帰宅

「それじゃ、今日はありがとうな」


「うん。イチャイチャは程よくね」


 苦笑を浮かべつつ、香澄は去っていった。


 夕方の五時過ぎ。

 買い物も終え、後は帰ってご飯を作るだけだった。

 しかし、香澄がいてくれて助かった。

 案の定、腹一杯で何を買えばいいかわからなかったが、香澄があれがいいんじゃ、これがいいんじゃと色々と言ってくれたのだ。

 香澄も料理とかすんのかな……

 結構詳しかったしな。今度聞いてみよう。


 そんなことを思いながら、家までの道を歩く。

 そして、家の前にたどり着く。

 と、そこで何やら違和感を感じる。

 なんだろう……

 家の中に誰かいる……?


 まさか……


 いや、カギは渡してないはずだけど……


 ざわつく心を抑えつく、ドアに手をかける。開いてる……


 おれはゆっくりと玄関を開け、中に入る。

 そこには見慣れない靴が二つあった。


 いや、え……?そっち?


 おれは先ほどとは変わって、慌ててリビングへと入った。


「おかえりー!いやー、はっはっは!こうなるとは思ってたよ!うん!」


 リビングを開けると、そこには私服姿の親父と母さんがいて、嬉しそうに笑いながら、おれの方を見てきた。


 やっぱり、あんた達ですか……













 ♦︎











「はっはっは!いやぁーめでたいなぁ!本当に!」


 夕方の六時前。リビングにあるテーブルイスに対面上に座りながら、浴びるように缶ビールを飲んでいく親父。ビールを飲みながら、なんとも楽しそうに笑っている。

 そして、美香もこの場にいる。

 おれが帰ってすぐに来たのだ。

 ひとまず、玄関で説明をして、上がってもらってはいる。


「本当めでたいわねぇ。ようやくといった感じではあるけど……」


 台所で夜ご飯の準備をしながら、母さんもそんなことを言ってくる。


「いや、まぁ祝福してもらうにはありがたいんだけど、なんでいきなり帰ってきたの……?」


「仕事もひと段落してな。それにお前の成功を祝おうと思ってな」


「成功って……と、いうか、なんでおれがそうなったと思うんだよ……?」


「昨日の夜、寝てる時にな。夢を見たんだ。いやお告げと言うべきかな。そこで二人がようやく結ばれた。早く帰りなさいと神々しい光を放つ人物に言われたんだよ」


「へ、へぇー……」


 どうリアクションしていいか分からなくなり、おれはとても困った。

 嘘としか思えないが、事実、それが的中しており、親父はここにいるわけである。

 これは予知夢ってやつなのか……?

 ものすごい能力だな……

 それに神々しい光を放つって、それは所謂、神様というやつなのでは……

 これじゃ、美香と何かある度に知られてそうでものすごく嫌なんだが、なんとかならないものなのか……


「まぁまぁ細かいことは置いておいて、ご飯にしましょ」


 言いながら、母さんは大きな鍋をテーブルの中央に置く。


 細かいことじゃないような……と思いつつ、鍋の中を覗き込むと大きな肉が大量に入ったすき焼きだった。


「おかわりは沢山あるからどんどん食べてね」


「は、はい、ありがとうございます……」


 美香は少しぎこちなく頭を下げつつ、箸を手に取った。

 おれも肉を箸で掴み、溶き卵をつけた後、口に運んでいく。


「うっま……!」


 そして、たまらず、叫んでしまう。

 こんな肉、今まで食べたことない……

 柔らかくて、あっという間に口の中で溶けたぞ……


「はっはっはっ!そうだろう?特上の肉を買ってきたからな」


 得意そうに笑いながら、親父も肉を食べていく。

 そうして、あっという間に鍋の中の具がなくなっていく


「はいはい、追加しますよー」


 言って、母さんは追加の肉を沢山入れていく。


「この後はちゃんとデザートもありますからね」


「デザート……?」


 母さんの言葉にごくっと喉を鳴らす美香。

 甘いもの好き発揮だな……


 こうして、珍しく賑やかな夕食の時間が過ぎていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る