第142話友達っていいもんだ

 翌日のお昼頃、俺は待ち合わせの場所付近に到着する。


 駐輪場に自転車を置き、所沢の駅前に向かっていくと……。


 すでに、三人が揃っていた。


「おっ、きたね」


「おう!」


「冬馬君、こんにちは」


「悪い、俺が最後か?」


「いや、みんな今来たところだよ」


 代表して、博が答える。


「そっか、なら良い。で、どこで食べる?」


「冬馬のバイト先は?」


「それそれ! 今、その話をしてたんだよ!」


「ん?」


「あ、あの、僕のお姉ちゃんが、冬馬君と一緒に働いてるって言って……」


「ああ、そういうことか」


「ご、ごめん」


「何を謝ることがある? 別に良いさ。バイト先を教えるくらい」


「へへ」


「なんか、感慨深いものがあるね」


「冬馬君……」


「やめろやめろ、その暖かい視線は」


 全く、照れ臭くて仕方ないぜ……。





 というわけで、少し時間を潰してから……。


 タイミングを見計らって、三人を連れてバイト先に来た。


 客が少なくなった店内にて、若い女性がパタパタと近づいてくる。


「いらっしゃいませー! ……啓介!?」


「お、お姉ちゃん! 声大きいよ!」


「いや啓介、お前もな? こんにちは、恵美さん」


「こんにちは、冬馬君。えっと……」


「初めまして、啓介のお姉さん。中野博といいます、啓介とは同じクラスで友達ですね」


「綺麗なお姉さんっすね! 俺は加藤真斗っていいます! 啓介のダチっす!」


「えぇ!? こんなリア充で陽キャな男の子が? 私は啓介の姉で恵美っていいます ……冬馬君、家族を代表してありがとうございます」


「ちょっ!? 頭をあげてください! 俺は何もしてませんから!」


「そうっすよ! 俺たちは自分の意思で啓介とダチになったんすよ!」


「きっかけは確かに冬馬だったけど、今では冬馬抜きでも話したりするしね」


「でも、冬馬君のおかげなんだ。冬馬君が、リア充も非リア充も関係ないって教えてくれたんだ。わざわざ、そうやって壁を作るからややこしいことになるんだって」


「ふふ、一丁前な男の子になって。でも、冬馬君のいう通りかもね。私も、この歳になってきて少しずつわかってきたけど……本当に高校生なのかしら? 転生とかしてない? タイムリープとか?」


「お、お姉ちゃん!」


 ……なるほど、そりゃそうか。

 啓介のお姉さんってことは、そういうことも知ってるか。





 その後奥の四人席に案内されて、注文を済ませると……。


「啓介! お姉さん彼氏いるのか?」


「えっ? い、いや、今までいたことないけど……」


「へぇ? 可愛いのにね」


「まあ、博のいう通りだな」


「お姉ちゃんは大学デビューってやつで……真斗君は、うちのお姉ちゃんみたいのがタイプなの?」


「おう! お姉さん系が好きだな。付き合うなら歳上がいい」


「マサはそうだったよね。俺は気にしないけど、落ち着いた子がいいかな。啓介は?」


「ぼ、僕? ……そ、その、気の強い人が良いかなぁ。引っ張ってくれるような……男らしくないのはわかってるんだけど」


 なんというか……普通の高校生みたいな会話してるな。

 いや、俺は転生もしてないしタイムリープもしてないが……。

 こういった雰囲気になるのは、中学生以来かもしれない。

 中学のメンツは知り尽くしているから、今更こういう会話にはならないし。



「いやいや、そこは気にしなくて良いんじゃないか? 男らしいとか女らしいとか、それこそ人それぞれだ。引っ張りたい女性だっているだろうし」


 うちの店長の奥さんなんか、まさにそんな感じだ。


「そうそう、冬馬の言う通りだよ。人の好みなんてそれぞれ違って当たり前だよ」


「そうだぜ! 人は人! 自分は自分だぜ!」


「そっかぁ……だから、本物のリア充って人たちは眩しく見えるんだね。あっ、別に卑屈になってるわけでもなくて……自分という確固たる信念?みたいなものを持ってるから、僕のオタク話も聞いてくれるし、無駄にマウントを取ってこないんだ……僕を虐めてきた奴らみたいに」


 俺は啓介の背中をポンと叩いてやる。


「そういうことだ。奴らみたいのは、自分に自信がないから他者を攻撃する。そして、自分より下を作ることで安心しているだけだ。実際、あれ以降は手を出してこないだろう?」


「う、うん。でも、それは冬馬君のおかげじゃ?」


「それは違う。確かに奴らは俺にビビったかもしれない。だが、本当の理由はお前が強くなったからだ。視線を合わせるようになったし、姿勢なんかも良くなった。あいつらは、もうお前を下には見れないから手を出せない。所詮、その程度の奴らだ」


「そうそう、そんな奴らは忘れるに限る。少なくとも俺は、啓介と話してて面白いと思うし、嫌な気分になったことはないよ」


「えっ?」


「オタク話だっけ? 確かに知らないこと多いけど、それが逆に面白いっていうか……バカにしてるわけじゃなくて、なるほどそういう世界もあるのかって感じで。実際に貸してくれたライトノベルのいくつかは面白かったしね」


「そうだぜ! 熱いバトルとかも面白かったしな! 漫画と違って、想像力を膨らむというか……そういうところが新鮮だったぜ」


「二人とも……ありがとう」


「まあ、そういうことだ。リア充とか非リア充とか、陰キャとか陽キャで分けるからおかしくなるんだよ。別にライトノベルを読んでいるからって、非リア充というわけでもないし。ただ、知らないからそういうことを言う人もいるけどな」


「冬馬君……そうだよね。ぼ、僕が別に彼女とか作っても良いんだよね?」


「おっ、もちろんだ。というか、さっきの話に戻るが……どうして、俺には誰も聞いてこない? その、女性の好みとか」


「「「えっ? その質問いる?」」」


 三人の声が重なる。


「あん?」


「いやいや、冬馬は清水さんって言うに決まってるし」


「そうだぜ、冬馬。そんなつまらんことは聞かねえよ」


「冬馬君、流石の僕もそれくらいはわかるよ?」


「いや、まあ、確かに……綾だと言うに決まっているが」


「「「ご馳走さまです」」」


「あっ——めっちゃ疎外感」


「というか! お前だけ彼女いてずるいし!」


「そうだよねー」


「ほんとだよ」


「いや、博は最近黒野といい感じだろ?」


「えっ!? い、いや、まあ」


「それそれ! 突っ込んで良いか迷ってたんだよ」


「いや、でも、啓介だって……なんか、文化祭の時に年下の女の子といたって聞いたけど?」


「えっ? いや、それは……」


「な、なにぃ……? そ、そんな、俺だけが仲間はずれなのか……」


「「「どんまい」」」


「ち、チクショー! こうなったらやけ食いしてやる!」


「失恋した女子か、お前は」


「やれやれ」


「はは……なんか楽しいね」


 啓介の言う通りだな……。


 うん……なんか、こういうのも悪くない。


 大したことない日常かもしれないが……。


 いつか思い出した時に、心が温まる気がする。

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