205話 師弟

 まだまだ疑問点はある。


 聖女とは? 勇者とは?


 この大陸というが、この世界はそんなに狭いのかとか。


 封印とは具体的にどういうことなのか、魔物とはなんだ……キリがない。


「クク、色々聞きたそうだ」


「聞けば答えてくれるのか?」


「ただで教えるのはつまらん。さあ、続きをやってもらおうか。そいつを倒せたら、色々と教えてやろう」


 静かに佇んでいたカイゼルが動き出す。


「良いだろう……こい、カイゼル——弟子として、主人として、お前の目を覚まさせてやる」


「ガァァァァァァァ!」


 魔法は一切使うつもりはない。

 己の剣術のみで——!


「ふっ!」


 迫り来る剛剣を、柔剣でいなす!


「カァ!?」


「どうした? 動の剣の極みとは、そんなものか?」


「カ……ガァァ!」


 カイゼルが動なら、俺は静……そうだ、散々言われ来たじゃないか。





 ◇


 グロリア王国から帰ってきたある日、カイゼルに言われたことがある。


「アレス様」

「ん? どうした?」

「少し、剣技が荒れておりますな」

「そうか?」


 自分では意識していないが、カイゼルが言うならそうなのだろう。

 グロリア王国に一年以上いたからかもしれない。


「ええ、貴方の剣は静の剣。私の動の剣とは違う」

「まあ、俺にはカイゼルのような体格も力もないからな」

「無論、それもあります。ですが、もっと大事な理由があります。以前にも、教えたはずですが」


 えっと……確か、最初の頃か。

 動の者は激情に任せひたすら攻撃に転じ、相手に攻撃の隙を与えない。

 静の者は激情を抑え受けに徹し、ここぞという時に返し技を与える。


「静の者は、いつ如何なる時も冷静であれ……だったな」

「はい、その通りです。私も今でこそ静の剣も扱えますが、それは歳を重ねて来たからです。若いうちは自分に合った剣技を極めると良いでしょう」

「俺は静を極めるか……」

「ええ、貴方はお優しい。故に、激情に駆られることもあるでしょう。ですが、そんな時ほど冷静になるのです——たとえ、相手が誰であろうとも」


 そうだ、俺が間違えそうな時、迷っている時、困っている時……。


 いつだって、カイゼル師として導いてくれた。


 カイゼルが間違ったのなら……それを正すのも弟子の務め!




 ◇


 ならば——俺にできることは!


「カァ!?」

「どこを見ている!」

「グカァァァァァ!」


 迫り来る剣を右へ左へと、紙一重にかわす。

 冷静に、慌てず、刀を鞘に仕舞い、ただ——その時を待つ。





 どれくらい経っただろうか……ついに、その時が来た。


 焦りからか、カイゼルの剣が……一瞬遅くなる。


「今——一刀龍閃」


「ガァァァァァァァア!?」


 俺の居合斬りは……カイゼルの利き腕を切りとった。


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