第108話冬馬君と清水さんは感謝を伝える
ようやく、出発をして動物園に向かっているが……。
「真兄……偉いね?タバコの匂いがしないね?」
「バカ!言うなよ!昨日頑張ったんだよ!」
「いや、事前に真兄がタバコ吸うのは言ってあるから。もちろん、平気かどうか確認した後でね」
「フフ……私のためにありがとうございます」
「い、いえ!た、タバコを吸う男性は……?」
「嫌いではないけれど……その気持ちが嬉しいと思いますわ」
「そ、それなら、良かったです。まあ、俺もこんななりをしてますが……一応、こいつらの先生なんでね。タバコの匂いをつけて帰すわけにはいかないですから。だから、昨日は車の掃除で大変でしたよ」
「兄さん……だから、いつも……私がいる時は……」
「そういや……俺と綾がいる時も、絶対近くには来ないもんな……」
「確かに……そうかも」
「へぇ〜、名倉っちカッコいいじゃん」
「ステキな考えだと思いますわ」
「あ、はい……」
……真兄が照れている……新鮮だな。
でも、やっぱり……尊敬に値する漢だと思う。
その後、無事に動物園に到着する。
「さて……冬馬、どうすれば良い?」
「黒野……」
「わかってるわ。私はさっきので満足したから……弥生さん、もしよろしければ兄さんに付き合ってもらえないでしょうか?」
「か、加奈……!」
「……良いのかしら?詳しいことは知らないけど……あんまり会えないのよね?」
「いえ……綾と吉野のお陰で、これからは会えると思うので……今日は、兄をお任せします」
「フフ……良い妹さんね?」
「え?あ、はい……昔からそうでした。賢く聞き分けが良く……色々なことを我慢させてきた……加奈……いや、なんでもない……」
「兄さん……?」
……さて、真兄が言おうとしたことはアレかな?
ということは……そろそろ、俺の出番かもな。
あとでタイミングを見計らって話す必要があるな……。
動物園の中に入り、真兄と弥生さんが並んで歩き出す。
その後を俺と綾、後ろに黒野と森川が続く。
ちなみに、真兄が全員分の料金を支払ってくれた。
園内を散策していると……。
「へぇー、意外と面白いものですね。動物園とか子供の時以来ですよ」
「今回は、私の好きなことですみません……男の人には退屈でしょうか?」
「いえ!貴女といるならどこでも楽しめそうです!」
「フフ、そんなに気を使わないでくださいな。同い年なんですから」
「え?あ、はい……そうしますかね」
「それに……貴方のことは、昔から知っていますから」
「はい?……会ったことが……?」
「それは後にしましょう。私も、たった今気づいたことですから」
「わぁ……!可愛いね!ライオンさん!」
「か、可愛い……?カッコいいじゃなくてか?」
「え?可愛いだよ?」
「いや、可愛いのはお前だから。首をコテンと傾げて」
「はぅぅ……い、今は動物さんです!」
……うん、童心に帰ってる綾も良い。
目がキラキラしてて、こっちまで楽しくなってくるな。
「高校生にもなってと思ったけど……意外とアリかも〜」
「確かにそうね。意外と楽しいわ」
その後も親交を深めてつつ、園内を散策した。
そして、ひとまず小休憩を取ることにした。
今は、みんなで園内にある休憩用のテーブルを囲んでいる。
真兄と弥生さんも話が弾んだようで、結構いい感じに見える。
「真司さんは、どうして教師になろうと思ったのですか?」
「大した理由じゃないんですが……まあ、見ての通りヤンチャしてきましてね。でも、別に悪さをしたいわけじゃなかったんですよ。エネルギーの行き場がなかったというか……でも、そういう奴って結構多いんですよ。家庭環境だったり、生まれつきの性質上学校に馴染めなかったり……そんな奴らを理解するって言ったらおこがましいですが……少しでも手助けができればと思いまして……」
「とても立派だと思います。だって……そこに救われた少年がいるじゃないですか」
「えっ……?」
「私は、冬馬君の中学時代を知っています。冬馬君のお母さんが亡くなったことも……そして、荒れていったことを……同じ思いをした男の子に、私は何も出来ませんでした……でも、ある時から明るくなっていたんです。その時に聞きました、何があったの?って。そしたら、兄貴と慕う人が自分を救ってくれたって……その時はわからなかったけれど……冬馬君、この人がそうなのね?」
……同じ思い……そうか、弥生さんは母親を……。
だから、俺に優しかったのか……善二さんも……。
やっぱりガキだな、俺。
こんなに、俺を想ってくれてる人達がいることに気づかずに……。
「……はい、そうです。真兄が、自分ばかりが不幸だと思ってた俺を、暗闇から救い出してくれました。そして、綾という大切な女性と付き合う上でも、真兄が背中を押してくれました。でなければ、俺は踏み出せなかったかもしれません。照れ臭くて中々言えなかったけど……真兄、ありがとう」
「先生!私からも、ありがとうございます!冬馬君の背中を押してくれたから、私もこうして大好きな人と付き合うことができました!」
「お前ら……へっ、ガキンチョ共が……そうか……俺は、憧れてた大人に少しは近づけてたのか……」
「ええ、とてもカッコいいと思いますよ?」
「真兄はカッコよくて、俺の憧れる大人だよ」
「えへへー、私もそう思います!」
「よしてくれよ……ったく……今日は、そんな予定はなかったっつーの……」
「グスッ……アタシ、こういうのダメ……」
「何言ってるの……とは言えないわね、私も……」
多少変な空気になったが、これはこれでアリだな。
俺も、中々言えるタイミングもないし。
……次は、俺が真兄の背中を押す番だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます