第104話

 しばし爽快な爆撃ゲームを楽しんでいたのだが、


「あれ?」


 魔石の供給源小さい花達が尽きた。

 あれだけ一面に咲き誇っていたというのに、今では私の手によって無残に荒らされボロボロになったやつらが、モノ悲し気にいくつか浮かんだり転がったりしているだけだ。

 いうなれば心無い人によって踏みつけられた花畑、或いは連続植物倒壊事件とでも銘打たれそうな光景が広がっている。


 なんだろう……モンスターなはずなのに突然物凄い罪悪感が湧いてきた。

 あれ? 私悪くないよね? 生きてるかも分からないモンスターなんだよね?


 突如として心に湧いてきた良心の呵責、興奮が冷めふと冷静になってしまった人間というのは、どうしてこうも気づかなくていいことに気付いてしまうのだろうか。

 しかし私の都合などモンスターは気にせず……というよりは攻撃の手が止んだからというだけなのかもしれないが、ここにきて漸くゆっくり降下を始めた。


「『鑑定』」


――――――――――――――――

種族 パラ・ローゼルス

名前


LV 3000

HP 70273/90321 MP 3066/5066

物攻 26033 魔攻 36043

耐久 59087 俊敏 3021

知力 21000 運 11

――――――――――――――――


 ええっと、いち、に……2割くらい? 長々と派手にやった割りにはあんまりダメージ入ってないなぁ。

 いや踏みつけて死んでしまうほど弱いモンスターの魔石で二割削れたのだから、相当ダメージが入っている方なのかもしれない。

 まあ自分から降りてきてくれるならこちらも動きやすいけど。


 先ほどの手ごたえからして外の花びらに攻撃しても大した影響は与えられなさそう、か。

 それなら……


「よっと」


 丁度3メートル程度の高さまで降りてきたので、距離をつけ駆けて跳びあがる。

 直径は20メートルはあるかもしれない。足でしっかり上に立ってはっきりと感じるのはその大きさと、鼓動しているかのようにも感じられる振動。

 所々に散らばっている黄色いものは花粉だろうか、先ほどまき散らしていたものもこれなのだろう。それにしても流石の大きさだ、紅く肉厚な花弁はその私程度が飛び乗ってもびくともしない。


 この花で押し花作ってみたい、町のモニュメントに出来ないかな。 


 だが何故だろう、巨大薔薇は花弁の上で歩き回ろうと全く私を振り落とそうとしない、それどころか再度浮遊して愉快な空中旅行まで始める始末。

 こういう時は何か目論んでいるだろうことは既に経験済みだ、簡単に気を抜いていてはいけない。

 一番怪しいのは……花の真ん中、おしべとかめしべとかがあるところだろうか。


 実際既に状況は大きく動いていたし、モンスターによる攻撃は始まっていた……そう、注意がおろそかになった私の足元へと。


「ひゃ!?」


 引きこまれ……!?


 気付いたときには既に足首へ食い込む太く硬い黄金色の触手。それは花びらの隙間と隙間、私の横から巻き付いていた。

 足元を掬われた人を転がすのはなんと容易いことだろう。近くで見れば細かくやわらかな毛の生えた花びらは非常によく滑り、掴む場所のないまま無慈悲に体は引き摺られていく。

 一本、二本、三本……腕を、足を、胴体を動かせぬよう次々に襲い掛かってきては縛り付け、強烈な力で体を花の中央部へと牽引されてしまう。


 嘘、触られた感覚も、巻き付かれた衝撃だって全く感じなかった……!

 現に今だって……まさかこの花粉、麻痺的な成分が……!?


 遅い気付きだが既に体の半分は花の隙間へと入り込んでしまっていて、水に濡れたおかげもあって全身に纏わりつきやすくなった私の身体は既に黄金色へと染まってしまっていた。


「あっ、カリバー……!」


 挙句の果てには意識の隙を突き、右手に握り締めていたカリバーすら巻き取られ、花の中心へ放り投げられてしまう。

 

 くそ、体の感覚が……



 だんだん……なくな……って……








 ないけど問題ない、すごいよく動く。


「あれ?」


 ぶちっ


 ちょっと違和感があったので力を込めて右腕を曲げれば無慈悲に千切れる触手。その瞬間まさか千切れるとは思っていなかったのか、他の触手の動きもピタリと止まった。


 あれ? なんで? 普通こういうのって動けなくなるものなんじゃ……まあいいっか。

 よくよく考えれば私はレベルがこいつより相当高い、転ばされた時はビビったが落ち着いてみれば余裕をもって戦える相手だ。

 ちょっと慎重に考え過ぎたのかもしれない。


 感覚は麻痺しているのだが体は動く、考え方を変えれば痛みを感じないということで、これはある意味利点ですらあるのかもしれない。

 ぶちぶちと触手を千切りつつ外に出れないかと足をバタバタしてみるが、よく滑る表面の影響で逆に体は内側へと飲み込まれていく。

 一度下まで行ってしまって花びらの隙間から抜け出すしかないのだろうか……いや、待てよ。


 確か私が引きずり込まれたのって、花の中心近くだったよな。


「んしょ、よいしょ……っと」


 重く大きなそれを押しのけへしのけ進んでいく。触手が上下から私を捕まえようと巻き付いてくるのだが、無視して引っ張れば容易く千切れてしまうので何の障害にもならない。

 花弁は根元から外に向かって広がるはず、根元へ続く方向をたどって進んでいけば……


「やっぱり! よしよし、今日の私は冴えてる」


 想像通り、突如として広々とした空間が広がった。

 ど真ん中に突き出るのは巨大な柱と、それを囲うように突き出すいくつもの細いそれ。花の中心にたどり着いたのだ。

 そしてその根元にはもう、見るからに弱点ですよと言わんばかりのプルプル柔らかそうな部位。

 ついでにそのわきにはどうぞこれでお殴り下さいませと言わんばかりに、先ほど奪われてしまったカリバーが転がっている。


 これはサンドバッグにしてくださいってことだよね、間違いない。

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