第146話遊園地は兄弟と姉妹で

 終業式を終え、それから三日間はバイトに励み……。


 いよいよ、クリスマスイブの日を迎える。




「ほれ、行くぞ」


 昼飯を食べ終え、出かける準備を済ませる。


「い、いいのかな? 邪魔じゃないかな?」


「綾はそんな女の子じゃないさ。それに、俺だってお前を邪魔に思うわけがないだろうが」


「お兄……えへへ、仕方ないな〜。ブラコンのお兄に付き合ってあげます!」


「へいへい、ありがとうございます」


 当初の予定を変更して、クリスマスイブのデートはそれぞれの兄妹を連れて行く。

 あの後、家に帰ってから気づいた……今日が平日だということに。

 うちは母親がいないし、親父は仕事で帰りが遅いし、麻里奈はまだ中学生だ。

 いつもは俺が一緒に過ごしていたからな。


「綾ちゃんの弟さんもくるんだよね?」


「ああ、一回あったろ? お前はお姉さんなんだからしっかりしないとな」


「わぁ〜楽しみだなぁ。あの子、可愛かったもん」


 綾も帰ってから気づいたらしい。

 お母さんも仕事だし、お父さんは転勤、いつも綾が一緒に過ごしていたと。

 小学生だし、放っておくわけにはいかないしな。







 というわけで、待ち合わせ場所の駅に向かう。


「兄ちゃん!」


「おっと……でかくなったな?」


 走ってきた誠也を抱き上げる。


「ほんと!?」


「ああ、出会った頃より成長したな」


「にいちゃんみたいになれる!?」


「きちんと規則正しく生活して、好き嫌いをなくせばなれるんじゃないか?」


 俺は175センチだから、別に特別大きいわけではないし。


「ほら、誠也。先に挨拶でしょ? 麻里奈ちゃん、こんにちは」


「綾さん、こんにちは。今日はすみません」


「ううん、謝ることないよ」


「こ、こんにちは!」


「こんにちは、誠也君。今日はよろしくね」


「ふふ、誠也ったら照れちゃって」


「お、お姉ちゃん!?」


「安心しろ、誠也。精神年齢はお前とほとんど変わらん」


「お・に・い?」


「わ、悪かった」


「にいちゃんが押されてる……すげぇ」


「冬馬君、いこ」


 全員で電車に乗って、遊園地に向かう。







 遊園地に到着し、まずは散策をする。


「わぁ……何気に楽しみかも」


「お前も、来るのは久々か?」


「お母さんが死んでから来るの初めてかも」


「それもそっか……すまんな。俺が連れて行ってやるべきだった」


「べ、別に……お兄は、ちゃんと遊んでくれたし」


「ふふ、麻里奈ちゃん可愛い」


「あ、綾さん!」


「よーし! 今日は私がお姉ちゃんです!」


「えっ、えっと……お、お姉ちゃん」


「はぅ……冬馬君、これもらってもいい?」


 麻里奈を抱きしめながら、そんなことを言っている。


「おい? 小百合みたいなこというなよ」


「にいちゃん!」


 満面の笑みで誠也が抱きついてくる。


「へいへい、にいちゃんですよ」


「じゃあ……今日は兄弟と姉妹だね!」


「わ、わたし……お姉ちゃん欲しかったんです」


「僕もお兄ちゃん欲しかった!」


 ……まあ、無理もないよな。

 年頃の麻里奈が相談できる相手はいない。

 俺達は力になってやりたいが、女の子では恥ずかしいこともあるだろうし。


 誠也もお父さんがいない今は、男の子一人だ。

 色々と思うところはあるだろうな。


「安心しろ、誠也。俺がお前のにいちゃんになってやる」


「ほんと!? やったぁ!」


「と、冬馬君……それって」


「ひゅー! お兄格好いい!」


「ほら、とっとと行こうぜ」




 その後はアトラクションを楽しむ。


 ジェットコースターから始まり、空中ブランコ……。


 コーヒーカップで目を回し……休憩する。


「うげぇ……」


「と、冬馬君平気?」


「お、おう」


「意外だったなぁ。冬馬君三半規管とか強そうなのに」


「それとはまた別らしいぞ?」


「そうなんだね……えへへ、こういうのも悪くないね」


 視線の先では、誠也と麻里奈が戯れている。


「綾、ありがとな」


「えっ?」


「普通の女の子だったら、クリスマスデートに妹なんか連れてきたら怒るって言われたよ」


「そんなこと……私だって、弟を連れてくるなんて聞いたことないって言われた」


「でも、誠也がいなくても……綾は良いって言ってくれるそうだ」


「それは……そうかも。でも、冬馬君だって言ってくれるでしょ?」


「まあ、そうかもな」


「あのさ……冬馬君が言ってくれたよね?」


「うん?」


「私達は、いわゆる一般的な高校生カップルとは違うかもって」


「ああ、言ったな」


「実はね、少しだけ悩んだことがあって……」


「ふむ……」


「あのね、別に嫌とかではないんだよ? ただ、これで良いのかなぁとか、周りと違くて変なのかなぁとか」


「いや、それは俺も思ったから。早く、その、なんだ……男女の関係になった方が良いんじゃないかとか。周りの話を聞いて焦ったりとか」


「そ、そうだったんだ」


「途中まではそう思ってたけど……今は、割と良いかなと思ってる。麻里奈も誠也も、俺の大事な人に変わりはない」


「私も……そういう冬馬君を好きになったんだって思ったから」


「俺もそうだよ」


「えへへ」


「お兄ー!? 次に行くよー!」


「お姉ちゃん! 早く早く!」


「やれやれ、ガキンチョは元気だねぇ」


「ふふ、私達だってまだまだ若いですよ」


 二人で手を繋いで、二人の元に行く。


 きっと、他所から見たら変なカップルなのかもしれない。


 だが、お互いに家族を大事にしてる人を好きになったんだ。


 だから、俺達はこれで良いんだと思う。

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