キス

「うう、苦しい……」


 三人での晩ご飯も終わり、リビングを出る。


「ごめんね、お母さんが作り過ぎたばっかりに……」


 美香は少し申し訳なさそうにいった。


「何言ってるんだよ。あんなに歓迎してくれて嬉しい限りだよ」


「そっか……うん、そうだよね。あ、適当に座ってね」


 そう言って、美香はドアを開けて部屋の電気をつけた。


「う、うん……」


 おれはたまらず、緊張してしまう。

 晩ご飯の前は来れなかったけど、これが美香の部屋か……

 何せ、女子の部屋に入るなんて随分と久しぶりだ。小学校以来かな……

 部屋はかなり整っており、物もそんなになかった。テーブルにベッド、勉強机くらいしかなかった。

 ベッドの上にはこの前買った海斗(ぬいぐるみ)がちょこんと座っており、寝る前に美香が抱きしめているのだろうかとか考えてしまう。

 羨ましいぞ、全く。


 部屋に入ると、何故かいい香りが漂ってきた。

 そのまま、カーペットの上に腰を下ろす。


「さ、やっと二人きりだね……」


 そう言って、美香は部屋の鍵をガチャリと閉めた。


「え……」


 な、何をする気なんだ……

 ま、まさかあんなことやそんなことを……?

 ま、まてまて……それはまだ心の準備が……


「って、あれ……海斗、何、顔赤くしてるの?」


「べ、別に……普通だろ……」


 しかし、全然普通ではないと自分でも思ってしまう。意識しすぎだろ、おれ……


「あ……もしかして、変なこと考えてたんでょ?」


「ち、ちがうし……」


 慌てて、顔を背ける。


「その反応は図星だね。ふふ……」


 小さく笑った後、美香はおれの前に近づいてきて、そして。


「ちゅ……」


 そっとおれの唇に自身の唇を重ねてきた。


「今はこれ……が精一杯かな……」


 ほんのり熱を帯びた美香の唇。

 一瞬のことすぎて、それしか分からなかった。


 ゆっくりとおれから離れた美香は顔を真っ赤にしていた。

 そりゃそうだろう……

 何か美香っておれより、度胸あるというか……

 男として少し情けないかも……

 彼女に先にやらせるなんて。


「……ごめん、もう一回……」


「え、ええ……もう……私だって、結構頑張ってるんだからね……?」


「じゃあ、こっちから……」


 言って、おれは自分から美香に顔を寄せていった。


 そうして、もう一度おれ達は気持ちを確かめるように、互いの唇を重ね合わせるのだった。

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