172話 それぞれの想い

 ……まだだもん。


 まだ、平気だもん。


「あの時の辛さに比べたら……!」


「お、おい! もう休もうぜ?」


「勝手に休んでて。私は、まだやるから」


 目の前には、魔物と言われる生き物がわんさかいる。

 私たちは、訓練も兼ねて討伐を行なっている。


「光の雨よ、敵を討ち滅ぼせ——シャイニングレイ!」


「ギャァァ!?」


 私の魔法に触れた魔物は、一瞬で浄化される。

 これが、聖女の力……女神の力らしい。


「気分悪いけど……強くならなきゃ……」


「仕方ねえな……俺もやるとするか! オラァ!」


 中村の剣が魔物をバターのように斬り裂く。

 回復魔法や光魔法を使えるのが聖女、光属性を剣や身体に纏わせるのが勇者の力らしい。


「フフフ……良いわね」


「め、女神さん、あざっす!」


「二人とも、躊躇いがなくなってきましたね。これなら、敵と戦うことも出来そうですね。相手は人ですが、人ではありません。邪神と魔王の手先ですから」


「よくわかんないっすけど、怖いとか気持ち悪いとかはないっすね」


 そう……中村君の言う通りだった。

 魔物とはいえ、特に忌避感はない。


「私の加護を受けていますから。平和な世界で暮らしていたあなた達が壊れないように。もちろん、人を殺したくないなら構いません。雑兵は、ほかの兵士に任せるのです。あなた達がすることは……」


「魔王っすね! あと、その手先か……へへっ」


 中村君は、この世界に来て随分と楽しそうだ。

 私はちっとも楽しくないけど。


「それでも……これだけは譲れない」


 魔王アレスを殺すのは——私の役目だ。







 ◇




 知らせを聞いた翌日、俺たちは国境へと向かい……。


先に到着をし、敵を待ち受ける。


「……本当に良かったので?」


「もう! 平気って言ったでしょ!」


「いや……しかし」


 子供を産んで一ヶ月経ったとはいえ……。

 この戦いに参加させるのは、一悶着あった。


「だって、どっちしろ負けたら……息子は殺されるわ」


「姉さん……」


 そう、この一言で全てを黙らせた。

 確かに、フラムベルク家を許しはしないだろう。

 ここで負ければ、全てが終わる。


「何より、アレスを守りたいもの。私は、あなたに何もしてあげられてないから」


「そんなことないですよ。貴女のおかげで、俺は歪むことなく生きてこれましたから。そして、ここにいる大切な人たちと出会うことができました」


 俺は、側にいる大切な四人に目を向ける。

 オルガ、セレナ、カグラ、アスナ……命を預けられる、掛け替えのない存在である仲間だ。


「主人殿! ヒルダお姉様のことはお任せを! 拙者が必ず守りますから!」


「アレス様、何があってもわたしが回復します!」


「では、僕がカグラさんに変わって主君をお守りいたします」


「ではでは、私達は師弟コンビで頑張りますか〜」


 カグラが守ってくれるなら安心だ。

 いざとなれば、セレナがいる。

 オルガならば、俺は安心して背中を預けられる。

 そういえば、姉上を仕込んだのは……アスナのサスケ殿だったな。


「ふふ……ほんと、良い子達ね」


「ええ、本当に」


 聖女か勇者だか知らないが……。


 この難局を乗り越えてみせる。

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