第29話冬馬君は彼女が可愛いが止まらない~後編~

 さて、今俺達は手を繋ぎ、喫茶店アイルに向かっている。


「あ!この辺!」


「そうだな、綾が絡まれていた場所だな」


「う、うん……冬馬君、改めて本当にありがとうございました!」


「まあ、あの時は……正直言って、面倒だと思っていたが、結果的に良かったよ。大切な女の子を守れたんだし」


「た、大切……どうしよう……」


「なんだ?後悔したか?俺は重いと言っただろ?」


「ううん!嬉しいよ!ただ、心臓が……」


「そうか…なら、出来るだけ抑えるとしよう」


「え!?そ、それはそれで嫌というかなんといいますか……はぅ……」


 これは……妹がよく言っている、乙女心は複雑というやつか?

 とりあえず、可愛いのだが……まあ、押し付けは良くないよな。

 いや、でも……喜んでいるから押し付けてはないのか?


「お互いに慣れていくしかないかもな。嫌だったら言わないから、その時は言ってくれ」


「そんな時はきません!絶対に!」


「お、おう。そうか」


「ご、ごめんなさい」


「謝ることはないさ。ほら、行くぞ」


「うん!」


 そして、喫茶店アイルに到着し、一度手を離して中に入る。


「いらっしゃいませ、お客様……おや?冬馬君でしたか。1人でないとは珍しいですな。いや、これは失礼しましたね。お客様の詮索はご法度でした」


「マスターは相変わらずですね。大丈夫ですよ。むしろ、紹介させてもらってもいいですか?これから、連れてくるかもしれないので」


「ほう?冬馬君がそういうのならば、大切なお方ということですか。では、私も挨拶をしなくてはですな……ゴホン!初めまして、お嬢さん。当店のマスターでございます。冬馬君とは、四年ほどのお付き合いになります。以後、よろしくお願いしますね」


「は、はい。ご丁寧にありがとうございます。私の名前は、清水綾と申します。その、えっと……冬馬君の、か、彼女です……」


 なんつー可愛さだ!!

 俺を殺す気か!!


