81話セレナとデート
まずは……断った時のリスクを考えよう。
大臣たちが、俺が他国でも何かしようとしていると疑われる。
俺に対するルーン家の印象が悪くなる。
さらに、父上の陣営から抜ける可能性もある。
次に、了承した場合のリターンを考えよう。
大臣たちが、俺の動きが制限されると思い安心する。
ルーン家が味方につく……ただし、それも完璧ではないし、まだ疑う余地がある。
父上の陣営は大助かりだろうが……それさえも、策略ということもある。
「……受けようと思う」
「おやー? 結構早いですねー。 また、後日って言われると思ってました」
「後日って、俺は明日には出なきゃならないし。まあ、それを狙ってきたんだろうけど」
「ふふーやっぱり良いですねー」
ニヤッというか、ニチャって感じで笑う子だな。
せっかくの美少女が台無しになっている。
まあ、それはそれで楽で良いけど。
「なにがだい?」
「頭が悪くないです。やっぱり、馬鹿には仕えたくないので」
「まあ、それには同意するかな」
「では、ひとまず帰りますねー。明日また来ますからー」
そう言うと、あっさり帰っていく。
「よく引き受けましたな?」
「まあね……色々な道を考えたけど」
どう考えてもリスクのが高そうだ。
特に、行動を制限されるのは困る。
ドラゴンや女神や邪神、カグラの兄など調べることは山ほどある。
「なるほど、私としても賛成ではあります。使いこなせれば、いずれ良き力になるでしょう。ただし……」
「うん、わかってる。一応、注意は払っておくよ。でも、そこまではするつもりはない」
「それくらいがいいでしょう。ラグナたちとて無策というわけでもありますまい
それもある……父上が大丈夫と言った以上、何かしらの確信があるのだろう。
もし策略だというのなら、それを見抜けば良いだけだ。
最悪の場合……アレを使えば良いし。
「それよりも、お時間は平気ですかな?」
「あっ——そうだよっ! 遅刻しちゃう!」
女性を待たせるなんてしたら大変だっ!
というか、初デートに遅刻とか、前世今世関係なくアウトだっ!
俺は急いで着替えて、家を出る。
「アレス様! お乗りください!」
「ダインさん! お願いします!」
「ええ! 安全運転で、尚且つ急いでいきます!」
街の中を馬車が走り、セレナの家の前に止まる。
明日の出発前に、デートの約束をしたからだ。
「ダインさん、少し待っててもらえるかな?」
「はい! もちろんです!」
以前よりうちの御者だったダインさんは、これからは俺の専属となってくる。
なんと、他国までついてきてくれるという。
少し他人行儀とはいえ、見知った人がいるのは心強い。
「アレス様!」
「やあ、セレナ。うん、とっても綺麗だ」
まさしく成長期というやつなのだろう。
身体つきも女性らしくなってきたし、顔つきも少しずつ大人っぽくなってきた。
今日も髪の色と同じ青のドレスを着ているが、特別背伸びした感じはしない。
「あぅぅ……ありがとうございます……その、嬉しいです」
「なら良かったよ。あんまり慣れてないもんでね」
「えぇー!? 嘘ですよっ! さらっと言ってますもん!」
「だとしたら嬉しいね。特訓した甲斐があるってものだよ」
「ふえっ? と、特訓ですかぁ?」
「ああ、俺だって緊張するさ。女性をデートに誘うなんて初めてだし」
この身体ではとか言ってはいけない。
それくらい野暮だというのはわかる。
というか、間に合って良かった。
「は、初めてなんですね……えへへ」
うーん、どうしよう?
普通に可愛いのだが?
婚約者になったから? それとも、自分の意識が変わったから?
……わからんが、婚約者を可愛いと思うことは変じゃないよな。
「さあ、行こうか?」
エスコートするために手を差し出す。
「は、はぃ……」
セレナは緊張しながらも、しっかりと握ってくれる。
なんか、懐かしい感覚がする……初デートだからか?
