245話 旅立ち

 すると……皆の時が動き出す。


「あれ? クロス君はいるけど……」


「二人がいないのだ?」


「ご主人様?」


「二人は帰ったよ……元の世界に」


 俺は手短に説明をする……思い出して涙が出ないように。

 結衣はもちろんのこと、和馬との別れが辛かった。

 彼がいなければ、今の俺はいない。


「そうなんですね……でも、わたし達がついてます!」


「そ、その! 拙者たちがいますから!」


「そうですよ〜」


「……ああ、ありがとう」


 どうやら、見抜かれてしまったらしい。

 ふむ……和馬がいなくなったからというわけではないが。

 今、このタイミングが良いかもしれない。


「じゃあ、三人共——俺と結婚……家族になってくれるか? 爵位もなければ皇位継承権もない、ただの男だが……皆と一緒に年を重ねていきたいと思ってる」


「……グスッ……はいっ!」

「うぅ……もちろんなのだ!」

「えっと……私もいいんですか?」


 セレナは泣きそうになり、カグラは笑顔で頷き、アスナは怪訝な顔をしている。

 それぞれ魅力的な女の子ばかりで、俺にはもったいないほどだ。


「ああ、アスナもだ。嫌なら断っていいぞ?」


「嬉しいですけど……どういう心境の変化ですかね?」


「いや、今の俺は


 前世の倫理観から、正直抵抗があったのだと思う。

 しかし、それは和馬を言い訳にしていたのかもしれない。

 成人もしたし、良い機会だ……改めて、俺はアレスとして生きていこう。


「そうですか……じゃあ! 早速子作りですね!」


「アスナ! 拙者が最初なのだ! そういう約束だったのだ!」


「わ、わたしは二番目でも……最初でも良いですよ?」


「セレナさん? おかしくありません? 」


「ほほう? 腹黒セレナが出てきたか?」


「腹黒じゃないもん!ほ、ほら! もう正妻とかないですから! この大陸から出て行くわけですし!」


「むぅ……確かに一理あるのだ。アレス様は職につくわけでもないし」


「言えてますね〜、爵位もありませんし……ということは戦いですね」


「いいだろう! 拙者が一番乗りなのだ!」


「ま、負けません!」


「おい? 三人共? ……聞いちゃいないな」


 やれやれ、嬉しいが……少し勢いに負けそうだな。

 男性一人に、女性三人か……やっぱり、オルガについてきてもらうべきだったか?


「キュイ?」


「うん?」


「キュイ!」


 クロスが、俺に頭を擦り付ける。


「そっか……俺にはお前がいたな。相棒、俺の相談を聞いてくれな?」


「キュイ!」


「「「まさか……ライバルはドラゴン?」」」


「キュイ?」


 どうかなるか心配だったが、楽しい旅になりそうだ。





 その後、結界の外に出て……。


「さあ、行こうか。クロス、俺は腕に乗る。三人を背中に乗せてくれ」


「キュイ!」


 全員が乗ったのを確認して、クロスが空へと羽ばたく!


 そして、そのまま海を越えていく!


 見えてくるのは……闇の結界だ。


「皆! 準備はいいな!? あれを抜ければ別世界だ! おそらく未知の敵もいる!」


「魔法、いつでもいけます!」


「前衛は拙者に任せるのだっ!」


「わたしは補佐に回りますねー」


「キュイ〜!」


 俺が、いや……和馬がこの世界に転生した意味、それは結衣を救ったことで終わった。


 もちろん、和馬と共に過ごした日々は掛け替えのない宝物だ。


 大切な仲間、愛する女性……辛いこともあったが、忘れることのない日々だった。


 そして、アレスとしての役目もひとまず終わった。


 これからは……アレスとして第二の人生を生きていこう。


 アレスにしかできないこと……いや、俺がしたいことを。


「よし……クロス! 俺たちを連れてってくれ——まだ見ぬ新大陸へ!」











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