Ⅱ 探偵稼業にはまず聞き込みを
「――こいつはまた、いい所にお住いのご様子で……」
俺は、目の前にそびえる白いコロニアルスタイルの新築豪邸を見上げ、嫌味混じりに感嘆の声を漏らす。
その声をかけてきた紳士――スティヴィアノ・フローリエンスは貿易商を営んでいる金持ちで、シエスタバレという新興の高級住宅地に住んでいた。
「何をしておる。さっさと来い!」
「そんじゃま、ちょっくらお邪魔しますぜ……」
催促するスティヴィアノの声に、俺は首に巻いた赤いチェックのスカーフを締め直し、なんとなく居住まいを正してからその瀟洒な玄関の扉を潜る……。
「ヒュ~……ここは貴族さまのお城か?」
家に上がらせてもらうと、玄関を入ってすぐの所には大きなシャンデリアの下がる宮殿のような大広間があるし、依頼の詳細を聞くために通された応接間も、値の張るような調度品で飾られたなんとも金持ち趣味の豪勢な雰囲気だ。
なんともまあ羨ましいゴージャスなお宅にお住まいだが、スティヴィアノの話したところによると、なんでも最近、その家の中でガタガタと異様な物音がしたり、椅子や机がひとりでに動き出すなどの怪奇現象が頻発してるんだそうな。
特にひどいのが末娘のカロリアーナの部屋で、家具が動くどころか彼女の人形が生きているかのように歩いたり、不気味な男の声を聞いたり、黒い人影のようなもの見たという家人もいたりする。
その様子からして、いわゆる〝
「――うん。あたしのお部屋にはキーンがいるの。ううん。知らない人。他にもお友達がいっぱいいるんだって」
その6歳になるという栗毛の可愛らしい顔をした少女は、舌足らずな言葉使いで俺にそう話してくれた。
まだ幼いんで、そいつがどういう存在なのかよくわかってないためか? 不思議と怖がっている様子はねえようだ。
キーン……いったい何者だ? このシエスタバレはもともと何もねえ谷間だったと聞いているが、以前からこの土地に取り憑いてた魔物なのか、それとも家族の誰かに関わる人物の霊なのか……カロリアーナは知らないと言ってたし、今度は家主のスティヴィアノはもちろん、他の家族も全員集めて何か知らないか尋ねてみる。
「――キーン!? そんなやつ知るわけがないだろう! 貴様、わしに難癖をつける気か!?」
「そ、そ、そんな名前の男は知りませんわ! な、なんなんざますの藪から棒に!?」
すると、スティヴィアノと奥さんのダイランは、尋ねるなり速攻で首を横に振る。だが、その血相を変えて声を荒げる様子がどうにも怪しい。
「ねえ、キーンってもしかして前にいた……」
「うん。そうだよね。いつの間にかいなくなっちゃったけど……」
さらには両親に質問する俺の話を聞いて、長女のダナエラと長男のロービンがなにげにそう呟いたのだが……。
「子供が大人の話に口を出すな! おまえ達はどこか遊びに行っておれ!」
「誰か! 子供達の面倒をみてなさい! まったく、役立たずな使用人ばかりなんだから!」
その口を阻むようにして、フローリエンス夫妻は大声を出すと、驚く子供らをその場から追い払ってしまう。
ますます怪しいぜ……この因業そうな金持ち夫婦、ぜってえ何か隠してやがる……。
「ま、実際に見てみねえことには始まらねえ。さっそく今夜、お嬢さんの部屋に泊まってみることにいたしやしょう」
だが、これ以上訊いても口は割らねえだろう。俺は夫妻にそう告げると、一旦、準備を整えるためにこの騒霊の棲む豪邸を後にすることにした――。
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