189話 女神戦 3

 ……今の俺の肉体が、この刀の全力に耐えられるのは一回が限度。


 ならば、その一刀に全てを賭けるだけだ。


「ふふ、覚悟はいいですか?」


「ああ、出来ている——貴様を斬るという覚悟が」


 こいつを倒せなくても良い。

 今の俺で、少しでもダメージを負わせることができれば……。


「……口の減らない男ですね——では、確実な死を」


 奴から、いや……アスカロンがまばゆい光を放つ。


「貴方に神器の力を使う予定はなかったんですけどねぇ……シネェェ!!」


「っ〜!!」


 直感的に左に体を動かす!


(パパ!?)


(へ、平気だ! 服にかすっただけだ!)


 ……なんだ? 何が起きた?


 相手は一歩も動いていないのに、俺の服が破けた?


「避けましたか……ですが」


 よく見ろ……! 敵の手元を……! 初動を感じ取れれば……!


「いつまで続きますかね?」


 次の瞬間——奴の手元が光を放った。


(パパ——左!)


 その声に従い左に飛ぶ!


「勘がいいですね」


「……なるほど、そういうことか」


 クロスの声のおかげで、見ることに集中できた。

 どうやら、伸縮自在な槍と化しているようだ。


「おや?」


「その場から一歩も動かずに、槍を伸ばして攻撃できるってわけか」


「よく気づきましたね。ですが、気づいたところでどうしようもないですが」


 奴の言う通り……戦いにおいて、圧倒的なリーチの差は埋めようがない。

 しかし……要は戦い方次第だ。

 槍に勝つために人生を費やしたカイゼル……その弟子として、負けられん。


(クロス、お前に任せて良いか?)


(うん! 僕も役にたつよ! それにセレナも言ってたけど、パパの悪い癖だよ! もっと、みんなを信じて頼って!)


(……ああ、そうだな。お前を守るというのは傲慢だった)


(じゃあ、攻撃は任せるからね!)


「作戦会議ですか? そうはさせません!」


「ちっ!」


(右! 左! 左! 左! 右!)


 クロスの声を信じて、光の槍を避け続ける!




 そして避け続けること数分……。


 よし……目が慣れてきた。


 これなら、どうにかできるか?


「しぶといですねぇ!」


「良いのか? そんなに力を使って。俺はこうして避け続けるだけで、貴様の力とやらを使わせてやる」


 俺とて言うほど余裕はない……しかし、こいつもにも制限や焦りはある。

 女神だが何だが知らないが、完璧な存在などいるわけがない。


「……ニンゲンフゼイガァァァ!!」


 くる! よく見ろ!


 迫り来る槍を右に半歩ずれて、紙一重で躱し……。


 闇をまとった左手で……槍を掴む!


 そして奴が槍を戻す力を利用し、一気に間合いを詰める!


「——なっ!?」


「神を殺せ——黒炎刃!!」


 右手で魔刀を振り抜き、闇の炎刃を——解き放つ!


 それは奴の胴体に亀裂を与える!


「ぁぁぃぁぁぎぁぃぃ!?」


「人間を舐めるなよ」


「オ、おのれぇぇえぇぇ!?」


 俺を睨みつつも、奴がその場から去っていく。


 追い討ちをかけたいが……今は、あっちが優先だ。

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