冬馬君は自重……

第50話冬馬君はハイスペック男子

 翌朝起きると、時間がいつもより早いことに気づく……。


「あれ?なんで、目覚ましがいつもより早いんだ……?あっ、そうか……」


 髪型をセットするから、10分早く目覚ましをかけたんだな……。


 一階に行き、朝の支度を済ませる。


 そして、最後に髪をセットする。


「お兄!……うん!いいね!じゃあ、おっ先ー!!」


「はいよ、気をつけてな」


 俺もセットを済ませ、学校へ向かう。





「冬馬君!おはよ!」


「おう、おはよ」


「今日は、体育あるね。どうするの?」


「ん?ああ……綾は、どうして欲しい?」


「え?……中々に複雑です……カッコいいところ見たいし、でもモテちゃうし……」


「モテないから。仮にモテても関係ないな。俺は……綾に夢中だからな」


「と、冬馬君……エヘヘ、わ、私も……」


 ……おっと、いかんいかん。

 ここは公共の場であった。

 我慢しなくてはな。





 そして午前中、体育の授業の時間になる。


 バスケか……久々だな。


「おい!吉野!」


「ん?どうした?奥村」


 オラオラ系のサッカー部のやつだな。

 ……まだ、認めてない奴筆頭だな。


「あぁ!?なに、タメ口聞いてんだよ!?」


「はぁ?お前は馬鹿か。なんで、同級生に敬語使わなきゃならん」


「な、なんだと!?お前、調子に乗るんじゃねえぞ!」


「ほら!そこ!なにやってる!!」


「チッ!名倉か……まあ、見た目と頭は良くなったみたいだな。だが、運動神経はどうだかな。今日は、女子が隣にいるからな。恥かかせてやる」


「あっそう、ご自由に」


「て、テメー……!」


「奥村!まずいって!名倉さん睨んでるぜ」


「佐々木……まあ、いい。楽しみだぜ」


 ……やれやれ、イキらないと自分を保てないのか?

 面倒だな……潰すか。

 完膚なきまでに……。


 そして、試合が始まる。


 俺は田中君と、その他のメンバーの5人だ。


 長身で線の細い好青年の、バスケ部の中野。

 長身でガタイが良く平凡な見た目の、陸上部の加藤。

 身長が低いが可愛い系の、茶道部の藤田。


 この5人が、即席チームだな。

 これは、真司さんが振り分けて決めたものだ。


 対戦チームには、佐々木と奥村がいるな。

 これは、ちょうどいい。


「よし!始めるぞ!」


 真司さんがボールを持って、コートの中央に立つ。


「吉野君、随分雰囲気違うけど、バスケは?」


「中野君か……まあ、そこそこできるかな」


「そっか……じゃあ、お試しも兼ねてボール渡すから」


 そう言い、コートの中央に行く。

 相手から、奥村が出てくる。


「よし、いいな。では、行くぞ!」


 真司さんがボールを上に投げる!


「ハァ!」


「クソッ!」


 中野君が空中戦を制し、俺にボールを渡す。


 ……よし、やるか。

 俺は全力で走り、一気にゴール下に向かう!

 そして、佐々木とその他を抜き去る!


「はぁ!?早えぞ!?」


「おい!佐々木!抜かれてんじゃねえよ!」


 そしてそのまま跳躍し、ダンクを決める!


 ……よし、なまってないようで安心だ。

 これならいけるな。


 ……ん?なんか静かだな。


「す、すげーー!!吉野君!今からでも、うちに来ないか!?」


「いやいや!あの足の速さは陸上部だろ!!」


「な、なんだ……?あのやろう、運動神経までいいのかよ……!」


「すまんな、2人とも。俺は、本気の部活には入れないんだ。まじめにやってる人達に失礼だからな。ただ、そう言ってくれるのは単純に嬉しい。ありがとな」


「……へぇー、こっちが本当の吉野君か。じゃあ、遊びならいいかな?」


「ああ、それならいつでも」


「おっ!いいね!」


 まあ、この2人は悪い奴ではないからな。

 無理に断る必要もないだろう。

 それに、円滑な人間関係のためにもな。


 その後も、俺は点を取り続ける。

 そして終盤になった時、悲鳴が聞こえた。


 俺がそちらを振り向くと、綾が膝を押さえてしゃがんでいた。

 俺は迷わずに、女子側のコートに行く。


「綾!どうした!?」


「と、冬馬君……ちょっと、転んじゃって……捻っちゃったみたい……」


「あらあら、彼氏さん。運動神経まで良かったのね。綾ったら、見とれて怪我したみたいよ?」


「ちょっと!?加奈!!」


「黒野、それは本当か?」


「アタシも見てた。もう、見とれちゃってたね。まあ、気持ちはわかるけどねー。吉野、アンタはハイスペック男子だったんだねー」


「森川……では、俺の責任だな」


「え!?ち、違うよ!冬馬君は悪くないよ!わ、私が……カッコイイなって思って、見とれちゃっただけなの……」


「相変わらず、可愛い奴だな……俺の彼女は」


 俺は綾の足と肩に手を回し、ゆっくりと持ち上げる。


「え?ひゃあ!?と、冬馬君!?」


「「「キャーーー!!!」」」


「いいから、首に手を回しな……よし、しっかり掴まってろ」


「あら……綾、良いわね。お姫様抱っこだなんて……憧れよね」


「ヒュー、やるじゃん!」


「真司さん!俺、保健室行ってきます!」


「あいよ!」




 俺はゆっくりと、保健室へ向かう。


「と、冬馬君……ご、ごめんなさい……」


「気にするな。むしろ、役得だ」


「えぇ!?そ、そ、そんなこと……お、重くない?」


「逆に軽すぎるくらいだ。俺の方こそ、ごめんな?綾の前で、カッコつけたかったんだよ」


「あ、え、そ、そうなんだ……か、カッコ良かったです……と、とっても……」


 綾の頬が赤くなる……可愛いな、おい。

 ……あー、ダメだ。

 これはダメだ。

 授業中だから、人はいない……よし。


「と、冬馬君……?ッーー!んっ……」


「すまん、我慢できなかった」


「キ、キスされちゃった……学校なのに……は、恥ずかしいよぉ……」


 ……もう一度したくなるな。


 ……だか、自重するとしよう。


 いや……すでに、自重できてないか……?


 ……まあ、いいか。


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