114話脱獄……そして。

 階段を上っていくと……。


「逃すな!」


「逃すくらいなら殺してしまえ!」


 次々と兵士達がやってくる。


「道を開けよ! 我の道を邪魔するなら親殺しのライトに加担しているとみなす! 今ならば、そなた達の行動を許そう!」


「ど、どうする?」


「いや、それでも……」


「ひ、怯むな!」


「国王陛下を殺したのはあいつだ!」


 それでも、剣や槍を向けてくる者達もいる。

 どうやら、戦いは避けられないようだ。


「ロナード、俺が道を切り開く」


「待てや! 俺がやる!」


「いや、でも……武器もないけど」


「アレス、こいつに任せてくれ。肉弾戦なら、この中で一番強い」


「ところで、この人って……チャンピンさんですかー?」


「ああ、そうだ。ゼスト、出来るだけ殺すなよ?」


「おうよ! ——行くぜ!」


 その男は兵士の中に飛び込んでいくと……。


「グヘェ!?」


「グホッ!?」


 拳と蹴り、しまいには頭突きをかまし、吹き飛ばしていく。


「ガハハハッ! 弱い弱い!」


 槍や剣すらも拳で粉砕し、足蹴りは鎧を砕く。

 おそらく、強力な身体強化魔法の使い手だろう。


「……あれ? 何か、既視感ある光景だな」


「どうしましたー?」


「いや、どっかで似たような光景を見たような……」


「アレス! 今のうちに行くぞ!」


 おっと、今はそんなことを考える場合じゃなかった。






 ゼストという男をフォローしつつ、狭い通路を進んでいき……。

 幸いロナードにつく者も多く、無事に地上へと到達する。

 ついた者達は、それ以外の人間を牢屋に入れて、監視をしてくれるそうだ。


「眩しい……今は、どの程度の時間だ?」


「俺が来た時は早朝を迎えてたので、そろそろ皆が起きる頃かと」


「クゥー! 自由だぜ!」


「これからどうしますかー?」


「ひとまず、体制を整える。武器も鎧もないからな、大使館に向かう」


「では、早く移動しましょう。皆が起きだす前に」





 そして……館に到着すると。


 玄関では、ダインさんとレナが待っていた。


「お兄様!」


「レナ! 無事だったか!」


「師匠が守ってくれたのじゃ!」


「そうか……なんと礼を言えばいいか」


「で、でも……エミリアが」


「なに? そう言えば、奴はどこだ?」


「ロナード、その話は……」


「……わかった、場所を変えよう」




 通路を歩いている時に……気になったので聞いてみる。


「ダインさん、なんで玄関に?」


「どうやら目が覚めてしまったようなので、事情を説明しまして……そしたら、あそこでずっと待つと言いまして」


「そっか、ありがとね。ダインさんのおかげで、俺は自由に動くことが出来てるよ」


「い、いえ! 悔しいですが、俺は戦力にはなれないですから……」


「別に戦力になれることだけが全てじゃないですよ。現に俺は、ダインさんがついてきてくれて助かってますから」


「あ、ありがとうございます!」


「あれ? いや、礼を言うのは俺なんだけど……」


「ふふ、わかりますよー。嬉しいですよねー」


「まいったなぁ……」





 その後、部屋に移動して……事情を説明する。


「そうか……エミリアの奴が……俺が生まれる前からいたのだが」


「どうしてなのじゃ……うぅー」


「レナ、泣くでない。最後の言葉を聞くに、俺たちに情がなかったわけではない」


「は、はぃ……」


「本人は教会の者と言っていましたが……」


「うむ……どうやら、年月をかけて根を張っていたということか」


 ……もしかして、ターレスもそうなのでは?

 これは、色々と考える必要があるな。





その後、レナは安心して眠気が来たのか、部屋へと戻っていった。


ダインさんとセバスさんに任せ、俺たちは考察を続ける。


「やはり、教会の闇は深そうですね……」


「ふん! 相変わらずきな臭い奴らよ!」


「えっと……今更何ですが、この人はチャンピオンさんですよね?」


エミリアさんについての報告とか、逃走のゴタゴタで考える時間なかったけど……。

身体能力の高さといい、魔力強化といい、流石は最強と言われるチャンピオンだ。


「以前言っていた盗賊で、闘技場のチャンピオンだ。俺が捕まったこと知ったらしく、闘技場内で暴れたらしい。俺が人質になったことと、流石に多勢に無勢で捕まったらしいがな」


「奴らは卑怯だ! 俺が魔法が苦手だと知って、それしか撃ってこん! しかも人質を取るとは!」


「まあ、このような男だが……命を助けた俺に恩義を感じているらしく、あのような状況になったということだ」


 ……その律儀な性格。

 ……魔法が苦手。

 ……類稀なる身体強化の才能。

 ……その豪快な戦い方。

 ……その立ち振る舞い。

 ……まさかね。


「俺は、ロナードに救われた。きちんと二年間剣闘士として働けば解放もしてくれると。お前が死んでは、その契約も無くなってしまうではないか!」


「クク、そうだな」


「ところで、この後の予定はどうしますか?」


「そうだな……アレス、すまないが」


「俺で良ければ力になりますよ。アスナ、ダインさん、いいね?」


「ええ、もちろんですよー。その方が、色々と都合が良さそうですし」


「俺も問題ありません。些事はお任せください」


「アレス……改めて感謝する。俺を牢屋から助けてくれた上に……もし、俺が王位に就いたなら、出来る限り願いを叶える」


「ええ、お願いします。俺にも打算的な部分はあるので、あまり気にしないでください」


「うむ……ところで、このちびっ子は誰だ? さっきから、お前と対等に話しているが……こんなガキンチョが役に立つのか? いや、助けてくれたことは感謝するが」


 ちびっ子……いや、確かに30センチくらい差があるけど。

 それにしても……明るいところで、よくみると似ている気がする。


「ゼスト、少しは口を慎め。こやつは、アスカロン帝国第三皇子である、アレス-アスカロン殿だ」


「………はっ?」


「どうも、アレス-アスカロンです——我が国の貴族であるブリューナグ家のご長男さん?」


 俺がその言葉を発した時……彼の顔は驚愕に染まっていた。


 その顔が如実に語っている——やっぱり、彼がカグラのお兄さんだ。





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