02作品目

02話.[いよいよ終わり]

　今日も私の席が占領されている。

　主にクラスメイトに、たまに橋口兄に。

　だから今日も廊下で過ごす、席ぐらい譲ってやるよ。

「あ、こんにちは」

「うん、こんにちは」

　前髪をもうちょっと切ればいいのにって思う。

　だってすごい優しい目つきをしている、それは家のときに確認済みだ。

　１番はもちろん、幸ちゃんを見ているときのそれ。

　仲良くなれば同等とまではいかなくても、似たような感じで見てくれるだろうか？　

「梓はどんな女子がタイプなの？」

「うーん、静かな感じの子がいいかな」

「そうなんだ」

　静かか、なんからしいな。

　きっと橋口みたいなタイプがいいのかも。

　ま、まあ、本人は森川さん推しだけどそういうタイプがいいってこと。

　私はテンションが上がると騒ぐから駄目だ……。

「でも、とりあえずは幸が大きくなるまでそういうのはいいかな」

「どいつもこいつももったいねえ！」

「えっ」

　なんでだよ、勝手に来てくれてチャンスは多いのに。

　こちらがいくら頑張ったって逆に人が周りから消えていくだけなのに。

　そんなのは自由だってことは知ってるよ、でも、贅沢がすぎる。

「話してくれてありがと」

「うん」

　ま、関係ないよなと内心で呟いた。

　なにをどうしたって人生が急に変わったりしない。

　さて席は――まだ占領されているようだ。

　本田は自分の席、橋口と森川は珍しく教室で会話中と。

　……それを積極的に邪魔しようとしているのが橋口兄と、駄目だな。

　というか、なんのために梓は来たんだ？　橋口兄を回収するためならしていってほしかったんだけど。

「ちょっとあんた」

「お、やっと帰ってきたな、おかえり綾野！」

「うん、ただいま――じゃなくて、妹の邪魔をするのはやめてあげなよ」

「邪魔しようとしていたわけではないんだが……そうだな、そうしよう」

　ああ、これでやっと席に座れる。

　なんだかなあ、なにも代わり映えしない毎日を送れるだけで幸せだけどさあ、なんか少しぐらいは求められたかった。

　だってこれまでずっと求めて動いてきていたんだからさ、たまにはそういうのがあってもいいじゃん？

　周りがまだ同性なり異性なりと付き合ってくれていればまだ良かった。

　なのにどいつもこいつも口を開けば興味がないだの、興味があるくせに現状維持しているやつらばかり、やってらんねえよこんなん。

「吉野さん、少しいいですか？」

「うん、なに？」

　話しかけてきたのは森川。

　橋口妹――茉奈が睨んできているから本当は良くない。

「前回は全然お話しできなかったので今度またどこかに行きませんか？」

「別にいいけど」

「その場合は梓先輩もいますから」

「へえ、じゃあこの橋口兄も？」

「そうですね、いっそのことみんなで行くのも楽しそうです」

　彼女は本田の方を見て「晴美さんも一緒に」と言う。

　それなら結局話せなくなるだろうけど気にせず了承した。

　私の予想的に、森川、本田、茉奈の３人で会話し、真人と梓はふたりで会話しつつ行動するような感じがする。

　私はその１番後ろをひとりで眺めながら歩いているみたいな、うんまあそんな感じで。

「ねえ、あんたは誰が好きなの？」

「と、唐突ですね」

　別に答えたくないなら答えなくていいと伝えた。

　頼むから誰かを好きであってほしい。

　普段あれだけ男子といるんだから少しぐらいはあってもいいはずだ。

「そうですね、ここでは言えません」

「じゃあ今度遊びに行ったときに教えてよ」

「分かりました」

　面倒くさいことになってしまった。

　なんでそんななんも進展のないことに休日を使わなければならないの。

　それだったらまだぼけーっと家で過ごしていた方がマシというもの。

　了承した私を叩きたい、だから頬を張ったらかなり痛かった。

