冬馬君は平和な日々を取り戻し……

第79話冬馬君は静かに過ごしたい

 ……あの日から数日が過ぎた。


 真兄の話によると、主犯格は全員……だそうだ。


 どうやら、被害者の方々が証言をしたらしい。


 詳しくは知らないし、知りたくもない。


 もちろん、綾たちには何も言っていない。


 ただ、もう安心していいこと。


 二度と、会うことはないということだけを伝えておいた。


 そして……ようやく、平穏な日々が訪れた……。


 というわけで……。


「野郎共!!来月は文化祭だ!嬉しいか!?」


「「おおぉぉーー!!」」


「女子達!来月は文化祭だ!楽しみか!?」


「「キャーー!!」


 ……そう、いよいよ文化祭の準備が始まる。

 我が学校は、11月の第2土曜日と日曜日に開催される。

 つまり、あと1ヶ月というわけだ。

 今日が、出し物の提出ができる最終日だ。



 学級委員でもある綾が、出し物を黒板に書いている。

 文化祭実行委員には黒野と、バスケ部の中野に決まっている。

 今は黒野が教壇に立って、話し合いを進めている状態だな。


「むう……難しい問題だな……」


「よ、吉野君……眉間のしわが凄いけど……?」


「田中君、俺は今……とても重大な選択を迫られている……」


「う、うん?」


「綾のメイド服姿を見たい……!だが、見せたくない……!しかし、こんなチャンスは滅多にない……!」


 そう、投票で決めることになっているのだ。

 メイド喫茶、お化け屋敷、普通の飲食店、最近流行りの謎解き脱出ゲームなど。


「そ、そうだね。清水さん似合いそうだもんね……」


「ほう?見たいのか?田中君といえど……」


「いや!見たくないから!」


「なに!?綾の可愛いメイド服が見たくないだと!?俺は……超絶に見たい!!」


「あー!!どうすれば正解なの!?」


「と、冬馬君!!」


「ん?どうした?そんな顔赤くして……可愛いな」


「あ、あう、あぅぅ……!」


「綾、落ち着いて。吉野君も、気持ちはわかるけど……」


「ウンウン、そうだろそうだろ」


「おい、バカップル。話進まないから黙っとけ」


 真司さんにそう言われて、俺は大人しくする。

 ……だが、どうする?

 他の男にも見られるということだろ?

 しかし……いや、でも……。




 結果から言うと、俺は誘惑に負けた……。

 というか、男子全員がメイド喫茶に投票したようだ。

 よくよく考えてみたら当たり前のことだった。

 綾を筆頭に、森川と黒野という美少女がいるのだからな。

 女子達も満更ではなさそうなので、問題なく決定となった。



 そして、お昼休みの時間を迎える。


 ちなみに、俺は綾に頭を下げている。


「と、冬馬君?」


「すまん、綾。ちょい悪ノリをしてしまった」


「う、ううん……そ、その……見たかったの……?」


「ああ、それはもう。断言する」


「そ、そうなんだ……じゃあ、頑張って着るね……!」


「いや、自分で言っておいてアレだが……」


「ううん!着る!着たくないわけじゃないの、少し恥ずかしいだけで……」


「なるほど、ならば良い。安心していい、見てくる奴は………目を潰すから」


「ダメだよ!?」


「……ダメか……?」


「ダメ!」


「……ぐぬぬ……!ク、クソォー……仕方ない、我慢する」


「で、でも……嬉しいです……」


 ……おっといけない、ここは学校だった。

 キスなんかしたらどえらいことになる。

 ……色々な意味で。


「あっ、あと楽しみなことはね……冬馬君のこと!」


「ん?俺がどうかしたか?」


「執事服着るでしょ?絶対、カッコいいもん!」


 そうなのだ。

 メイド喫茶に決まったが、ボディーガードとして男子が数名選ばれたのだ。

 もちろん、俺は即立候補した。

 綾を守ることだけは譲れない……!


「お、おう……笑顔が眩しい……!目がくらみそうだ……!」


「ふえっ?……もう〜!何言ってるの〜!?」


 そう言いながら、俺の肩を叩く。

 ……ああ、なんて平和なんだ。

 俺は、これを求めていたんだ。


 ククク……フハハ!そうそう問題など起こらないだろう!

 これからしばらくは……綾とイチャイチャするのだ!!

 ……と、俺が決心した時、綾のスマホが鳴る。


「あっ、愛子からだ。電話……?出ても良いかな?」


「ああ、大丈夫だ」


「ありがとう……あ、もしもし?どうしたの?後で教室で会うのに……え!?ウンウン……そっかぁ……」


 ……何か問題かと思ったが、笑顔だから違うようだな。

 まあ、そうそう問題が起きるわけ……オイオイ……!

 たった今、問題が起こった。


「おい……真兄……マジかよ……」


 俺は空き教室の窓から見える光景に目を見開く……。

 確かに、この辺りは人も来ないし穴場だが……。

 そこでは……真兄と女生徒が何やら言い争っているように見える……。


「しかも……あれって……黒野じゃね?」


 マジか……そういう関係なのか?

 いや、でも真兄が手を出すとは思えない……。

 そういうタイプではないはず……もしくは本気ということか。


「だが、謎は解けたな。真兄が、俺らの行動を誰から聞いていたか……おそらく、黒野ということだろうな……」


「冬馬君?どうかしたの?独り言言ってたけど……」


「おっ、電話終わったか。いや、なんでもない」


 マ、マズイ……見られるわけには……。

 ちらっと見たら、二人はもういなかった。


「そう?……あっ!あのね!愛子がね!」


 綾の話を聞きながら、俺は思案する。


 ……真兄と黒野じゃ、遊びとは思えない。


 アレ?問題ってそうそう起こらないんじゃ……?


 俺は静かに過ごしたいのに……!


 どうやら、そうは問屋がおろさないようだ……。





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