第126話文化祭2日目~その3~

 会場である体育館に到着すると……。


 想像以上の人で溢れかえっていた。


 表から入ることは出来ないので、俺たちは壇上側の扉から入ることにする。


 その壇上の前にはカーテンで仕切られていて、お互いに見えない状態になっている。


「なんか、すげーいたな」


 数百人はいたぞ……。

 二階までも埋まってたし。


「そうね、こちらの想像以上だったわ。体育館にしといて良かったわよ。表でやったら収拾つかなくなっていたところね。体育館なら、自動で人数制限できるから」


「まあ、一杯になったらお終いってことだもんな」


「よう、冬馬」


「おっ、アキ……なんつー格好をして……」


「お前に言われたくない」


「……確かに」


 アキの格好は物語の中の王子様のような格好だ。

 ジャニー○系イケメンのアキにはぴったしの格好ではある。


「他の参加者は……」


 六人いるが、どれもアイドルのような衣装を着ている。

 俺は奴らをよく知らないが、アキが一番イケメンだな。


「まあ、俺のライバルは居なそうだな……お前以外には」


「おいおい、買い被りすぎたろ。俺は、お前に勝つ気はないぞ? ただ、ここで綾に相応しい男と客観的に認めてもらうことが大事だ」


「なら、なおさらの事じゃないか。俺に勝てば、否応無しに認めざるをえない」


「それはそうだが……いや、そうだな。やるからには一番を目指すべきか」


「ほら! くっちゃべってないで準備をしなさい! そういうのは後でして! 私が写真撮るから!」


「「いや、撮るなし」」


「撮らせなさいよっ! 次のコミケの題材に……」


「「するなっ!!」」


「ああっ! いまのいいわ! 脳内保存しとかなきゃ……!」


「「もう、勝手にしてくれ」」


「ふふ、懐かしいわね。このやり取りも」


「ったく……ほら、準備をするんだろ? どうしたらいい?」


「まずは、これを引いてちょうだい」


 何やら箱を差し出される。


「これで順番を決めるわ」


「ああ、そういうことか」


「どれどれ……」


 二人で引いた結果……。


「俺は六番目か……」


「冬馬はトリね」


「俺は五番目だな」


「アキはその前ね」


 こうして、あとは出番を待つだけとなる。




 そして、ミスターコンテストが始まる。

 カーテンが開いて、壇上に小百合が上がる。


「さあ! 皆さん! 我が校恒例のミスターコンテストが始まるわよ!」


「「「きゃ——!!」」」


「「「ウォォォ——!」」」


 はて?女子はともかく、なんで男子まで?


 その後、小百合が紹介した人物が袖から出て行く。


 その歓声の中、俺が考えていると……前にいるアキが振り向く。


「おい、冬馬。お前の疑問に答えてやるよ」


「ん?」


「最近は、カッコいい男やイケメンに憧れる男が増えてきたらしいぞ? 男性アイドルのコンサートでも、男子がいることも珍しくない」


「へぇ……時代は変わるんだな」


 少し違うが、俺が真兄に憧れるようなもんかね。




 そして時間が経ち、アキの番がくる。


「じゃあ、行ってくら」


「おう、行ってこい」


 アキが出て行くと……さっきまでとは違う歓声が上がる。


「アキ君〜!!」


「はぅ……もうダメ!!」


「カッコいいーー!!」


「やあ! みんなっ! 学園のアイドルアッキー参上!!」


「「「きゃ——!!!」」」


「「「ヤリチ○は消えろ——!!」」」


 うん、何というか……対極的な歓声だこと。

 相変わらず、圧倒的に女性受けしかないな。

 あいつも、付き合えば男らしいところもあっていい奴なんだが……。

 それ以上に女好きというのがネックという。

 ヤリチ○も否定出来ないし。


「俺はヤリチ○じゃねぇ——!! ただ女の子が好きなんだー!!」


「おーっと! アキ選手! 男子の殺気に堂々としておりますっ! 私のしては男好きと言って欲しかったっ! そうだろ!? 愛しの女子諸君!」


「「「きゃ——!! お姉様——!!」」」


「ステキな考えですわ!」


「何故、貴女には投票できないのですかー!?」


「我々は貴女に入れたいのにっ!」


「てめー! 人のファンを取るんじゃねえよ!」


「うるさいわねっ! この鈍感男がっ!」


「「「始まったっ! 我が校の風物詩!」」」


「うん、カオス」


 それにしても今更だが……小百合ってそういうことなのか?

 いや、そんなわけはないか。



 そして、いよいよ俺の番となる。


「さあ、続いての選手は……初登場となる男だっ! 皆も噂を知り、気になっていたのではないか? あの学園のマドンナを射止めた男の名を! 難攻不落と言われた城を落とした男! そいつの名は——吉野冬馬!!」


 恥ずい……が、ここで照れると、更に恥ずいことになる。

 俺は覚悟を決めて、袖から出て行くのだった。


 しかし、俺はアキのようには出来ない。

 なので姿勢を正し、堂々とした姿を見せることにする。


「おっと、冬馬選手! 他の人とは違い、黙っての登場だ!」


 小百合が盛り上げようとするが……会場は静まりかえっている。


「だが、俺は俺らしくやるだけだ」


 そんな俺だが、観客に目を向けた瞬間——固まる。

 叫ばなかった自分を褒めたいくらいだ。


 ……店長!? 友野さんまで!?

 店は!? どうして!?

 二人とも、ニヤニヤして俺を見ていた。

 これか、啓介の姉さんが言っていたことは。


「さて、アピールですが……何がありますか?」


「そんなものはない。俺がここにきた理由はただ一つ。大好きな彼女に相応しい男になりにきただけだ。小百合、マイクを貸せ」


「はいはい、相変わらず熱い男ね」


「さて……みんなの知っている通り、俺は清水綾さんの彼氏だ」


 体育館がザワザワとする。


「俺はみんなから相応しくないと言われ、様々なことをされてきた。時には陰口だったり、学校の裏サイトだったり、面と向かって言われたり……彼女はとても優しい女の子だ。俺が気にしないと言っても、彼女は傷ついてしまう」


 体育館中の視線が俺に集まる。


「なので、俺は変わろうとした。勉強したり、友達付き合いをしたり、見た目を変えたり……だが、それでも彼女は告白を受けている。俺には一切言わないけどな……顔を見ればわかる。そして、とても傷ついていることを。当たり前の話だが、断る方だって傷つく」


 段々と熱を帯びた視線に変わってくる。


「俺は考えた……どうすれば彼女が傷つかなくて済むのかと。俺のせいで彼女が傷つくのは耐えられない。というわけで……この場に出させてもらった。いちいち一人一人に言っていたんではらちがあかないからな。ここに宣言する——清水綾は俺の女だ! 文句がある奴は俺の所に直接来い! 俺は言ったからな? 次、彼女に近づいてみろ——俺がタダじゃおかない」


 これは動画を撮って全校生徒が見れるようになっている。

 これで、俺の宣言が広まるはず。

 これでも来るようなら……確実に叩き潰す。

 というか、それでも来る奴は危ない奴だし。


「キャ——!! 言われたいっ!」


「最近いないタイプだよねっ!」


「俺の女とか言われるの悪くないよねっ!?」


 女子が騒いだ後……地響きのような声がする。


「「「ウオォォォ——!!!」」」


 男子達が叫んでいる。


 よくわからないが……好意的な声な気がする。


「おおーっと! 男らしい宣言だっ! さすがは我が友よ! 生徒会長して、こいつの友として宣言する! 清水綾ちゃんの後ろには私がついている! 何かしようものなら——恥ずかしい秘密がバラされると思うがいい」


「……………」


 会場が静まりかえった……。

 いや、全校生徒の弱みは握っているとは言ってたが……。

 だが、感謝をしなくてはな。


「小百合、ありがとう。お前という友がいて良かったよ」


「お礼は要らないわよ。私は、以前何も出来なかったから……」


 俺が母さんを亡くした時のことか……。


しかし、これでは借りのが大きい。


小百合の相談に乗ってやらないとな。






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