「ふふ、面白いことをするわね」

「褒めていただきありがとうございます」

　いまからうへぇとなるそんな約束してしまったのだった。

　私はいま猛烈に帰りたかった。

　予想と全然違って私以外全員が盛り上がってしまったからだ。

　珍しく茉奈が饒舌なのも影響している、梓だってへらへらしていた。

　しかも土曜日ではなく日曜日という週最後の癒やしどころか、もう次週と言っても過言ではない曜日に出てきてこれ、消えたい……。

「次はどうしましょうか」

「そろそろ腹減ったから飯でも食べに行くか」

「いいね」

　それでも中心はあくまで森川か。

　すごいな、それでいて嫌な感じはしないもんな。

　さり気なく引っ張り出してくれるというか、あんまり自分の気持ちを吐露したりできない人間にとってはいい相手かもね。

「あ、僕がカレーでも作ろうか？　それならみんなの負担も減るだろうから無駄ではないよね？」

「お、それなら幸を見に行くかな、晴美と香子もいいだろ？」

「「私は大丈夫ですよ」」

　敬語組が同意したことでそうなった。

「なんで私と綾野には聞かないのよ」

「まあいいじゃん、お金がかからなくて済むなら」

「あなたは帰ろうとしていたわよね」

　自分でも驚くぐらい協調性がないんだと分かったんだ。

　でも、気分を悪くさせるぐらいならって考えて離脱を考えるのはまだいいと思う。質が悪いのは無自覚で空気を悪くするやつだから。

「あなたはどうするの？」

「うーん」

　茉奈を見たら「好きにしなさい」と口にし歩いていってしまった。

　少しずつ距離ができ始める、友達じゃないからと片付けて反対方向へと背を向けて歩き出した。

　幸ちゃんに会えなかったのは少し残念だけどしょうがない。

　帰っている途中、なんか頭の中が妙にごちゃごちゃしていた。

　なんでも恋愛脳でしか捉えられなくなったら終わりだろう。

　これからも似たような思考になるのは明白で、けど、こんなことを繰り返せば誘ってくれなくなるのは普通のことで。

　せっかくできた小さい芽すら自分で摘んでしまっているということ。

　ひとりぼっちは嫌だという気持ちと、どうせ一緒にいてもなにも変わらないならひとりでもという気持ち。

「危ないよ」

「え、あんたなんでここにいんの？」

「だってスーパーはこっちだから。あんなことを言っておきながら食材とかなかったからね、いまから買いに行こうとしていたんだよ」

　梓の家のすぐ近くにスーパーがあるのにわざわざこんなこと。

「あんた格好いいと思ってんの？」

「え、いや、こっちのスーパーをいつも利用しているんだ、食材とか値段がちょっと違うからね」

　あ、そう……なんか恥ずかしいじゃんか。

「それよりもう帰っちゃうの？」

「うん、つまんないし」

　こんなことのために貴重な休日を使うとか馬鹿らしい。

　つか森川も森川だ、あんなことを言っておきながら１度も話しかけてきてなんかいないんだから、茉奈や梓と話して楽しそうにしていただけ。

「吉野さんがそう言うなら仕方がないね、無理して引き止めておいたって君が嫌な気分になるだけだろうし」

「逆だよ逆、みんなが嫌な気分にならないように去ってあげたんだよ」

　なのに梓が来て台無しだ、引き留めようとするのではなくてでも。

　私はひとりが嫌だ。

　でも、同情されたり、気を遣われるのが嫌だ。

　放っておいてくれればいい、もう持病のようなものだから。

「残念だな、幸も会いたがっていたのに」

「幸ちゃんにはごめんって言っておいて」

　幸ちゃんが求めてくれてもなにも始まらないんだ。

　私は彼氏が欲しい、いや、とにかくいまは仲良くできる男友達が。

　私はこいつらと違って贅沢を言っていられないからがむしゃらにやるしかないんだ。それなら無駄なことに時間を使っている場合じゃないでしょという話。幸ちゃんには申し訳ないけど。