「これはこれは……どうやら、壁をぶち破る方が現れたようですね?」


「ええ、マスター。とっても、可愛くて素敵な女の子なんだ」


「はぅぅ……!」


「ホホ、いいですな。若いというのは……では、いつもの席へどうぞ」


「ありがとう、マスター。綾、いくぞ」


「は、はい……」


 2人で向かい合って、いつもの席に座る。


「へぇー……いつも、ここで……うん、良いところだね。マスターさんも、紳士的だね」


「だろ?ああいう大人になりたいものだな。まだまだだけどな」


「ふふ、冬馬君なら、素敵な大人になれると思うな」


「そ、そうか……ありがとな」


「あれ?……もしかして、照れてるの?ふふ、やったね」


「こりゃ、まいったな……」


 その後、いつものように、マスターがタイミングよくきたので注文をする。


「ンー!?これ、美味しい!」


「だろ?マスターのナポリタンは格別に美味しいんだ。オリジナルのタレを、仕上げに入れるらしい」


「へぇー!そうなんだね!」


 食事が終わるタイミングで、マスターが紅茶とコーヒーを持ってきてくれた。

 俺は綾に気づかれぬように、マスターにあるものを渡す。

 よし……気づかれてないな。


「うん!美味しいね!私、甘すぎなくて好きかも」


「それは、良かった。マスターは見ただけで、大体の好みがわかるらしいからな」


「すごいね、それ。やっぱり、長年の経験ってことかな?」


「まあ、そうだろうな」


 やはり、ここで正解だったな。

 綾の緊張というか、自然な状態になっている。

 さすがは、マスターだ。


 そしてお喋りを楽しんだ後、店を出ようとする。


「あれ!?会計済んでないよ!?」


「大丈夫だ、もう払ってあるから」


「はい、冬馬君から頂いております。では、お気をつけて」


「マスター、ご馳走さまでした。また、来ますね」


「え?え?ご、ご馳走さまでした!美味しかったです!」


 戸惑う綾の手を引き、店を出る。


「冬馬君!?いつ払ったの!?」


「うん?まあ、いいだろ。初デートなんだから、俺に払わせてくれ」


「え?う、うん、いや、でも……」


「最初くらい、俺にカッコつけさせてくれ。ダメか?」


「だ、ダメじゃないですぅ……」


「そっか、ありがとな。さあ、いくぞ」


 さて、いよいよアレである……俺の自制心よ!!ここが踏ん張りところだぞ!!






「ちょっと、緊張するね……私、男の人と2人でくるの初めてだから……」


「大丈夫だ、俺も初めてだ……少し、緊張するな……」


「冬馬君も……?そっか、エヘヘ」


「じゃあ、俺から入れるか」


「う、うん!どんなの歌うんだろ?」


 はい、というわけで、カラオケです。

 ……何か、勘違いしましたかね?

 ……健全なカラオケです。

 たまにいる、盛っている高校生のようなことはいたしません。


 ……いや、カラオケって自制心必要だと思わないか?

 好きな女の子と、何時間も密室に一緒という……あんま、考えるのやめよう。


「まあ、ジャニー○系か、アニメ主題歌が多いかな。とりあえず、いつもので良いか」


 入力し、イントロが流れ始める。

 そして、気合いを入れて歌いだす。


「え!?凄い!冬馬君、上手!!」


 ふっ、ぼっちの自主練を舐めちゃいかんぜよ。


「フゥ……緊張したな」


「凄いね!私、色々聞いてきたけど、一番上手いと思うよ!」


「そ、そうか。うむ……悪くないな」


 綾となら、カラオケも楽しめそうだな。


「え?なにが?」


「いや、楽しいと思ったんだよ。ほら、綾の番だぞ?」


「は、恥ずかしいね……下手でも、笑わないでね!?」


 そしてイントロが流れ、綾が歌いだす。


 ……これは……破壊力があるな……めちゃくちゃ可愛いんだが。

 決して上手いわけではないが、とにかく声が可愛い。

 別に、ぶりっ子のような歌い方をしているわけでもないのに……。

 元々の声が良いのと、単純に俺の好みなのかもな。


「ふぅ……緊張したぁ……ど、どうかな?」


「可愛いが炸裂した」


「え?………えぇー!?」


「可愛さがゲシュタルト崩壊した」


 マズイ……!止まらない!!


「あ、ありがとう?なのかな?」


「……ああ、褒めている。とても、良かった。俺好みの歌声だった」


「ほんと!?良かったぁ!」


 ……カラオケは危険だ……。

 己を律する鍛錬も必要かもしれん……。





 その後、なんとか乗り越えることが出来た……。

 カラオケでイチャつくんじゃねえ!と思っていたが、アレは危険なものだ。

 もちろん、カラオケでそんなことはしないが、理解はできる。


「楽しかったね!また、来てもいいかな……?」


 そんな可愛い顔で言われて、断れる奴なんかいないだろ……。


「ああ、良いよ。俺、ガンバル」


「ん??なんで、頑張る……?そして、カタコトなんだろう……?」


 その後、綾の追求を逃れ、家まで送り届ける。

 もちろん、綾は再び着替えている。

 今日は、夕方からバイトだからな。


「冬馬君!ありがとう!今日は、とっても楽しかったです!」


「それなら良かったよ。その、なんだ、俺も楽しかったしな」


「冬馬君……」


「じゃあ!俺帰るわ!バイト行ってくる!」


 俺は照れ臭くなり、バイクのエンジンをかけて発進する。


「ありがとねー!バイトあるのにデートしてくれてー!バイト頑張ってねー!」


 その言葉を背に聞きながら、俺は思う。


 惚れてまうやろー!!いや、惚れているけれども!!


 アイツ、可愛すぎるだろーー!!


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