うよ、梨杏リアン

 ある程度のところまでよじ登ると、由真が私に手を差し伸べる。いつの間に彼女はこんなに頼もしくなったのだろう。少し前まではこの世界に違和感を抱いてはいたけれど、実際に何か行動に移せるわけではなかったのに。

 行動するようになった由真は大人たちに目をつけられている。私は由真と一緒に行動することで大人の目を少しでも逸らせれば良いと思っていた。しかし今は、心から由真に惹かれている。

 門を越えて、暗闇に沈む学校を息を殺して進んでいく。足元だけを携帯端末のライトで照らして、誰にも見つからないように息を潜める。でも、私たちはいつだって見られている。この世界の構造スキュラは私たちをいつでも正しい方向に導こうとする。

 でも今は――そんなことなど気にせずに、由真に触れたかった。

 普段使っている教室に入り、由真は自分の机に腰掛けた。短く切った髪。月の光を反射して白い肌。色付いた薔薇のような唇に、こちらを見つめる爛々と光る目。その全てを抱きしめたいと思った。

 私たちの時間は誰にも邪魔させない。由真が少しだけ甘えるように私の首に手を回す。私はそれに応えるように、そっと由真の唇を奪った。

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