第70話冬馬君は尾行をする

 その日は、とりあえず解散となった。


 綾には、森川が家にいるかを確認してもらった。


 さらには、次のデート日の約束を聞き出してもらった。


 そして……その日が訪れた。




 土曜日の午後に綾を迎えに行き、2人で所沢駅に向かう。


 そして、森川が待ち合わせと言っていた場所の近くで待機する。


 そこにはお洒落をした森川がいて、嬉しそうな表情をしている。


「交番の目の前だね?やっぱり、悪い人じゃないのかな?加奈も電話で言ってたんだ……口は悪いけど、優しくてカッコいい彼氏だって……」


「まあ、交番の前で待ち合わせするからって良い奴とは限らんさ。もちろん、良い奴ならそれはそれで良いけどな」


「う、うん、そうだね……わ、私の格好平気かな?」


 今日の綾は、長い髪を後ろでまとめ、キャップを被っている。

 さらには伊達眼鏡をし、洋服も地味な感じにしている。


「どうする……?これはこれで可愛いな……!」


「ふえっ!?バレないかどうか聞いたんだけど……で、でも嬉しい……冬馬君もかっこいいよ?懐かしい感じ……えへへ」


 ……もう、尾行なんてしないでどっか個室入りたい。

 ……おっといかんいかん!俺としたことが……!


「そうだな、眼鏡も久しぶりだ」


 俺の格好も、以前のような地味な感じにしている。


 これなら近づきさえしなければ、そうそうバレることはないだろう。


「あっ……きたよ?」


 永倉慎吾が森川と合流した。


「よし……では、腕を組んでいくぞ?」


「う、うん!」


 柔らかなものが、俺の腕に当たる……。

 いやいや、今はそんな場合ではない……!


 2人で適度な距離を保ち、後をつけていく……。





 ……そして、時間が経った。


 カフェにいったり、ウインドウショッピングしたり。


 ゲーセンで音ゲーや、UFOキャッチャーしたり。


 その後、2人は別々の道に別れていった。


 ……そして、2人して思った。


「なんか……普通だね?」


「だな……普通のカップルに見えるな」


「悪いことはしてるかもたけど、それと愛子は別ってことかな?」


「あー……その線もあるのか。確かに、そういう場合もあるか……」


 人を不幸にする奴でも、自分の家族や恋人は大事って奴はいるもんな。


「むー……わかんない……でも、愛子は楽しそう……それに好きだって気持ちが、ここからでもわかる……」


「綾……」


「もしこれで悪い人だったら……愛子が傷ついちゃう……どうしたら良いのかな?」


「もっと詳しく調べる必要があるな……やはり、面と向かって話す必要があるかもしれない」


「え?い、今から話しかけにいくの?」


「いや、それは不自然だ。俺らの格好もな。森川にダブルデートの提案をしてみてくれ」


「あっ!なるほど!それなら変じゃないね!」


「あとは、その男が受けるかどうかだけどな」


「でも試す価値はあるよね!やっぱり、冬馬君は頼りになるね!えへへ、ありがとう!」


 そう言い、俺の頬にキスをする……。

 ……さて、尾行がないなら……。

 ……俺は、綾とイチャイチャしたいのだ。


 ……だが、そうは問屋がおろさないようだ。


「ね、ねえ?今、裏の路地に入っていったの……」


「……アキだな。しかも、ガラの悪そうな奴と一緒にな……」


「ど、どうしよう?」


「悪いが、様子を見て良いか?」


「う、うん……愛子はもう家に帰っただろうし」


 2人で慎重に後を追う。




 そして……ビルとビルの間の、狭い空間にたどり着く。


 大柄な男とヒョロイ男の2人によって、アキがビルの壁際に追い詰められている。


「綾、ストップ。そして、何が起きても声を上げるなよ?」


「う、うん、わかった……」


 俺たちはドラム缶の後ろに隠れて、静かに様子を伺う。


 すると……大柄な男がアキに詰め寄る。


「おい!持ってきたんだろうな!?」


「……いや、持ってきてない」


「あぁ!?ナメてんのか!?」


「金持ってこいって言ったよねー?」


「うちのボスの女に手を出したんだ。きっちり落とし前はつけてもらわねえとな?」


「俺はそんなことはしていない!」


「こっちには証拠があるんだぜ?写真という確かな証拠がな」


「良いのかなー?今ならまだ、これくらいで許してやるぞ?もし断ったら……寝とったってことにしちゃおうかなー?そして噂を流したり、親に送ろうかなー?」


「なーー!?俺がそんなことをするわけがない!!」


「どうかなー?君、遊び人でしょ?男友達もいないみたいだし、信じてくれる人なんかいるのかなー?」


「っーー!!そ、それは……」


「可哀想な奴!ハッ!顔がいいからって調子に乗ってるからだよ!」


「ガハッ!?」


「おいおいー、殴っちゃダメだよー」


「すいやせん、つい……」


「ク、カハッ……」


「仕方ないなー、もう一回チャンスを上げるよ。次はお金持ってきてね?君なら簡単でしょ?ホストするなり、女の子から金を貰うことなんかさ」


「良かったな?良い顔に生まれて!ハハハ!!」


 そう言い、その2人は去っていった。


 アキも起き上がり、その場を離れていった。


 ……俺のはらわたは煮えくりかえっていた……!


 よくも、俺の親友をあんな目に……!


「と、冬馬君?助けなくて良かったの?」


「助けたかったに決まってる!!」


「きゃっ!?ご、ごめんなさい!」


「す、すまん!これは俺が悪い!」


「ううん……あっ、冬馬君血が出てる……」


 気がつくと、俺の掌から血が流れていた。

 無意識のうちに爪が食い込んでいたようだ。


「そうだよね、何が理由があるんだよね?」


 俺の掌を消毒し、絆創膏を貼りながら、綾がそう聞いてきた。


「ああ……アキは俺にはバレたくないはずだ。そして、問い詰めたとしても言わないだろう。俺に迷惑をかけたくないと思ってな……」


……あと綾がいるからな。

2人相手に守りきれるかわからない。


「そっか……どうするの?」


「もちろん、アキを助ける。アキには色々と助けられた。ならば、今度は俺の番だ。対等でないなら、親友とは言えない……!何より……俺の矜持が許さない……!」


「冬馬君……」


「綾、安心してくれ。もちろん、森川のことも手伝うからな」


「う、うん……無理だけはしないでね……?」


「ああ、わかった。約束しよう」


 ……だが、あのヒョロイ男に見覚えがある気がする……。


 どこだ?いつだ?……クソ!出てこねえ!


 だが、覚悟しろ……!


 俺の親友に手を出したこと、必ず後悔させてやる……!





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