第102話
ダンジョンの環境は破壊されても勝手に治る。
勿論壊された直後何事もなかったかのように復活するわけではないが、数日、或いは数週間、ふと気が付いたときには元通りになっているのだ。
それを利用して産業に活用できないかも考えられているらしいが、内部の危険性などから未だ主流となることはない。
と、まあそういうことは置いておき
「やり過ぎちゃったね……」
そうつぶやいた私へさわやかな風が通り抜け、優しく頬を撫でていく。
山の上の方で見る展望は絶景だ。
普段私たちが見るような森とは様相が随分と異なり、青々とした木々はここから見ても巨大なものだと分かる上、にょろにょろとした謎の巨大な花があちこちに
あれモンスターなんだろうなぁ。
だが何よりよく目立つのは、ここまで続く一直線の巨大な破壊痕。
そう、私と筋肉によって刻まれたものだ。
最後らへんは『スキル累乗』までバシバシ使ってしまったのでMPが半分を切ってしまっている、まあモンスター自体がここは弱いのでそこまで問題ないけど。
いや違う、本当はここまでするつもりなんてなかった。
けどちょっと熱くなりすぎてしまったのだ、私は悪くない。
元と言えば私が草をなぎ倒してあげたというのに、私よりレベルも年齢も上のくせして無駄に意地を張ってスキルを飛ばしたあいつの方が悪いのだ。
「だめだよ筋肉、ちょっとは自重しないとさ」
「なんでだよ! っと、低くしろ」
軽く頭を押さえられ素直にしゃがむと、ヒュンと小さな風切り音。
私の頭があった場所に彼の腕が伸ばされ握られていたのは、手のひらほどはあるだろう蛍光ブルーの
かすかに甘い香りがする。
「あれか」
目に見えぬほどの速度で振られた彼の腕、それから遅れるようにして破裂するような水音が響き、何かの塊が空から落ちる。
「モンスター?」
「ああ、花びらを細く撚って飛ばしてくるらしい。事前に聞いていた色とは違うが、レベルや種族が変わった影響だろう……まあそれはそうとして、このぶっ壊された森を誤魔化すいい案がある」
ピン、とその太い人差し指を立たせ吊り上がる口角。
下種い顔だ。顔面狂気と言っても過言ではなく近くで見れば子供は泣いてしまうに違いないこんな顔をするなんて、よほどとんでもない企みに違いない。
そう、例えば……
「協会の人埋めちゃうの……?」
「埋めるわけあるか! これはボスが暴れたんだ、なかなか強大なやつだった」
「え?」
「これはボスが暴れたんだ、分かったか?」
なるほど。
「よかった……まだ私は殺人犯にならないで済むんだ」
「ったく、アホな事を言うんじゃない。探索者が表でんなこと言ったら大事になるぞ」
「えへ……じゃあ行こ」
「おう」
勿論この山に登って来たのはのんびり森を観察するためではない。
このダンジョンにはいくつかこういった山があるのだが、そのうち一つの頂上丸々がボスエリアとして扱われており、ここはその限界ギリギリ。
一歩踏み入れば抜け出すことは出来ない、生きるか死ぬかの戦いが始まってしまう。
当然適正レベルでの話であり、私たちにとってはまあ大した敵ではないのだろうが。
「じゃあパーティ組むか」
ずいと差し出された片手。
ここのモンスターはレベルも低く互いに大したうまみはないのでパーティを組んでいなかったのだが、ボスエリアに入るとなれば別。
そもそもパーティを組んでいなければ同時に入ることはできない上、筋肉が倒してしまえば彼は外へ転送されてしまい、私だけが置き去りだ。
それはちょっと嫌だ、別に来た道をたどればいいのだけれど。
「あ、ちょっとまって」
と、危ない。
つい癖で他のスキルに掛けた後もすぐ『スキル累乗』を『経験値上昇』に戻してしまうのだが、他の人とパーティを組むのなら外しておく必要がある。
まあ先ほどちょっと『累乗スカルクラッシュ』をパンパカ飛ばしたりしてしまった気がするが、互いに熱中してたし無数にあるスキルを把握しているとも思えないので大丈夫だろう……多分。
別に低レベルのモンスターの経験値、彼からしたらするめのいかだだろうが何があるか分からない。
それに協会の皆に怪しまれるのは嫌だ。
そして数瞬後、彼に聞こえないよう小さく唱えスキルの変更は恙なく終わった。
シダやつやつやの葉が足元を屯す今までの場所とは異なり、ここから見えるボスエリアはどうやら水辺のようでサラサラとかすかに水の流れる音がする。
山なだけありちょっと高いというのもあって先ほどまでのじめじめ蒸し暑い環境から一転、清涼な風が時折吹くのも悪くない。
「行くぞ」
「うん」
ついに私と筋肉、弟子(?)となってから初めての本格的な戦闘が目前へとやってきた。
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