第266話
カナリアが黙った後、少し気まずそうにしながらも安心院さんが取り出したのは、一丁の拳銃……というには少し大きな銃であった。
「そしてこれが件の
「はえー」
色んな便利機能が満載だ。
「そしてここが着脱可能で……現地でも素早い組み立てが……」
「うん、うん」
「なんとさらに……で! その上……ですわっ!」
ぴかぴかしててつよそう。
途中から何を言っているのかさっぱり理解が出来なくなったので、私は頷くだけの機械になった。
最初は落ち着いた口調であったがどんどん早口になっていくあたり、彼女がこれにどれほど入れ込んでいるかが分かる。
基本探索者は自前の武器と自分の身体、それにスキルだけで戦う。
けれどこの、安心院さんたちが作ったという銃は随分と様々な能力が盛られているらしい。
驚いたことに弾はなく、魔石によって動かすことが可能なようで、現地でいくらでも弾を補給できるというのは便利なものだ。
加えて追尾機能や誤射の防止、身体能力まで上げるというのだから非の打ち所がない。
なるほど、安全面にも配慮しているというのは嘘じゃないようだ。
だがどんな敵でも倒せるというわけではなく、内部へ装填する魔石の限界から、おおよそ五万程度までのモンスターをギリギリ倒すのが限界らしい。
安全装置を詰め込んだ結果性能が落ちてしまったのだと安心院さんは残念そうに語ったが、それでもDランクまでの崩壊に一般人程度の力でも対処が可能というのは凄まじい性能だ。
ふと、かつて安心院さんと対峙した炎狼を思い出す。
以前にも何度か死を感じたことがあったが、あのモンスターはことさら恐ろしいものがあった。
そういえば外に出たら、あいつら複数体を筋肉が薙ぎ飛ばしてたんだっけ……。
確かあいつらのレベルがが五万くらいだったはず。
「本来はもっと説明などに期間を掛けるつもりでしたが、現状手が足りず崩壊が起こる可能性を考慮し。既に各協会支部への手配が進んでいますわ。ここらなら恐らく今日中に届くでしょう。管理は各支部長へ委託、加えて毎晩の報告が義務付けられますわ」
「えっ」
口調も落ち着きやっと終わったかと思いきや、最後に特大の爆弾を投げ込まれた。
「これ……私が管理するの……?」
「支給されるのは二丁だけなので、そこまで手間にはならないと思いますわよ」
いやぁ……今でも割といっぱいいっぱいなのに、こんなの管理してくれなんてちょっと勘弁してほしい。
そりゃ勿論この武器自体は凄いものだし、ダンジョンが無数に生まれた今、どれが崩壊するか分からないのだから必要だろうという考えは分かる。
しかしそれにしても管理の手間が掛かり過ぎる。彼女曰く発信機もついているし、まず紛失することはないらしいが……
「面倒なら管理は私がやってやろう、この世界で開発された魔道具というのにも興味が湧いた」
「……壊さないでよ?」
「多分な」
ということで、本人たっての希望で管理はカナリアに全て放り投げられた。
「それと、決して『アイテムボックス』の中に入れて一日以上放置しないでくださる?」
「え? なんで?」
「簡単に言うと爆発しますわ。違法で持ち運ばれる可能性を考慮して、発信機と共に様々な機能が盛り込まれていますの」
想像以上に盛り込まれていて苦笑いしかでなかった。
◇
「それで、あの人たちは……」
ちらっとあちらに視線を向けると、サングラスの人がピクリと反応してこちらを振り向く。
怖い。
「まあ大方察しているとは思いますが、国の組織に所属する皆さんですわ」
私たちの意見を肯定するように頷く安心院さん。
彼女がここに居たのは偶然……ではなく、この何とかとかいう銃を支部へ届けるため本部に足を運ぶ前、会社のトップへ国からの連絡があったらしい。
事態の報告を逐一行うため彼女もついてきたとのこと。
「私も先ほど知ったばかりなのですが、どうやら一昨日の昼頃に協会本部が隠していた情報を諜報部隊が掴んだようですわね」
「情報?」
「ええ……あまり口にするのは憚られますが、非人道的な研究だそうで。まだ完全に解析が終わったわけではないものの……」
思わず息を呑んだ。
彼女が口を噤む先の言葉は、もはや聞かずとも分かった。
人体実験だ。あちらの世界でもどうやら行っていたらしいとはカナリアに聞いていたが、それに飽き足らずこちらでも同様の事を行っていたらしい。
直接見たわけではないものの、酷い嫌悪感が奥底から湧き上がるのが分かった。
今までの事で散々理解していたつもりだが、相手は本当に、人を人と思っていないらしい。
「でも、そんな事私たちに話してもいいの? 私たちも協会側の人間だし、もしかしたら関係してるかもしれないじゃん」
「いえ、それはありませんわ。見ての通り本部はものけの殻、そしてなにより……その情報、本部のコンピューターから意図的に漏らされたようですの。犯人は間違いなく内部の、それも会長であるダカールに近しい人物」
国の人が情報を拾い集め始めたのが一昨日の昼頃、地震が起こったのも一昨日の昼頃、そしてほぼ同時に彼らの姿はどこにも見当たらなくなった。
「要するにそれって……」
「クレ、いや、ダカールの指示だろう。二度と戻ってくることもないと、こちらを煽るような挑発行為。どこまでも人を虚仮にしたやつだ」
まるで捕まえられるのなら捕まえてみろとでも言うような、悪趣味にもほどがある行動。
協会からの連絡が遅いのも当然だ。恐らく私たちが昨日見た指示などは、全て事前に打ち込まれて定時に送信されるよう予約されていただけのものなのだから。
「……許せない」
苛立ちのままに足を地面へ叩きつけると、一斉に周囲の人の目がこちらへ向き、少しだけ冷静になる。
サングラスの人達までこっちを見ている。
「安心院さん、ありがとう。カナリア、食料貰って早く帰ろう」
自分でも恐ろしく感じるほどの硬い声だった。
きっと、先ほどの手帳だけでも相当なものが溜まっていたのだろう。
頭はぼんやりとした熱に包まれていて、しかしコートの中に入れた指先は驚くほど冷えている。
――ここに居たら、どうにかなってしまいそうだった。
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