115話灯台下暗し

 ……視線と視線がぶつかり、沈黙が続く。


「な、何のことだっ!?」


「目が泳いでますけど?」


「ですねー」


「はぁ!? 泳いでねーし!」


「アレス、どういうことだ?」


「えっと……捜索をお願いしましたよね? ブリューナグ家の長男について」


「ああ、アスカロン帝国の三大侯爵家であるブリューナグ家の息子がいなくなったと……はっ? も、もしや……こいつが? この礼儀も何も知らない野蛮人が? 格式と伝統を重んじるブリューナグ家の?」


 ロナードが驚くのも無理はないよなぁ。

 侯爵家の嫡男が盗賊で、他国に捕まって剣闘士とか……あり得ない。


「べ、別に……」


「ゼスト……正直に申せ。俺に恩義を感じているなら」


「ロナード……チッ、仕方ねえか。ああ、俺はガロン-ブリューナグ……アスカロン帝国の貴族だ」


 ……何ということだ。

 これが、灯台下暗しってやつか……こんなに近くにずっといたとか。


「よ、予想外ですねー?」


「さ、流石にな……いや、わかるわけがない」


「私の情報とも一致しませんよー。確か細身の美男子で、貴公子のような方だって……やっぱり、別人ですかね?」


「いや、よく見るとクロイス殿に似ている。それに成人した時に家を出たというから、成長してもおかしくなかったな」


「まさか、他国の貴族だとは……しかも、偽名か」


「うっ……すまねぇ」


「いや、結果的に良かったさ。もしブリューナグ家の者だとわかったら、国際問題に発展していたところだ」


 ……そうだよなぁ。

 これが、カグラのお兄さんか……色々言いたいけど、まずはこれか。


「ロナード、我が国の貴族が申し訳ありませんでした。皇帝陛下に変わって謝罪致します」


「ふむ、受け取ろう。こちらも、お主には返しきれぬ恩がある。ここは、水に流そう」


「感謝いたします」


「ア、アレス様、申し訳ありませんでした」


「……普通の口調で平気ですよ。なんか、今更感が半端ないので」


「そ、そうか? なら、そうするが……」


「そもそも、ロナードにもタメ口ですし。あと、侯爵家の嫡男なら、そこまで問題にはならないですから。何より——貴方は、俺の義兄になる方ですからね」


「……はっ?」


「アレス様は、カグラちゃんの婚約者なんですよー」


「へっ? ……あのじゃじゃ馬の? 男みたいな格好で、女らしさもかけらもないカグラ?」


「はは……いえ、大分女の子らしくなりましたよ。俺の可愛い婚約者です」


「そうか……あのカグラが。そうだな……あれから四年も経ってるのか」


「うむ、何やら色々と関わりがあるようだな」


「ええ、そうみたいですね。ロナード……すぐに終わるので、一瞬だけ待ってください」


「ん? ああ、良いが」


「ガロンさん」


「なんだ?」


「歯を食いしばってくださいね?」


「あん?——くっ!?」


 全力で顔をぶん殴る!


「本当はボコボコにしたいですけど……ひとまずこれで」


「な、なに?」


「俺の可愛い婚約者を泣かせたこと。心配かけたこと、心に傷を負わせたこと。クロイス殿やクレハさんを心配させたこと……皆、貴方の心配をしていましたよ?」


「そうか……ああ、俺が悪かった」


「ええ……ロナード、お待たせしました。今は、この状況をどうするかですね」


「すまぬな、色々と。だが、助かる」


「いえ、さっきも言いましたが、俺にも利点はありますから。だから、もう気を遣わないでください。俺は、ロナードとは対等でいたいので」


「アレス……ああ、わかった。お主の気持ちを受け取ろう」


「ほう? やはり、王都のクソ共の言うことなど当てにならんな。何処が出来損ないなんだか……その、なんだ…改めてよろしくお願いする」


「ええ、こちらこそ」


「ウンウン、いい感じに纏まりましたねー。それで、どうするんですか?」


「皆疲れてるところ申し訳ないが、このまま王城へ攻め込みたいと思う」


「ハハッ! 良いじゃねえか!」


「なるほど……一応、理由を聞いても?」


「もちろんだ。まずは、早期解決が好ましい。民たちは不安な日々を過ごしているし、聞いたところによると今はまだ被害はない。だが、この先もそうとは限らない」


「そうですね」


「次に、まだあちらは混乱しているはずだ。すでに俺が助け出されたことは知られているかもしれないが、まだ万全の体制を整えてはいないだろう」


「なるほど、そうかもしれませんね」


「どうやら、地方にいる貴族はまだ様子見らしい。今なら、この王都だけで問題が片付くかもしれぬ」


「わかりました、その方が良さそうですね」


「具体的にはどうなさるんですかー?」


「すぐに準備をして、強襲を仕掛ける。ゼスト……じゃなかったな。ガロン、お前の力を貸してくれるか?」


「へっ、仕方ねえな」


「では、俺たち四人を中心にして、王城へ攻め込みたい」


「了解です。レナにはダインさんをつけます」


「ああ、感謝する。では、三十分後に玄関に来てくれ。俺も軽食を済ませ、着替えてくる」






 その後、部屋に戻り……俺達も軽食を食べながら相談する。


「さて……どうするかね」


「立ち位置ですか?」


「まあ、それもある。勝手に内乱に介入してるわけだし」


「うーん、でも……まだ内乱とは言えないんじゃないですか?」


「……今はまだロナードとライト殿のみの争いか」


「ええ、ギリギリですけど。それに、私達の命も狙われていましたから」


「うん、その辺りで言い訳が立つかもね。何より俺の感情論を無視しても、我が国にとってもロナードの方が都合が良い。ただでさえ、教会やターレスがきな臭いんだ。これから何かあった時に、協力できるロナードの方が良い」


「ええ、その方が良いかと思いますよー。どっちしろ、入り口は封鎖されてますし。帰ろうにも帰れませんから」


「あとは……」


「アレですね? 使います?」


「いや……使わない方向で行こう。あんな大勢の人の前で使うとまずい。もちろん、最悪の状況になれば使うかもしれないけど」


 闇魔法を使うとしたら、俺が死にそうになるか……。

 大事な人達が危険な目にあった時だけだ。


「了解です。では、私が補佐しますねー」


「ああ、頼りにしてるよ」





 そして……いよいよ王城へ攻め込む時間になる。

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