そばにいること

「ただいま」


 美香を家の前まで送った後、家まで戻ってきた。

 そして靴を脱ぎ、リビングへ入る。


「なんだ、帰ってきたのか」


 リビングには親父がイスに座って、ビールとつまみを食べていた。

 ずっと飲んでんな、この人……

 風呂場の電気がついていたから、母さんは風呂だろうな。


「てっきり朝帰りするのかと思ってたわ」


「しねーよ!息子をなんだと思ってんだ!」


「はは、まぁいいや。そうだ、お前に一つ言っておくがな」


 先ほどとは打って変わって、親父は急に真面目なトーンで話し始めたので、おれは少し驚いた。


「彼女ができてな、まぁ向こうは彼氏だが、今はお互い好きだって、気持ちが強いだろうが、そのうち、慣れが出てくる」


「慣れ?」


「ああ、言わなくてもわかるって思ってしまうんだ。特に男はな。そういう慣れを作るな。気持ちはすぐに言え。好きでも、愛してるでもなんでもいい。じゃないと後悔することになるぞ」


「……」


「それとな、そばにいることを忘れるな。そういうのは失って初めてわかるんだ。残念ながらな。だから、そうなる前にきちんとそばにいろ」


「わ、わかったよ……」


 こんな真剣な表情の親父、初めて見た……

 親父も過去に色々あったのかな……


「さって、じゃあ次は何飲むかなぁー……」


 言いながら、イスから立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。

 先ほどの真剣な表情や空気は一気にどこかへいってしまったので、おれは少し拍子抜けしてしまう。


「って、まだ飲むのかよ……」


 テーブルの上に空き缶、十個はあるぞ……


「当たり前だろう?久しぶりの我が家に帰ってきて、しかも明日は休みだからな。飲まずにはいられんだろ」


「あ、そういえばいつまでこっちにいるんだ?」


「来週いっぱい休み取ったから、ゆっくりするぞ。あ、来週買い物行くから予定入れるなよ?」


「え、あ、わかった……」


 親父と買い物……なんていつぶりだよ……












 ♦︎













 翌日の朝。

 いつも通り、美香と共に学校へ行く。

 もちろん、手を繋いで。

 誰かに見られる可能性もあったが、別にいい。

 そして、親父の言う通りに美香に改めて好きだと伝えた。

 顔を真っ赤にしながら、俯きながら、頭をこくっと下げた美香の姿を見て、おれは幸せな気持ちになるのだった。


「ねぇねぇ」


 そんな高揚した気分のまま、教室へつき、席に座ると、田村が話しかけてきた。

 なんか久しぶりだな。色んな意味で。

 というか登場が久しぶりか。

 みなさん、お待たせしました。


「ん?」


「松原さんと遊んできたんだって?しかも、かなりラブラブだったってね」


「お……もう知ってるのかよ……」


 さすがのジャーナリストというべきか……?


「そりゃね。だって、ニャッキーパークに行ったんでしょ?土曜日だし、そりゃ、うちの生徒の誰かしらも行ってるって」


 ニャッキーパークとはおれ達が遊びに行ったテーマパークの名前だ。

 そりゃそっか……

 土曜だし、遊びに行ったのはおれ達だけじゃないもんな……


「それに松原さんのことが動画に上がってるんだよ」


 言って、田村は携帯に映った動画を一つ見せてきた。

 そこには驚異的な勢いで射撃ゲームをする美香が映っていた。


「え、これ……」


「誰かが動画にして上げたみたいで、かなり再生されてるの」


「そうなんだ……」


 確かに再生回数一万か……

 これはすごいな……

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