237話 成人の日

翌朝……俺たちは用意をして家を出る。


五人を先に行かせ……俺だけが最後の挨拶をする。


「お兄ちゃん……」


「師匠……」


「おいおい、泣かないって約束したろ?」


「だってぇ……どうして良いことしたお兄ちゃんが……」


「そうなのじゃ!」


「仕方ないんだよ。それに、俺自身が決めたことだ。この狭い世界を出て、広い世界を旅したいってな」


そう……俺は仕方なく出て行くわけじゃない。

俺は生まれてこのかた、運命に縛られてきた。

自由になった今……俺は考えていた。

この世界で、俺がしたいことを……。

そして、やりたいことが見つかった。

それが、まだ見ぬ世界への冒険ってやつだ。


「うん……帰ってくるよね?」


「ああ、もちろんさ。お兄ちゃんが約束破ったことあるか?」


すると、二人にぎゅっと足元にしがみつかれる。


泣くかと思ったら……顔を上げて笑顔を見せてくれる。


「……いってらっしゃい、お兄ちゃん!」


「うむ! 行ってくるのじゃ!」


「ああ、行ってくる。父上と母上を頼んだぞ」


「おいおい、まだまだ若いっての。そうだ! もう一人くらい作るか!」


「も、もう! 何言ってるのよ!」


……自分の子供を作る前に、弟か妹が出来てそうだ。


「アレス様」


「カイゼル、片腕のお前には悪いが……」


「いえ、片腕さえあれば充分かと。アレス様不在中の守りはお任せを」


「ああ、カイゼルなら安心だ……俺が子供を連れてくるまで死ぬなよ?」


「クク……それは死ねない理由ができましたな。ええ、この腕に抱く日を楽しみにしております」


「……それじゃあ、みんな……元気でな!」


俺は、振り返らずに背を向けて歩き出す。


……そうしないと、もう涙を堪えるのが限界だったから。







その後、人目を避けるように門の入り口に行き……。


ブリューナグ家の紋章が刻まれた馬車に乗り込む。


もう一台の馬車には、中村君と結衣が乗っているはずだ。


「待たせたな、三人とも」


「いえいえ〜」


「カグラちゃん、お願い」


「うむ! 行くのだ!」


そして、ゆっくりと馬車が走り出し……生まれ育った場所を出て行く。


「………」


「アレス様……」


「御主人様……涙が出て……」


「いや、すまん……さっき拭いたばかりなんだが」


俺は二人から目を背け、外の景色を眺める。


以前、グロリア王国に行った時とはまた違う。


今回はいつ帰ってこれるかわからない。


未知の世界に行くということは危険との隣り合わせ。


ワクワクと寂しいという気持ちが混同する。


だが、俺とて一人立ちしないとな。


今日は、俺が成人になった日なのだから。

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