心を持たないもの

 翌日も同じように勉強を教えてもらう……予定だったのだが。


「嫌だ!オレの心はオレだけのものだ!」


 必死に拒絶し、持っていた剣で目の前の人物を消そうと振り払う。

 しかし、それは幻で何回振っても虚しく空を切るだけだった。


「悪いな。お前はもう既にこちらの手の中なのだよ」


 どこからともなく、そんな声が聞こえてきた途端、主人公は意識がなくなってしまいそうになる。

 まるで眠りに落ちるように。


 そして、エンドロールに。


「えー!ここで終わり?!」


「いや、まぁドラマシリーズだし、すぐに続き見れるじゃん……?」


「そうなんだけどさー。いやもう、嫌なところで引っ張るよねぇ。これがリアルタイムで観てたら、テレビ壊しそうだもん」


 よかったな、テレビ。命拾いしたぞ……

 おれはたまらず、そんなことを思ってしまう。


 今日はいつものように勉強会……ではなく、息抜きとして何故かリビングでテレビを見ていた。

 それも美香が観たいといってきた海外のドラマシリーズ。

 この前、映画館で見たやつのドラマ版が制作されていたらしく、しかも映画とドラマの世界は共通しているという、中々胸熱な設定なのだ。

 ドラマ版は映画版の主人公以外にフォーカスを当てた作品で、スピンオフ的な物語だった。それがネットで配信されていたので、すぐさまそれを見始めた形だ。


 勉強もせずにそんなことして大丈夫なのかよ。と思うが、美香が帰った後も復習はきちんとしているし、まぁ多少の娯楽も必要かなと思っている。これは甘やかしすぎかな……


「あ、今のうちに……」


 エンドロールが流れている間におれはソファから立ち上がり、戸棚にあるお菓子と飲み物を補充しにいく。

 そして、エンドロール終了と同時に再びソファに座る。


「よし、間に合った」


「ありがとう、助かるー。海斗って料理もできるし、気配りもできるし、何気にスペック高いよね。一緒に住んだら快適そう」


 美香がそんなこと言うもんだから、おれは口に含んだお茶を勢いよく飲んでしまった。

 危うく、気管に入りそうになってしまった。


 いやまぁ、意識して発言はしてないんだろうけど、今のは中々やばいよな……

 なんかドキドキした……


 おれは心のうちを美香に悟られないようにしながら、ドラマの続きを見始めるのだった。













 ♦︎












「お待たせ」


 すっかり慣れてしまったこの光景。

 ウキウキとした表情でイスに座り、ご飯が運ばれてくるのを待つ美香。


「今日はカレーにしてみました」


「甘口?」


「あ、うん……」


 やっぱり甘口だったか……

 甘いもの好きだから、もしかしてと思ってたが、予想通りだったな。


「うん!美味しい!」


 カレーを口に運んだ後、幸せそう顔を綻ばせる美香。

 それを見て、おれはどこか幸せな気持ちになるのだった。


「おかわりあるからな」


「おかわり」


「って早くね!?」


 まだ食べ始めて一分くらいしか経ってないけど!?


「カレーは飲み物だよ?」


「どこのフードファイターだよ……」


 おれは苦笑いを浮かべつつ、皿におかわりを装うのだった。

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