第54話

 剣崎さんと相談、と言うにはあまりに進展がなさすぎるそれをした後、そのままホテルへ直帰……してカリバーだけを回収、落葉ダンジョンへと向かう。 することは勿論新たなスキルの習得と、カリバーの新スキルの確認。


 本当はすぐにでも確認したいのだが、あまりに強力過ぎたり派手だった場合街中で使うのは厳しい。 勿論協会の裏で軽い運動だとか、バーベキューで火をつけます程度なら問題ないが、建物を壊したりした場合速攻でしょっ引かれるだろう。

 一人一人が強大な力を持ちうる以上、結構探索者の扱いは厳しいのだ。


 本当は希望の実集めで花咲へ行きたかったが、どうやら調査で人が多く来るらしい。

 あまりに人が多いところは苦手だ、疲れるしうるさいから。


 真昼間に一人でぶらぶら歩いていると、相変わらず街には人が少ない。

 琉希もそうだが若者は学校へ、社会人は会社へ。 ダンジョンが生まれようと大衆のルーチンワークはさほど変わることがなく、皆『普通』を『普通』に許容して生きている。


 つい数か月前まで己自身がそこに組み込まれていたのに、気が付けば私という歯車は世間から外れ、一人、奇妙な体験と共に転がり続けている。

 いったい私はどこまで転がり続けるのだろう。

 そしてその転がり続けた先に、一体何が待ち受けているのだろう……何も分からない、何も見えない。


「ふぁ……」


 大きく背伸びして、全身の筋肉を伸ばす。

 今日も快晴、ぽかぽかと暖かい。


 いくら考えたって分からない物は分からないし、似たような悩みを持つ人間は、それこそ何千年も昔からごまんといる。

 そんだけの人が考えておきながら、いまだに人生でこういった悩みが出たら、必ずこうしなさいなんて大衆に受け入れられた結論は存在しない。

 つまりこれまでの道に、そしてこれから私が進む道に正解なんてものは存在しなくて、きっと何度も悩み続けて探っていくことになるのだろう。


 まあしいて言うならあれだ。

 ケセランパサラン。



 快晴だといった直後にダンジョンへ潜るのはどうなのだろう。

 そんな私のポケットは拾った希望の実でパンパン、こうもぎっちり詰まっていればまともに動くことすら支障が出る。


 ……このままでは、ね。


 私がリュックを背負ってきていないのには、これも多分に関係している。

 昨日のダンジョン崩壊、その過程では私は四桁一気にレベルアップという、誰が聞いても驚愕するであろう躍進を遂げた。

 それによって私は、なんと2000ものSPを入手している。

 

 ここまで言えばもうわかるだろう。

 そう、私が入手するのは……


『スキル アイテムボックス LV1 を獲得しました』


「おほー」


 ポケットからばっさばっさと希望の実を取りだし、空間にできた揺らぎへ叩き込んでいく。

 左右のポケットに詰まっていた希望の実、その全てを叩き込んでもまだ入る様子。

 調子に乗ってカリバーを突っ込んでみれば、残念ながらこれは無理な様子。

 壁へ押し付けているような違和感が返ってきて、どんなに強く押し込んでも進むことはない。


 しかしこりゃ便利だ、魔石もこれならある程度入りそうだし。


 あまりの便利さに感動した私、ちょっと悩みこそしたが、残っていた1500ポイントも使って『アイテムボックス』をレベル3にまで上げてしまう。

 『スキル累乗』も率先してあげたいところだが、あまり上げ過ぎてもそこまで攻撃力が必要ない。

 白銀の騎士戦でも何度か『累乗スカルクラッシュ』『累乗ストライク』を使ったが、正直身体が結構ヤバい状態になっていた。


 下手したらスキルを使った瞬間、体が真っ二つに千切れてしまうかもしれない。

 レベルアップによる恩恵で強靭な体になっているとはいえ、ストライク走法、もとい自殺ダッシュ同様、スキルの使い方によっては身体を痛める。

 さらに『累乗』なんてしていった先には、冗談抜きで……今後はある程度、慎重にスキルのレベルを上げていく必要があるだろう。


 いやな想像をしたところで頭を振りかき消し、レベルを上げたアイテムボックスに意識を向ける。


 再度カリバーを入れてみれば、今度は何とか丸ごと入ってくれた。

 しかし希望の実とカリバーでやはり限界、これ以上は入らないらしい。

 琉希がいるときは回復魔法でどうにかなるが、ソロの時はやはり傷口を抑える布などが欲しいので、リュック自体はまだ必要そうか。


 しかし動き回るとき、リュック内の魔石が動いたりしてまごつくこともあったし、魔石を持たないだけでも相当行動しやすいな。


 SPをつぎ込んだ価値はあった。

 これには私も勝利を確信、納得のガッツポーズ。

 今後はおやつついでにケーキを、アイテムボックスに入れて持ち込むのもありかもしれない。


 アイテムボックスへ突き込んだカリバーだが、再度引っ張り出す。


 軽く素振り、相棒、私、共に調子は上々。

 相変わらず新品同様、傷一つない美しい金属バットだ。

 よしよし、ういやつめ。前々から考えていたが今なら余裕があるし、あとでスポーツ道具店にいって拭く用の油買ってやるからな。


 さて、探索者を始めてからずっとそばにいた相棒だが、先日の戦いでなんかスキルを獲得しただとか聞こえてきた。

 確かにカリバーは壊れないというだけで強力だが、騎士の剣の強力な効果を見た後だと、やはりちょっと物足りない感はある。

 今後戦い続ける中で何の能力もない武器を振るうのは、拳を痛めにくいなどそりゃ素手よりはましだが、流石に勘弁してもらいたい。


 そんなタイミングで新たなスキル、これはもはや天命といっても過言ではない。

 神が私に、カリバー一本で戦い抜けと言っているようなものだ。


 ふふ、私のために進化するなんて、お前もなかなか献身じゃないか。

 さあ見せてみろ、お前の新たな力を!


「『鑑定』!」

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