第88話
いったいどんな惨状が広がっているのか、恐怖に顔を固めたまま走り続けた私たちが見たものとは……
ドンッ!!
「えぇ……?」
必死こいて倒したはずな無数の炎狼達が、一匹、また一匹と一撃で空にかちあげられ輝く粒子へと姿を変えていく、あまりに衝撃的な光景であった。
その震源地……? いや、狼花火の発射所? の中心にいたのは、全身筋肉で作られているのではと思ってしまうほど、すがすがしいまでの筋肉だるま。
いや筋肉じゃん、なんでこんなとこいるんだ。
「やりますねあの人!」
「現役は引退したと聞いていたが……未だなお健在、か」
「おお良かった、生きてたか。丁度片付いたところでな、いいタイミングだ」
めっちゃ気軽な挨拶して来るじゃん。
◇
あれから数日。
筋肉曰く、今回のダンジョン崩壊について事前に察知をすることが出来たことで、どうにかモンスターが溢れ出す前に駆けつけることが出来たと。
自分以外にも遠方より救援に来た探索者は多く、家屋の倒壊や様々な被害はあれど、幸い
そしてあの狼、ボスかと思わせといてボス出なかったあいつは、やっぱりボスだった。
本体が無数に分裂してたった一匹で群れを作り上げるモンスターで、私たちが倒したのはその分裂体の一匹に過ぎなかったとのこと。
ちなみに本体は分裂体の中に混じっていたものを、筋肉が気付かぬうちに叩き潰したことで終わった。
伊達さんは精密検査のため休職、安心院さんは壊れた街を復興させるため瓦礫の処理へ駆り出されるとのことで、いろいろ話したいことはあれど一旦私は元の町へ戻ることになった。
私も精密検査するべき?
まあ大丈夫だろう、多分。
そして今、協会に備え付けられたテレビの前で頬杖をつき、ボスを倒したヒーローインタビューをボーっと眺めていた。
『剛力さん、今回の活躍について一言を!』
『今回の敵はかなり手ごわいものだったとのことですが!』
テレビの中にいる筋肉へ、報道陣のマイクが押し寄せる。
『あー、その前に一ついいですか。あ、マイク借ります』
『伊周泰作、大西亜紀、立花咲哉、西村健……今回のダンジョン崩壊にて勇猛果敢に戦い、そして人々のために殉職した探索者達の名です』
『探索者という職業は大変誤解の多い職です。常に武器を携帯し、粗野で、力だけが取り柄の社会でも最底辺に位置する職業……そうお思いになる方も多いでしょう。確かにそういったものもいないわけではない、最後の受け皿として存在するこの仕事へ就くそれなりの事情を持つ者だって少なくはない』
『けれど、彼らのように人々が安心して暮らせるため武器を手に取り、そして身を張って戦うものもいるということを忘れないで頂きたい。一人では決して今回のようにうまくは行かなかった、探索者だけではない、戦闘能力を持たない一人一人も協力して初めて得られる結果なのです』
「ものすごいカットされてるね」
現場にいた私だから分かる、本当はもっとずっと長く語っていた。
三分の一以下だ、これはひどい。
いつの間にか横に座ってコーヒーを啜っていた筋肉が口を開く。
「まあいつもやってるからな」
「いつもやっていつもカットされてるの?」
「おう」
「意味ないじゃん」
「意味はあるさ。このニュースじゃ全部流してくれなくとも、フルバージョンはどっかで流されてるんだから」
カップの中身を軽く啜り鼻を鳴らす筋肉。
彼なら既に名声だって、金だってきっと腐るほどある。
わざわざこんな反感を受けるようなこと言わずとも、適当に謙遜でもして称賛を浴びていればいいのに。
「強いやつが理想を語らないと、誰も理想なんて言えなくなっちまうだろ」
ふぅん。
「自分で強いっていうんだ」
「事実だからな」
「剛力さん、本部からの通達届いてるんスけど」
後ろから来たウニに頷き、奴は立ち上がると
「ああ、これ猫につけといてくれ。ボスが落としたんだよ」
私の前に一つの首輪を置いて去っていった。
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