第300話
長らく投稿出来ておらず申し訳ない
色々ありました
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日常……いや、探索者として戦っていてすら聞くことはないであろう、火薬が弾け擦れ合う金属の悲鳴に酔う。
それは凄まじい殲滅力であった。
砲台、機銃、それにミサイルがぽこじゃかと派手に吹き出し、盛大に地面ごと地平線を吹き飛ばす。
たった……とは言っても百メートルはある巨大な船ではあるが……一隻によって創り出されているとは到底思えない、一方的な攻撃が視界に広がる。
兵器と爆発、現代ファンタジーにあるまじき光景であった。
「おっと」
一部、どうやら弾き飛ばされてきたらしい砲弾を手の甲で払い除ける。
成程、つまりこれは相性の問題だ。
仮に私と目の前のこの巨大で頼もしい船が戦えば、それこそ『アクセラレーション』で近付いて殴れば終わってしまう。
それならばこの巨大な軍艦の一切が私に劣っているのか? と言えば、首を振らざるを得ない。
長距離への無数の射撃や砲撃、爆撃は私……いや、探索者には出来ないだろう。あくまで強大な個との戦闘に特化しているのが、私達であるということだ。
つまり大量のモンスターが押し寄せる現状に、琉希が運んできたこれはベストマッチしていた。
しかしこんなのを持ってこようという思いつきもさることながら、その行動力、そして船の攻撃などを制御しているであろう中の人たちの決断力に驚く。
『これを!』
「え?」
スピーカーからの声と共に、寒空に黒いナニカが横切った。
「ちょっ、っとっ!」
握りつぶさぬよう、しかし落しもせぬよう二度三度と掌で硬質のお手玉を弄ぶ。
「っし、これは……トランシーバー?」
はたして、手の内へと収まったその黒っぽい機械は、映画で垣間見たことのあるあの無線機であった。
見た目は非常にシンプル。数えられる程度のボタンが脇にいくつかと、スピーカーらしき隙間が正面に拵えていた。
とはいえ、首を捻る。
いや見たことはあるけどさぁ……使い方なんて知ら……な……
「ん?」
胡乱気に弄び眺めていると、脇になにか白いテープが張られていることに気付く。
テープや文字に掠れや汚れが無いことから、どうやらつい最近に付けられたらしいことが伺えた。
そして書かれていたのは『ここを押して話す!』と非常にシンプルな内容。
『ボタンを押している内はそちらの声がこっちに届くので、話し終えたらボタンから指を話してください! どうぞ!』
「あー映画のどうぞ、とかってそういう意味だったんだ。どうぞ」
なるほど、実に分かりやすい。
砲撃鳴り響く騒音の中ではあったが、小さな機械から流れるその声は不思議と良く聞こえた。
「あー……その、来てくれてありがとう。信じてた」
『えー本当ですかぁ?』
内心を見透かしたかのように茶化す声。
そこには昨日までの刺々しさはなく、こちらもつい本音が零れる。
「正直に言うと、絶対に来ないと思ってたからびっくりした。あんなに怒ってたからさ」
『ひどい!』
「琉希だって信じてなかったじゃん」
一瞬の静寂、しかし手元の機器からくすくすとした笑い声が聞こえ、こちらもつられて笑う。
しかし暫くしてはた、と彼女の笑い声が収まり、落ち着いた口調に変わる。
『もしあたしだけだったら、ひょっとして今ここにいないかもしれません……芽衣ちゃんがですね、昨日の夜私に言ったんです』
そうか、そういうことだったのか。
はっきり言って芽衣はこの戦場にはあまりに似つかわしくない、弱すぎる。
だがそれは当然の事。魔蝕の発症をせぬように調整されたレベルの上昇では、どれだけ戦おうとそもそも劇的な成長など不可能。
私や、そのスキルの影響下にいた琉希が異常なだけなのだ。
『百円玉持ってきてですね、表出たら明日の戦いにうちらも参加しない? って』
「それで表出たんだ」
『いえ、十一回やって全部裏でした。最後は芽衣ちゃん意地になってましたね、確率低すぎありえんっしょ! って』
コロコロとした笑い声が共鳴する。
『本当はやっぱり今でも嫌です、貴女を行かせたくはない。でも……』
あちらで逡巡しているのが分かった。
促す言葉は幾らでもあるだろう。けれど私が何か口を挟んでしまえば、押し出されたそれはきっと彼女の言葉ではなくて――口を噤み次の言葉を待つ。
いや……
『でも、やっぱり来てよかった』
「うん」
そもそもそんなことをしなくたって、琉希が言ってくれる言葉は分かっていたから。
「私さ、戦い終わったら学校行こうかな。芽衣も誘ってさ」
『それいきなり柵に刺さったりしません? ポルチーニ茸乗っけたマルガリータ食べたくなったりしてません?』
「え? なんで?」
『あっ、なんでもありません。んんっ、こほん……何故唐突に?』
モンスター達の群れから飛来してきた粘液を軽く避け、周囲を見回す。
兵器による広範囲の攻撃と、それから生じる振動。
主に付近の動きへ釣られるようにして行動しているモンスター達は、先ほどまでの一直線な猛進っぷりは何処へやら、団子になって縺れ合っていた。
更に固まった所への狙い撃ち、これならば私達が無理に手を出さなくとも、まだ話していられる余裕はありそうだ。
「いや戦ってばっかりだったしさ、魔天楼止めたらダンジョンだってだんだん無くなるだろうから、その後は何しようかなって考えてて」
船上の彼女へ視線を戻し肩をすくめる。
学校にはいい思い出が無い。
髪色や身長のせいで虐められるし、友達――ましてや守ってくれるような――はいないし、修学旅行のお金はママ……いや、ママの中にいたカナリアに奪われて学校で留守番することになった。
勉強になんて集中している余裕はなかったからさっぱりわからなくて、それでも授業は進んでいくからもっと分からなくなっていく。
陰鬱で、そんなのがこれからも続くのなら、と高校には行かなかった。
そしてすべてが変わった。
「一年前は絶対にこんなこと考えなかった。でも琉希とか芽衣がいるなら、学校生活も楽しいのかなって……だから、終わったら行こうかな」
出会って、経験して、悩んで、そんな今だからこそ夢が出来た。
なんてことはない、ただ高校に行くだけだ。
殆どの人が当然のようにしてきたことで、ほとんどの人が当然経験することだと思っている。なんてことはないはずなのに、今となってはこんなに遠くて難しい。
吸った息が苦しかった。
それでもふぅ、と何気なく吐き出して、マイク越しに小首を傾げる。
「いや……皆で一緒に絶対行こ?」
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