pieces pieces

瑞野 蒼人

本編

吾輩:吾輩の名前はジグソーパズルである。長い夏休みの暇つぶしにこの家の主人が買ってきた、ジグソーパズルである。しかし、私には重大な欠陥があった。…最後の一ピースが行方不明なのである。


ナレーション:ショートラジオドラマ「pieces pieces」


吾輩:この夏、私の主人である彼女は、何を血迷ったか、夏休みにジグソーパズルに挑戦すると言い出し、4000ピースもの超大作である私を買ってきた。


女:という訳で、さっそく並べていこうと思いま~す!!


吾輩:しかし…だ。


女:あーもう全然わかんないし!っていうか、これピース足りなくない?そもそも角のパーツどれよ?疲れた。寝よ。


吾輩:この体たらくである。結果、まるまる一ヶ月をこのジグソーパズルに費やし、そして今日ようやく、最後のピースが足りないことに気付いた。


女:なーんでここだけ足りないの~?おかしいな~?


吾輩:そもそも私には、彼女が普段どんな仕事をしているのか、まるで見えていない。「ユーチューバー」という謎の言葉だけは盛んに発していたため覚えたのだが、大皿いっぱいのカレーライスをひとりで平らげたり、酒を飲んでクダを撒いたり、毎日毎日よくわからない行動ばかりしている。私には、ただただだらしのない女だという印象だけが残っていた。


女:あーお腹いっぱい。もう動けない~


吾輩:吾輩が語っている間に、いつの間にか飯を食ってたようだ。吾輩より食欲が大事なようだな。


女:うわ~最後のピース全然見つかんないわ・・・あーあ、これじゃ動画の締め切りに間に合わないよぉ。せっかくやるって言ったのになぁ。


吾輩:ん?締め切り?


女:皆さんにね、普段はズボラで根気がない女だっていつも言われてるから、挽回してやろうと思って、それでこれに挑戦したのに。これじゃ有言実行できないじゃ~ん。どうしよう…


吾輩:そうか…そんなことを。


女:お願い~頼むよ~出てきて最後のピース!


吾輩;…馬鹿にする人間を見返してやろうとしているのか。理由がどうであれ、信念を持って吾輩を作ってくれていたのであれば、悪くはないのかもしれないな。それなら、吾輩もこの家に来てよかったと、少しは思っていいだろう。


女:あっ!!見て!?


吾輩;おっ、見つかったか?


女:最後の一個化粧ポーチの中に入ってた!!なんでぇ?


吾輩;…まあ、場所はともかく、これでようやく吾輩が完璧な姿になった。


女:イエーイできたぁ!!はい、それではこれで完成したので~~


吾輩:…ん?何をするつもりだ?


女:お約束どおり、一瞬でバラバラに破壊したいと思いま~す!ドーン!わ~努力が水の泡~!(爆笑)


吾輩:…やはり吾輩は、この家に来るべきではなかった。


[完]

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