第143話それぞれの進路
食事を済ませた俺は、挨拶だけをしに裏へと行く。
「こんにちは、店長」
「冬馬君、こんにちは。よく来てくれたね!」
「すみません、土曜日に来ちゃって。一応、忙しい時間帯は避けたんですけど……それに、テスト終わったのにシフト入らなくて」
「気にしないでよ〜! 冬馬君が友達と来てくれるなんて初めてだから嬉しかったよ!」
「店長……ありがとうございます」
「ウンウン、青春してるって感じでいいよね。あと、シフトも気にしないでいいからね。恵美さんも仕事を覚えてきたし。あっ、もちろん冬馬君が用済みとかそういうあれではなくて!」
「店長、落ち着いて。それじゃ、逆に変に思われますよ? ふつうに言えばいいんですよ。こっちのことは気にせずに、自分のことを優先してくれて良いとか」
「あっ、友野さん。こんにちは」
「おう、高校生らしいことしてるな」
「はは、すみません。あと、色々とご迷惑を……」
少し騒がしくしてしまった。
色々とトッピングをサービスしてもらったのに……。
「気にするな。ほとんどノーゲスだったしな。それに、あの程度なら可愛いもんだ」
そう言いながら、俺の頭をガシガシしてくる。
「あざっす」
「おう。ところで……ミスターコンテストで優勝したらしいな? ププッ!」
「ダメだよ! 笑っちゃ! ……ププ!」
「お二人共……パワハラで訴えますよ?」
「す、すまん。いや、しかし……良いもんだな」
そっか、友野さんは高校生になったことがないんだ。
「ウンウン、僕もはるか昔の話だし、時代も違うから楽しかったよ」
「そもそも、どうしてきたんですか?」
「いや、詳しいことはわからないけど……恵美ちゃんから聞いてさ。なんでも、一位を取るために数がいるって」
「だから、休憩中に二人で抜け出したってわけだ」
「そうだったんですね……ありがとうございます。綾に見合う男だということを、周りの奴らに知らしめる必要があったので」
「なるほど、それは良いことだ。あんだけ可愛いと大変だろうからな」
「ウンウン! 冬馬君、かっこいいよ!」
「そ、そうですか……あざっす」
恵美さんにも挨拶を済ませ、店を出て皆と合流する。
恵美さんが知っていたということは……。
「啓介、ミスターコンテストのことを恵美さんに伝えたな?」
「ご、こめんね。僕でも力になれるかなって……」
「いや、ありがとう。その気持ちが嬉しいさ。しかも、それを俺に言わないところとかな?」
「へへ……そういうのって、かっこ悪いもんね?」
「おっ、わかってきたな」
「なになに? なんの話?」
「俺らにも教えろよ!」
「啓介が男前って話だ」
「わかるよ、最初の頃とは違うもんね」
「俺が声をかけても驚かなくなったしな!」
「へへ……」
四人でそんな会話をしながら、目的地へと向かう。
さて……意外性があったな。
「うめえな!?」
「やるな、啓介」
「ほんとだね、初心者とは思えないよ」
「ぼ、僕もびっくりしてるかな……ただ、ゲームではやったことあるから」
飯を食ってる時に、どこで遊ぶかを決めたのだが……。
まさか、ダーツが得意だとはな。
失礼ながら、何となく下手かと思ってしまった。
気をつけないと……よくないな、こういうのは。
そのあとはカラオケに行き、夕方頃に解散となる。
「あぁー楽しかったな! 勉強のストレスが飛んで行ったぜ!」
「いや、マサは大してやってないでしょ?」
「お前、赤点あったろ?」
「ぐぐ……補習があるってよ。いいよなー、お前達は成績良いし」
「まあ、啓介も二十番代には入ってるしな……そういや、皆は将来は決まってるのか?」
「うーん……俺は大学に行って、経済の勉強がしたいかな」
「俺は行かないつもりだ。身体を動かす方が性に合ってるから、就職すると思うぜ」
「僕も大学かなぁ。自分の好きな趣味に携われる仕事に就きたいかなって」
「へぇ……みんな、色々考えてんだな」
