第22話冬馬君は決断する

 さて、あれから1週間が経過し、6月の第3週の休みを迎える。


 俺は、バイトや自分の趣味に時間を使いつつも、清水との交流を深めていた。


 まあ、メールしたり……あと、電話を初めてしたな。


 そのことにより、俺はある考えに至る。


 学校でも、俺は変わろうとしている。


 もちろん、いきなり変わったら変に思われるので、少しずつだ。


 朝の挨拶をしたり、清水と話したり、前の席の田中君と話してみたり……。


 まあ、その程度だ。


 相変わらず、ぼっち好きに変わりはないしな……。





 そして、今週の土曜日も清水の家に来ている。


 だが、今日はいつもとは違う。


 何故なら、今日は誠也はいない。


 お母さんはいるようだがな。


 まあ、つまり……今日は、清水の部屋でお勉強会なのだ……。


「あのね、ここわかんなくて……」


「ああ、それなら……」


「あ、なるほど。ありがとう!」


「お、おう」


 ことの発端は、先週の清水の家での会話だった。





「ねえ、吉野君。国語って得意だよね……?」


「うん?まあ、得意だな。クラスでトップだったこともあるな」


「そうだよね……あの……もし、よかったらでいいんだけど……」


「お姉ちゃん、モジモジしてどうしたのー?」


「誠也!ダメよ!今、綾は戦っているのよ!」


 ……なんというか……愉快な家族だ。

 でも、良いものだな。


「わ、私に勉強を教えてくだしゃい!!……あぅぅ……!」


 ……思いっきり噛んだな……まあ、可愛いからいいのだが。

 うん、これは確かめる良いチャンスかもしれないな。


「いいぞ。ただ、清水学年でもトップ5じゃなかったか?」


「そうなんだけど……国語だけ低いの……本好きなのに……」


「別に国語低くても、本好きでいいだろ。いいよ、俺で良ければ教える」


「ほ、ほんと!?嬉しい……!」


 本当に嬉しそうな顔しやがる……まいったな、これは……。






 そして、今に至るわけだ。


 はい、ここで問題がある。


 ……女子の部屋入るの初めてなのだが?

 何故に、こんな良い匂いがする……?

 妹の部屋では、こんな匂いしないぞ?

 見た目は、ごくごく普通の部屋なのに……。

 清水の部屋というだけで、落ち着かない……。


「吉野君、どうかしたの?」


「……いや、割とシンプルな部屋だと思ってな……あ、悪い意味じゃないからな?」


「ホッ……良かったぁー……うん、あまり色々置いたり、キラキラしたのは苦手なんだ」


「なるほど……」


 すると、ドアが開く。


「はいはーい!お菓子とお茶入りましたよー!」


「お母さん!ノックくらいしてよー!」


「あら?いいじゃない!別に、キスでもしてたわけじゃないんでしょ?」


「キ、キ、キ、キ……!!」


「おい、お前はキツツキか?落ち着け。このお母さん、遊んでるぞ?」


 ……という俺も、正直ドキっとしたがな……。


「あら?つまんないわねー。でも、それぐらいなら許すから!」


 そう言い残し、部屋を去った。

 何やら、二人で黙り込んでしまう……。

 ……いや、この空気どうすんの!?

 俺だって冷静ではないんですけど?


「お、お母さん、何言っているんだろね?ご、ごめんね……?」


 清水の顔は真っ赤になっている……俺は平気か?


「……いや、気にするな。楽しいお母さんで、良いと思う。少し、昔を思い出す……」


 母さんが生きていたら……女の子を連れてきた俺に、どんな反応したのかな?


「そういうの見るの……辛いかな……?」


「いや、辛くはない。不思議とな……ああ、良いなぁとは思うがな」


「そっか……」


「……母さんがな……」


「え……?」


「もし生きていたら、どんな反応したのかと思ってな。その……女の子を連れてきたらな。結構、写真とは違ってな……ビシバシ言う人だったんだぜ?」


 俺は今、初めて母さんの話をしている……。

 死んでから今まで、家族以外には誰にも話したことはない。

 アキにも、真司さんにも……。

 人から聞かれることはあったが、上手くはぐらかしてきた。

 話すのには、覚悟がいるから……じゃないと、涙腺が崩壊してしまう……。

 だが、俺は今、自然と話せる気がした。

 もしかしたら、清水が一度も母さんについて聞いてこなかったからかもしれない。

 だから、少し気持ちの余裕が出来たのかもしれない……。


「……そうなんだ」


「ああ、結構叱られたな……女の子には優しくしなさい!とか、喧嘩しちゃダメです!とか」


「ふふ、そうなんだね。あれ?でも……」


「そうなんだよ。俺は一度、母さんとの約束を破った……喧嘩に明け暮れ、家族を頼むと言われたのに、出来なかった……」


「吉野君……」


「母さん、怒ってるかな?」


「……どうかな?吉野君の中のお母さんは、なんて言ってる?」


「……もう!しょうがないわね!とか言ってそうだな」


「なら、それが答えなんじゃないかな?」


「そうか……ありがとう」


「ど、どういたしまして……エヘヘ……」


 その後、勉強に集中して帰宅する。




 夕飯を食べ、俺はリビングで考えていた……。


 そして妹が風呂に入り、親父もまだ帰ってきていないタイミングで動く。


 和室に行き、お仏壇の前に正座する。


「母さん……今日、久々に母さんの話をしたよ。なんとか、泣かずに話せたと思う。その子は、とても良い子なんだ。家族思いだし、笑顔がとても素敵な子だ。何より……俺はその子といると、自然体で落ち着いていられるようなんだ。でも、近くにいるとドキドキする……きっと母さんはいうかな?今更よって……そうだね、もう逃げないよ。大丈夫、もう覚悟は決めたから……」


 俺はこの間、電話した時に思った……また、声が聞きたいと。


 ……そして、会いたいと。


 さらに、今日で確信した。


 俺は、清水のことが好きなんだと……。


 あとは、本人に伝えるだけだ。

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