　が、あれだけ動いてなんにもなかった自分のことだ、したくなくても現状維持するしかない。学業の方が優先とかって言い訳はしたくないが、嫌でもそうするしかないんだ。

「早く行きなよ、スーパーへの道はそっちでしょ」

「今度僕に時間をくれないかな？」

「は？」

　私の時間を渡したところで興味がないんじゃなんにも意味がない。

　残念だけど絶対に振り向かせられるなんて自信はもうないんだ。

　それはあのふたりが同じクラスになった時点で打ち崩されてしまっている。容姿だってよく見てみたら平凡もいいところだったぐらい。

　それ以外のことを全く磨いてこなかった私にとっては致命傷だった。

「幸も連れてさ、どこかに行こうよ」

「それって３人で？　兄妹だけで行ってくればいいじゃん」

「幸が吉野さんにも来てほしいって」

「つまりあんたからすればどうでもいいってことじゃん」

　連絡先だって交換したのになにも送ってこないし、スマホに無駄なデータが増えただけ。これほど虚しいことってないだろって笑ったけど。

「意見は変わらないよ、幸ちゃんにごめんって言っておいて」

　あんまり知らない人間に懐くようになったら良くないから正しい対応だろう。それに仮に出かけるのなら私と幸ちゃんだけで行くわっ。

「あんたって空気読めないとか鈍感とかって言われてそうだよね」

「幸い、言われたことはないよ」

「あっそ、それじゃあね」

　八つ当たりする方が馬鹿だったからまた張っておいた。

　中身まで残念になったらいよいよ終わりだ。

　そして私は中身も残念だから、終わっているから求められないんだ。

「くそぉ」

　むかついたからゲームセンターで全部お小遣いを消費した。

　うん、虚しさと楽しさと新鮮さとすっきりとした感情が混ざって混乱中だが、家に帰ってなにもしていないよりかはマシなはずだと片付ける。

「おい綾野、お前もうちょっと考えて金使えよ」

「あんたなんでいんの？」

「そりゃお前が勝手に抜けるからだろ、気になるだろうが」

　自分以外だけで盛り上がっていなかったら私だって協調性を見せた。

　が、実際は違くて、休日でも森川が中心だったから気になったのだ。

　負けは認めるよ？　勝ててるところなんてなにもない。

　でもさ、休日にまでその勝者感を見せてこなくても良くない？

　多分無自覚でやっているんだろうけどさ。

「お前、彼氏が欲しいんだってな」

「これぐらいの女なら普通の思考でしょ」

　なんなら最近は小学生から付き合うやつらだっているって聞く。

　付き合えていない＝負けではないけれど、やっぱりなんか嫌なんだ。

「そんなに恋愛っていいもんか？」

「はいはい、どうせあんた達には分からないよ」

　求められない人間の気持ちなんて。

　その証拠に、こちらだって求められる人間の気持ちなんか分からない。

　このことについて話したって意味ないんだ、延々平行線だ。

「なるほどな、俺らがこういう態度だからなおさらってことか」

「実際興味ないの？」

「誰かとって考えたことはねえな、おまけに女子は怖いからな」

　私も森川や茉奈を怖いと思っているから間違っていないかな。

「ま、興味があるなら頑張ってみればいいんじゃね？」

「そうだね」

　頑張ってみた結果がいまなんだけど。

　そりゃ他人は頑張れぐらいしか言えないよな。

　しかも出会ってからすぐのやつにそんなこと言われても困るだろう。

「ふーん、なんか意外だな、お前が恋愛に興味があるって」

「私も一応女だから」

　私如きがと馬鹿にしたいならすればいい。

　悪く言ってくれれば心置きなく関係を切ることができる。

　この中途半端、変なことから始まった無意味なものを。

「や、香子と茉奈を見てると余計にそう思う」

「あのふたりが特殊なだけでしょ」

　結局両思いでした～とか普通にありそう。

　本田にはまあ、諦めて他を探してもらうしかない。

「お前って面倒くさそうだからな、男を紹介してもこんなのタイプじゃないとか言って放置しそうだからできないんだ」

「向こうにだって選ぶ権利があるように、こっちにだってそういうのはあってもいいでしょ」

　なんで自分ばっかりが我慢しなければならないのかという話になるし。

　そこまでしなくちゃできないということなら諦めて一生ママとパパと平和に暮らしていくよ。何回も彼氏は云々、結婚しないのか云々を言われるだろうけど、ある程度どころかほとんど全て我慢を強いられるよりかはマシだしね。

「つか、頼んでないし」

「なら助かるわ、友達を売るようなことはしたくねえからな」

　私の扱いどうなってるんだよ。

　そんなに嫌なら来なければいいのに。

　好き好んで面倒くさいやつのところに来ている人間がそれ言う？　って話にしかならないぞ。

「あんたはもうちょっと女心を分かった方がいいんじゃない？　だから毎時間女子に追われるんだよ」

「お前ほど恋愛脳で生きていないからな、それとこれとは違うんだよ」

　やめよう、これ以上は自分が虚しくなるだけだ。

　恐らくこのままだと負けて、私が怒鳴って、でもあくまで向こうは冷静のままでぐちぐち言われて終わるだけだし。

「もう行くよ」

　どうせ家はすぐそこだから走るまでもない。

　なにより走ったりなんかしたら負けたみたいじゃん？

　いいよ、好き勝手言ってくれればさ、動くことはできないんだから。