第21話冬馬君は清水母に会う

 あの突撃見舞いから、日にちが経った。


 幸いなことに、俺も誠也も元気のようだ。


 学校でも、大した噂にならずに鎮火した。


 おそらく、俺と清水がいたって普通にしていたからだろう。


 俺も清水も、ベクトルが違うが対人スキルは高いしな。


 どもったり、照れたりすることもなく説明したしな。


 ただ、一番の理由は……まあ、あり得ないでしょ?ということだとは思うがな。




 そして今日、再び清水の家に行く日を迎えた。


 6月の中旬だが、幸いなことに雨も降っていない。


 俺はバイクに乗り、家を出る。


 もちろん、妹に茶菓子を渡された。


 俺は、信号待ちの間に思い出していた。


 確か……今日は母親がいるといっていたな……。


 うーん……どうすれば良いんだ?


 彼氏ではない……友達ではある……いや、そもそも誠也と遊んであげるために……。


 ……わからーん!!もういい!!男は出たとこ勝負だ!!


 俺は事故を起こすとマズイので、運転に集中する。


 そして、清水家に到着する。


 俺がインターホンを押すと、声が聞こえてくる。


「あらあらあら!!」


「ちょっと!?お母さん!?私が出るから!!」


「いいじゃない!お母さんだって挨拶したいわ!」


 ……どうしよう、少し不安になってきた。


 そして、1人の美女と清水が玄関から出てきた。


 あ、ちなみに、今日は髪型も服装も整えてある。


 さすがに、気になっている女の子の母親に会うからな……。


「あらあら!!」


「こんにちは。清水さんのお母さんでよろしいですか?初めまして、吉野冬馬と申します。今日は、よろしくお願いします」


「まあ!ご丁寧にありがとうございます。綾、良い男じゃない!」


「お母さん!叩かないでよ!ごめんね、吉野君。お母さん、ちょっとテンション上がっちゃって……」


「いや、気にしないでいい。歓迎されているということだろう?有り難いことだ」


「まあ!随分しっかりした子っぽいわね……うん!良いわね!」


「吉野君、とりあえず上がってください……本当に、ごめんなさい」


 どうやら、愉快なお母さんのようだな。

 見た目は、どう見てもお姉さんにしか見えないがな……。

 清水によく似て……違うか。

 清水はお母さんによく似たようだな。

 並んでいたら、親子には見えない。

 ただ、無理して若作りしているような感じもしないし、自然な感じだ。


「いや、良いよ。楽しそうなお母さんで。では、お邪魔します」


 そのまま家に入り、リビングに通される。


「あ!冬馬さん!こんにちは!!」


「よう、誠也。こんにちは。お互いに風邪が治って良かったな」


「はい!ねえねえ!早くやろうよ!」


「誠也、待ちなさい。先にお茶にしましょう」


「誠也、すまんな。俺も先にお母さんに話があるんだ」


「吉野君……?」


 俺とお母さんは、テーブルの席に着き向かい合う。


 まずは、俺からだな。


「清水さんのお母さん。まずは、謝罪を。お母さんの居ない時に、家にお邪魔して申し訳ありませんでした。そして、挨拶もせずに帰り、申し訳ありませんでした」


「吉野君!?頭下げなくても……」


 実はいるものだと思ってお邪魔したが、言い訳はしない。

 男である俺が、年頃の女の子の家に上りこんだことは事実だ。

 すると、さっきまでと打って変わり、お母さんは鋭い目つきになる。


「あら……先手をうたれたわね。うちは今、父親がいませんからね。私が両方担っているつもりです。正直なところ、良い気はしませんでした。ただ、今のお言葉でそれはなくなりました。更に、うちの娘が内緒にしてただけなので、貴方に非はありません」


「そう言って頂けると有り難いです」


 俺も自分に置き換えたら嫌だもんな。

 妹が知らぬ間に男を家にあげていたら……滅殺だ!!


「では、それは終わりにしましょう。次はこちらからです。娘から事情は聞きました。娘を暴漢から守ってくださりありがとうございます。更には、誠也までお世話になったそうで。ここにいない父親の分も込めて、感謝いたします」


「頭を上げてください。俺は、俺の信念に従い行動したまでです。ただ、感謝の気持ちは頂こうと思います」


「……本当に、しっかりした子ね。ただ、助けた時に、妙に手馴れていたみたいですね?」


「それは……まあ、はい」


「お母さん!もう良いでしょ!仕事じゃないんだから!」


 仕事……?どういう意味だ?


「まあ、待ちなさい。吉野君、私の目をじっと見つめてくれますか?」


「え?……わかりました」


 俺は、清水のお母さんをじっと見つめる。

 なんだ?この見透かされそうな感じ……。


「……綺麗な目……揺らぎのない……これは、問題ないわね」


「あのー、どういうことですか?」


「ごめんね、吉野君。お母さん弁護士やってて……」


「そうなのよ。だから、職業柄大体わかるのよ。どんな人間かはね……」


「なるほど……そういうことですか。とりあえず、合格ですかね?」


「ええ!合格です!もう!カッコいいじゃない!綾、良くやったわ!」


「はい?」


「ごめんね、吉野君。仕事モードとプライベートが違いすぎて……こっちが素なの」


「いや、わかる。俺もモード切り替えはあるからな」


「あ、それもそうだよね。そういえば、私もあるね」


「ねえねえ!お話終わった!?」


「はい、終わりましたよ。誠也、迷惑かけてはダメよ?」


「よし!じゃあ、やるとするか」


「うん!」






 その後、2時間ほどゲームをして、休憩にする。


 再び席に着き、お茶をいただく。


「あ、すみません。これ、妹からです」


「あら!妹さんまで、出来た子なのね!では、ありがとうと伝えてね」


「はい、自慢の妹です」


「……ところで、綾の彼氏で良いのかしら?」


「ッ!!ケホッ!お、お母さん!?」


「あらあら……ダメじゃない。女の子が、口からこぼしちゃ」


「お母さんのせいだよ!」


「で、どうなのかしら?」


「いえ、彼氏ではありません……今のところは」


「なるほど……慎重な姿勢なのね。まあ、すぐに付き合うような人よりは、信頼できるわ」


「もう!お母さんったら……今のところ……?」


 清水は、何やら考え込んでいる。

 すまんな……もう少しだけ待ってくれ。


「では、吉野君!」


「はい、なんでしょう?」


「今日から、いつでも我が家にくることを許可します。これからも、綾と誠也と仲良くしてくれたら嬉しいわ。もちろん、貴方の時間があるときね」


「ありがとうございます。では、ちょくちょくお邪魔させて頂きます」


「吉野君……エヘヘ、これからも来てくれるんだ……」


「やったー!!冬馬さん!ありがとう!」


「あらら、2人共喜んじゃて……お父さんには、言えないわね」


 こうして、2回目の訪問も無事に終わった。


 とりあえず俺は、お母さんに認めてもらえたようだ。




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