161話 フランベルク家当主、その名はエラルド

 その後、ロイド義兄さんとヒルダ姉さん打ち合わせをしつつ……。


 無事にフランベルク領内に入り、当主が住む館に案内される。


「すみませんが、こっからはアレス殿のみで……」


「そうね、あの人は気難しい人だし」


「なるほど……というわけだ、みんなすまないが部屋で待機してくれ」


 みんなが一瞬不安そうな顔をするが……。


「平気よ! アレスには私がついてるわ!」


 その一言で、不安が消し去る。

 相変わらず、姉上の存在は大きいようだ。

 俺は、みんなに近づき……。


「そういうわけだ。オルガ、皆を頼む」


「御意」


「むぅ……何故、拙者ではないのだ」


「まあまあ、カグラちゃん」


「単純なことだ。戦場では頼りにさせてもらうが、平時では……ただの可愛い婚約者だからな」


「はうっ!?」


「えへへ、良かったね」


「う、うん……」


「もちろん、セレナもだ。二人とも、よくぞ俺についてきてくれた」


「「そんなの当然です!!」」


「……そうか、俺は良い婚約者に巡り会えたな」


 すると……。


「あらあら、若いって良いわね」


「ええ、そうですね」


「これは失礼しました。では、案内をお願いします」







 その後、みんなと別れ……とある部屋に通される、


 その中には、いかつい顔の偉丈夫が待っていた。


 カイゼル並みの大きさに、逞しい体つき。


 傍目に見ても、覇気が漲っている立ち姿。


 これが、フラムベルク当主……エラルド殿か。



「父上、アレス殿をお連れしました」


「……きたか」


「初めまして、エラルド殿、アレスと申します」


「ほう? 皇族名は名乗らないのか?」


「ええ、今の俺はただのアレスです。何より、貴方は皇族を認めてはいないでしょうから」


「……ふむ、話し合う価値はありそうだ。良いだろう、席につくと良い」


「お義父様! 偉そうだわ! 私の可愛い弟よ!」


「むっ……いや、しかしだな……」


「いえ、良いですよ。姉上も、大人しくしててくださいね。お腹の子に響きますから」


「仕方ないわねっ!」


「そうだ、もしかすると大事な跡取りがいるのだからな」


 ウォレス殿の、ヒルダ姉さんを見る眼差しは優しい……。

 どうやら、本当に上手くやっているようだ。

 この幸せを壊したくはないが……。




 ひとまず、対面のソファーに座り……。


「さて、報告は受けている。闇魔法を行使し、さらにはドラゴンを使役しているようだな? まさしく、魔王と呼ぶ存在そのものだ」


「やっぱり、何か知っているのですね?」


「ふむ……魔王が現れ、女神が復活した以上……聖女も召喚されているとみてもいいか。本来なら次期当主にのみ伝えるのだが、今回は特別なタイミングかもしれん。この好機を逃すと、次はないかもしれん」


 聖女が召喚されてるのか?

 いや、今は後回しだ。


「……では、教えてくれるのですか?」


「その前に、お主の推察を聞きたいところだ」


「わかりました。まずは、この世界は……誰かに都合の良いように作られたのかと」


「ほう? それは誰だ? そして、何故そう思った?」


「教会ですね。理由はいろいろありますが、まずは邪神と呼ばれるドラゴンが邪悪なものとは思えないからです」


「だが、それはお主だけではないか?」


「言い方が悪かったですね。ドラゴンは、邪悪なものだと思いこまされているのではないかと……教会、そして女神にとって敵となる存在として。そして、人々に教会や女神が正しい存在と植え付けるために」


「ふむ……それで、どうして私の家が関係すると?」


「えっとですね……我が国も、もしかしたら教会によって作られた国なのではないかと思いまして」


 その瞬間——空気が変わる。


「……続けろ」


「……はい。元々神器アスカロンに女神が宿ること、これまでに起きた不可解な皇族の死……それらはそこまで不思議なことではありません。しかし今回、ターレスという重鎮と教会騎士が手を組んでいたことなど。邪神、ドラゴン、女神、魔王……それらを考えた時に、一つのことが浮かんできました。フラムベルク家は、代々の当主が言いますね——我こそが真の大陸の支配者だと。それが、一連の流れに繋がるのかと思い、ここにきました」


 俺は頭がパンクしそうなのを堪え、一息で言葉を吐いた。


「ふぅ……どうですかね?」


「……私にも真実はわからない。しかし、我が家に伝わる内容を教えよう。アスカロン家は真の皇家にあらず。真の皇家はフラムベルク家なり。アスカロン家は女神に魂を売った裏切り者の一族なり」


「……なるほど」


「さらに……ドラゴンは邪悪な者ではない。ドラゴンこそが、真の大陸の支配者。女神は、それを奪いし者。我が家の真の主人はドラゴンなり。もし魔王が現れたのなら、その者と共に女神を打ち砕け。そして、世界を正常に戻すのだ……以上だ」


「それは……他言できませんね」


「ああ、この世界においては言ってはならんことだ」


「では、俺と手を組んでくれますか?」


「……まさか、私の代で迎えることになるとは。しかも、それが義娘の弟とは……運命というやつなのかもしれないか……ああ、もちろんだ——共に女神を打ち砕こうぞ」


 ……まだまだ謎は多い。


 しかし、これで一歩踏み出せそうだ。

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