第145話作戦会議?

 それから一週間が過ぎ……終業式の日を迎える。


「おい、お前ら。ある意味で最後の冬休みだからって羽目を外すなよ? こっからの行動は内申点に影響されるからな。補導てもされてみろ、これまで頑張ってきたものはパァだぜ」


 まあ、来年は受験生だからな。

 実質、高校生活最後の冬休みってことか。


「不純性異性行為とかな?」


 真兄は、博と黒野を睨みつけている。


「は、はいっ!」


「も、もう」


 クラスの皆は、どうしたんだ?という表情を浮かべていた。

 おそらく、俺と綾以外には。






 その帰り道、やはり話題となった。


「ふふ、先生ったら」


「博のやつ、完全にびびってたぞ」


「でも、無理もないよね」


「まあ、俺が真兄の立場なら……ハァ」


「もう! 元気出して!」


 綾には電話で話してある。

 啓介がうちに来て、妹と良い感じになっていたということを。


「しかし……」


「そ、それに……ここに可愛い彼女がいるんですけど?」


 そう言い、腕を絡めてくる。


「珍しいな?」


「えへへ、ダメかな?」


「いや、可愛い。そうだな、自分が彼女とイチャイチャしてるのに、それを人にダメだというのはいけないな。真兄にも言ってやろう」


「弥生さんと上手くいってるみたいだよ?」


「そうなのか? なんか、昔から女の扱いは上手くないイメージだが……」


「それが良いって」


「なるほど……まあ、弥生さんはモテただろうしな」


「むぅ……」


「いや、今のは一般論ですから。だから、これ以上押し付けないでください」


「えへへ、冬馬君可愛い!」


「勘弁してくれ……」


 だがまあ……綾になら翻弄されるのも悪くないと思うのだった。






 折角なので、そのままデートという流れになる。


 というよりは、作戦会議いうか、例の日についてとか。


 ひとまず、久々に喫茶店アイルに入ることにする。


「おや、いらっしゃいませ」


「マスター、ご無沙汰してます」


「こんにちは」


「いえいえ、来たいときに来てくだされば良いのですよ」


「ありがとうございます」


 こう言ってもらえると、こちらとしても楽だよなぁ。

 俺も教師を目指す以上、こういう余裕もつけていかないと。




 注文を済ませたら、話し合いである。


「えっと、ク、クリスマスは一緒にいられるんだよね?」


「お、おう」


 二人して、なんだが気恥ずかしくなってしまう。


「あと、 一週間もないもんね。ど、どうしよう? 何をしよう?」


「ずっと考えてはいたんだけどなぁ。遊園地はこの間も行ったし、ボウリングやカラオケとかは普段から行ってるし……」


「それでも楽しいよ?クリスマスに一緒にいられるなら、なんだって特別だもん」


「綾……そうだな。クリスマスだからって、何か特別なことをしなくちゃいけないわけじゃないか」


「あ、あの、その、クリスマスは……」


 小声で恥ずかそうにしている……ああ、そういうことか。


「安心?していい。その日は、そういうことはしないから。まあ、普通のカップルで言えばタイミングが良いっていうんだろうが」


「そ、そうだね!」


「とりあえず、綾のお父さんに挨拶してからだな。でないと、堂々と会えない」


「冬馬君……えへへ」


「うむ、良き男になりましたな」


「マスター、そうですかね……」


「ええ、今時の若者には珍しいタイプでしょう。もちろん、お嬢さんも。それがかえって良いのですね。まるで、昭和のカップルのようです」


「「なるほど……」」


 妙に納得させられる話だった。

 確かに、俺と綾は今時っぽくないかも。


「おやおや、息ピッタリですな。邪魔をして申し訳ないですね、ではごゆっくりどうぞ」


 紅茶とケーキをおいて、マスターが去っていく。


「さて、いただくとするか」


「うん!」


 二人で紅茶を飲む。


「「ふぅ……」」


「「あっ——」」


「やれやれ……」


「えへへ……」


 綾との時間は楽しいし、ドキドキする。

 しかしそれ以上に、安らぎを感じる。


「じゃあ、特に決めなくてもいいか?」


「うん……あっ——」


「うん? どうした?」


「やっ、やっぱり遊園地でも良い? 」


「良いけど……何処のだ?」


「その、初めてのデートといいますか、冬馬君が告白してくれた場所……」


 確か、浴衣姿で花火を見た場所か……。


「なるほど、あそこか。そういや、アトラクションは乗ってなかったな。じゃあ、そこに行くとするかね」


「うんっ!」


「あとは、親父さんに挨拶か」


「確か、年末の30日に帰ってくるって。それで、五日に戻るって……いつにするの?」


「そうだな……一月の二日か三日が良いか。許可を得るために、とりあえず綾と……いや、良いか」


「な、なぁに?」


「いや、あんまり作戦会議しても嘘くさくなるかなと。自然に構えて、そのままの状態を見せれば良いかも」


「うーん……そうかも。つ、つまり、イチャイチャすれば良いってこと?」


「いや、逆じゃね? そんなことしたら、俺は生きて帰れる自信がないぞ?」


「うぅ……どうしよう? わたし、テンパっちゃうよぉ」


「安心しろ。とりあえず、俺が話すから。その、あれだ、認めてくれるまで何度でも」


「えへへ、嬉しい……」


 アブナイアブナイ……危うく、作戦が漏れるところだった。


 よし……覚悟を決めろ。


 勝負は、クリスマスの当日だ。

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