「じゃあ、ダインさん」
「ええ、夕方頃に迎えにきます」
ダインさんに礼を言い、街を二人で歩いていく。
「わたしの隣にいるのって皇子様なんですよね……」
「なにを今更……まあ、そうは見えないとは自分でも思うけど」
「そんなことないですっ! わたしにとっては皇子様なんですっ!」
「そ、そっか。うん、ありがとう」
「はぅぅ……!」
「クスッ……可愛いね」
「ひゃい!?」
「おっと、すまない」
「ふえぇ〜心臓に悪いです……アレス様って意外とそういうこと言うんですね」
「実は、自分でも驚いているんだけど……嫌かな?」
「そ、そんなことないですぅ……」
「なら良かったよ。多分、嬉しいんだと思う」
「そうなんですか?」
「ああ、少しむず痒い感じもする」
「少しわかります……わたしは、ずっとドキドキしてます」
その後、特に会話をせずに街中を歩いていく。
気まずくもなく、ただ幸福感と安心感だけが胸の中にある。
きっとセレナだから、こんな感じになるんだろうな。
「あ、あの、退屈じゃないですか……?」
「うん? どうしてだい?」
「わたし、カグラちゃんみたいに面白い話もできないし……気の利いたことも言えませんし……」
「そんなことないさ。少なくとも、俺は楽しいけど?」
「そ、そうなんですね」
「それにカグラとセレナは違うしね。それぞれに良いところがあるさ」
「わたしの良いところって……?」
「まずは優しいね。人の痛みに寄り添える子だと思う」
「あぅぅ……」
「次に、意外としっかり者で計算高いところも良いかな。そんなセレナをデレさせるのは好きかも。俺だけが知ってるって感じで」
「はぅ……」
みるみるうちに耳まで赤くなってくる。
「おや? それも計算かな?」
「うぅー……意地悪です……わかってるくせに」
そんな感じで街を散策しつつ、途中で買い物をしたり……。
買い食いをして二人で分けたり、洋服なんかも見たりした。
そして……最後に、ひと気のないベンチに座る。
「もうすぐ夕方ですね……」
「ああ、そうだね。楽しい時間はあっという間に過ぎるから」
「ホントですよね……アレス様、貴方に会えて良かったです」
「何を急に……」
「聞いてください」
「……わかった」
「貴方は、わたしの全てを変えてくれました。引っ込み思案な性格も、泣き虫だったのも、情けなく弱い心も……全部、アレス様のおかげです」
「そんなことないよ。元々持っていたものが、たまたま巡り合わせでそうなっただけさ」
「巡り合わせ……ですか?」
「そうだよ。カグラしかり、オルガしかり、俺しかり……もっと言えば、対立してたロレンソやザガンだってそうさ。それぞれが良いか悪いかは別として、影響しあって今のセレナができたんだ」
「そっかぁ……そういう考え方もできますね、それってステキなことです」
「きっと無駄な出会いなんてないんじゃないかな。それを自分で無駄にしない限りはね」
「ふふ、アレス様のそういう前向きなところ——わたし好きです」
セレナが、俺をじっと見つめてくる……。
「いや、そのだな……」
「ふふ……アレス様でも照れることってあるんですね?」
「勘弁してくれ……」
十二歳の女の子に、何を翻弄されて……いや、その考えはやめにしよう。
セレナたちを下に見ているかのようだし、俺は和馬でありアレスなんだから。
今は、十二歳のただの男の子だ。
好きな子に見つめられて、ドキドキしない方がおかしい。
「あの……最悪、一年も会えないんですよね?」
「……ああ、そうなる可能性もある」
「その、あの、こんなこと言うの——ッ!!」
そっと優しいキスをする。
「これで良いかな?」
「はぅぅ……! は、はいっ!」
そう言って、セレナは照れながらも微笑んでくれた。
この顔を胸に刻んでおこう。
そして、セレナに好きになって良かったと思えるような男になろうと思う。
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