220話 ゼト

 ……ふふ、もう私は必要なさそうですね。


 アレス様、ライル様……カイゼル師匠、若者たちは立派に成長しましたよ。


 あとは、私が大人代表として——花道を作るだけ!


「どこを見ているのです!?」


「これは失礼。止まって見えたものでな」


 迫り来る剣を軽くステップをして躱す。

 この者の強さ、速さともに一流でしょう。

 ですが……私の敵ではありません。


「な、なめるなァァァ!」


「——舐めているのは貴様だっ!」


 右手に構えた剣で、相手の剣を弾く!


「くっ!? て、手が痺れるだと……!」


「何を調子こいているのかはわからないが……貴様は、私を誰だと思ってる?」


「な、なに? 戦わずに引きこもっている近衛騎士様でしょう?」


「まあ、そう見えるのは無理もない。皇帝専属の近衛騎士、それは最強の騎士に与えられる称号。たかだが暗殺者ごときに負けるはずがない」


「ア、アレスは、私に苦戦していましたが?」


「何を言うかと思えば……次を見据えて余力を残して戦っていたに過ぎない。彼の方が本気になれば、私とて危ういだろう」


 男子三日会わざれば刮目して見よとは、よく言ったものだ、

 あの短期間のうちに、どんどん強くなっている。

 話によると全盛期の頃に戻ったカイゼル様を破ったという。


「舐められたものですねぇ……!」


「故に、私の役目は決まっている。お前を殺し、いざという時に——皇族の方の盾になることだ」


 足に力を込めて、敵との間合いを詰める!


「水よ! 敵を飲み込め——タイダルウェーブ!」


「セァ!」


「なっ——!? 津波を斬り裂いた!?」


「私の訓練相手はコルン殿! 二流の魔法使いなど敵ではない!」


 魔法を斬った私は、水に濡れながらも、そのまま相手との距離を詰めていく。


「に、二流……ふざけるなぁぁ! 貴様を真っ二つにしてやる ——アクアレーザー水の光線!!」


 放たれた魔法は、帝級魔法。

 その威力は城すらも真っ二つにするというが……。


「キ……キェェェェ——!!」


 その水の光線を、上段の構えから振り下ろした剣にて……真っ二つにする!


「なぁ!?」


 そして、隙だらけになったやつに迫り……心臓を貫く!


「真っ二つになったのは貴様の魔法だったようだな」


「ば、バカな……何故、帝級魔法が……」


「ただの帝級など、精度のいい超級にも劣る。大事なのは魔法の熟練度だ。剣の実力もそうだ。貴様は自分より弱い者としか戦ってこなかったのだろう。故に、二流だと言ったのだ。それがアレス様と貴様の大きな違いだ……もう聞こえていないか」


 マントを脱ぎ、そいつにかける。


 そして私は、ライル皇帝陛下の元に向かう。


アレス様には、私など必要ないだろうから。


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