「冬馬は?」
「うん? ああ……実は、教師を目指そうかと思ってる」
「へえ! 似合うね! 面倒見いいしね」
「たしかに! 意外と熱い男だしな!」
「うんうん! 良いと思うよ! 冬馬君なら、人に寄り添える先生になれるよ!」
「お、おう……ありがとな」
……そっか、やっぱりみんなも考えてるんだな。
俺も、そろそろ親父に相談でもしてみるかね。
博とマサは別方向なので、帰りは啓介と二人になる。
「あっ——まだ、少し時間あるか?」
「えっ? う、うん、平気だけど……」
「うちに少し寄ってくれるか?」
「い、良いの!?」
「いや、誘ってるのはこっちなんだが……」
「そ、そうだよね! うん! もちろん!」
「そうか。じゃあ、このままついてきてくれ」
一度止まり、麻里奈にラインを送っておく。
そして自転車を走らせ、家の方向へと向かっていく。
無事に家に到着すると……。
「お兄! お帰りなさい! あ、あの、いらっしゃいませ!」
「こ、こんばんは! お、お邪魔します」
「お前は彼氏の家に来た彼女か。ほら、さっさと上がってくれ」
「う、うん」
「もう、お兄ったら。啓介さんは、お兄みたいに図太くないんだよ」
「へいへい、そうでございやす」
「ほら! 手洗いうがいして! あっ、啓介さんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「おーい? 兄に対する態度と違い過ぎないか?」
「そ、そんなことないし! わ、わたし、お菓子とお茶用意する!」
ドタドタという音を立てて、リビングへと向かっていく。
……まったく、複雑な感じ。
まあ、どうなるかはわからないが……頭ごなしに否定だけはしないようにしよう。
洗面所から出ると……。
「冬馬君、挨拶してもいいかな?」
「ん? ……ああ、もちろんだ」
そのまま和室へと向かう。
そして啓介は、一礼をしてから写真の前に座った。
「はじめまして、冬馬君のお母さん。僕の名前は田中啓介です。冬馬君、僕にとってのヒーローです。不良から助けてもらったり、狭かった僕の世界を破壊してくれて……おかげで、僕は偏見から抜け出すことができました。リア充って人たちにも、当たり前に悩みがあったり、良いことばかりではないこと。マウントを取ってくる人もいるけど、それ以上に良い人も沢山いるということを知ることができました」
「へっ……よせよ」
「へへ、たまには良いかなぁって。普段は照れ臭いけど……ありがとう、冬馬君。僕の世界を壊してくれて。もしよかったら、これからも友達でいてください」
「ばかやろ、こっちの台詞だ」
「へっ?」
「人は変われる、変わっていけるってお前が教えてくれた。偉そうなことを言いながら、俺今更変わることを恐れていた。でも、お前を見て思った。変わることに遅いことなんかないと……まあなんだ、これからもよろしくな」
「う、うん!」
「うぅー……」
「うおっ!? ……何泣いてんだ?」
「だってぇぇ……お兄が、高校の友達を初めて連れてきて……それが、全然タイプの違う人で……それでも、こうして友達になって……啓介さん、ありがとうございます!」
「い、いや! 礼をいうのは僕の方で……」
「それもありますけど……わ、わたしを助けてくれてありがとうございます」
「う、うん、大したことはできてないけどね」
「そんなけどありません! か、かっこよかったです」
「へっ? あ、ど、どうも」
「なあ、啓介……殴っても良いか?」
「えぇ!? ご、ごめんなさい!」
「もう! 何言ってんの!?」
だって……見たことない顔してたぞ?
あんなん、親父が見たら発狂するんじゃなかろうか?
……待った……今の俺には他人事ではなかった。
やっぱり……綾のお父さんに殴られる覚悟はしておこう。
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