第55話

「『鑑定』!」


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 名称 カリバー(フォリア専用武器)


 スキル

 不屈の意志

 巨大化


 逆境を乗り越え、運命に抗うと決めた少女の武器

 彼女が歩みを止めぬ限り、この武器は傍へ寄り添い

 続けるだろう


―――――――――――――――――――――――


 カリバーの新スキルは、あまりに単純なものであった。

 どこまで行っても文面通りの意味にしか受け止められない、大きくなるだけ。


 どうやらMPを消費することで、縦横太さ好きなように変形できるらしい。

 変化量に応じてMPの消費も変わるようなので、木の上に何か引っかかったなどであれば、まあ使えなくもなさそう。

 しかし思っていたのはこう、なんというかド派手なイメージ、例えば魔法剣ならぬ魔法バットとか……だったのでちょっと拍子抜け。


 まあそう使いにくい能力よりかは、こういったシンプルなのも悪くないのかな。


「ふーん……『巨大化』っ!?」


 取り敢えずすべて三倍くらいにしてみるかと、軽い気持ちでスキルを発動した瞬間だった。

 重力が突然横方向に発生し、体が無理やりに引きずり込まれた。


 ガンッ!


 返ってきたのはやたらと重くなり、腰が抜けたかと思うほどの衝撃。

 太くなったカリバーの先が地面へめり込み、持ちづらくなったグリップを取り落としてしまう。

 焦り、動揺。

 今の私はきっと、ひどく滑稽な顔をしているだろう。


 ちょっと待って、ホンマに重い。


 落ち着いて拾ってみれば、流石レベル四桁を超えた身体能力、そこまで苦労なく持ち上げることが出来た。

 しかしながら重いものは重い。子供用金属バットとは言った何だったのか、恐らく一キロもない程度であったはずのカリバーが、今じゃ数十キロはあるんじゃないかと思うほど。

 特に元々先っぽの方が重かったのもあって、グリップを持つくらいならまだしも、持ち上げて『累乗ストライク』を振るとなれば肩がぶっ壊れそうだ。


「ふぬぬ……っ! しょあーっ!?」


 試しに振ってみたが、これがまたアホかってほど重い。

 全力で踏ん張っているのに体がもっていかれる。

 振り回される役目はどっちだって話だ。あーだめだめ、中止中止。


 軽く嘆息。

 さっくり元の大きさに戻し、カリバーを『アイテムボックス』へ戻す。

 ちょっと冷静になって考えたら、めり込んだ状態でも触って、小さくさせてから拾いなおせばよかったなこれ。


 どうやらこれ、大きさだけでなく質量自体も相応の物になっているらしい。

 一体どんな仕組みだ、どっからその質量は来たのかがさっぱり分からないぞ。

 大きくなるだけなら谷の先など、遠くの物を突くなどに使えたかもしれないが、ここまで重くなると厳しい。

 遠くの物を突く前に取り落として、川だとか溶岩に流されていきそうだ。


 そういえば紛失した場合って、専用武器はどうなるのだろう。


 考えたことがなかった。

 はたして忠犬カリバー公として戻ってくるのか。実験は失敗した場合のダメージが大きすぎて、全くやろうという気にならないが。



 大まかにスキルなどを調べ終えた後、私は適当にダンジョンを進んでいくことにした。

 別にダンジョンを舐めているわけではないが、今のレベルはFランクの適正上限である500を、既に1000以上超えている。

 ちょっと探索するくらいなら、別にさほど問題ないだろう。


 うーん、まずい。


 ポイポイと希望の実を口の中へ放り込み、久しぶりの絶望的な不味さを堪能する。

 舌が痺れるほど渋く、涙が出るほど酸っぱく苦い。その上喉の奥底から湧き出す青臭さまであるのだらなぜここまで不味いのか理解が出来ない。

 たとえ気が狂った人間でも、これを一つ口に放り込めばすぐに正気を取り戻すだろう。


 まああまりの味にやられて、さらに頭がおかしくなるかもしれないけど。


『ブルルルルッ! フンッ!』


 ぼけっと歩いていると、オークとばったり出会った。



 こんなに恐ろしい奴、世界に存在しないなんて思っていた時もあったなぁ。

 風を斬り、猛烈な音を立て襲い掛かる石斧を見て、のんきな感想。


「でも……もう私の方が強い」



 希望の実をパキ、とかみ砕き喉で笑う。



 常人をミンチへ変えるような攻撃も、あの騎士の一閃と比べれば赤子とさして変わらない。

 ヤクザキックで合わせれば斧はへし折れ、そのままオークごと壁へと叩きつけられる。


 おらおらー、かかってこいやー


 以前来た時ですらさほど苦労しなかったのだから、今戦えばなおさらだ。

 カリバーを使うまでもなく、パンチやキックだけですべて倒していけるのだから、レベルアップの恩恵は計り知れない。



 振られた剣を二本指でキャッチしてどや顔をしたり、ステップで背後に回って頬を突いたりして遊びつつ、ダンジョンの奥底へと降りていく。

 そして潜り始めてから二時間。

 疲労感など全くないまま、私はボスエリアである巨大な扉の前で軽くストレッチをしていた。


 落葉ダンジョン、ちょろいぜ。

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