異世界のガラス都市 〜戦争をしたく無いから金の力で重武装国家を創る！！〜

プロローグ

ジリリリ——。煩わしい目覚ましの音で藤井蓮は目が覚める。

（もうそんな時間か…。寝た気がしないな。）

そんな事を考えながら、普段通りに朝食を食べ、いつもの様に身支度を整える。

そっと鏡を見る。特徴のない顔が浮かび上がる。平均的な鼻の高さ。日本人らしい少し黄色めな肌。強いて特徴を上げるならば少し小さめな口と、茶髪気味なふわふわな髪の毛だろうか。

何処にでもある、一般家庭の日常。何処にでもいる、高校三年生。

波乱など何も無い平穏な日々。

そんな日々に何処か飽き飽きしながらも、惰性で高校へむけて歩き出す。

イヤフォンを着けて、周りの音が聞こえなくなるまで音量を上げる。

そうすると、音楽の世界に入り込み、少し日常から外れた所にいる気がする。

色褪せた日常から、ほんの一瞬抜け出せる気がする。

一時の、ちょっとした現実逃避を楽しむ。

そんな彼の何処にでも日常である。

ピコン

スマートフォンの通知音がなる。

家族から忘れ物の連絡だろうか、それとも推しのアイドルのSNSだろうか？

どちらにせよ大したことない。

そう思いながらも、ポケットからスマートフォンを取り出し、歩きながら視線を下に落とす。

なんだよ、迷惑メールかよ。小さい溜息をついて視線を上げる。

何やら周りが叫んでいる。

しかし、彼の耳には届かない。

ふと信号が赤な事に気が付く。

次の瞬間、音楽の向こうから、けたたましいクラクションとブレーキ音が聞こえた。

視線を右にずらすと、白いトラックが目前にあった。

彼を簡単に肉片へと変える、恐るべき鉄の塊。

日常を簡単に打ち壊すその物体を前に蓮の中で時間の流れが遅くなった。

全身から脂汗が吹き出た。しかし、それは現状への打開策にはなり得ない。

ただ無意味に垂れ流れる。

怖い、怖い怖い。死ぬ事が怖い。

生物として当たり前の感情が蓮を支配する。

彼は、生まれてからこれまで何かしらの死と向き合ったことのない。

親族も友人もペットで飼っている猫でさえ死んだ事がない。

命と向き合ったことなどない。強いて言うならば子供の頃に意味も無く殺した虫程度だ。

命の重さを文章の字面以上に理解などしていないのだ。

そんな彼が最初に向き合う死が彼自身とはなんたる皮肉。

（畜生！！こんな終わり方はないだろう！俺はまだ何にもしていない！キャンパスライフも送ってなければ、仕事も結婚も！）

肩が折れる音が聞こえる。腕が有らぬ方向へ曲がる。

こんな時に出で来る思いが一般の幸せであることに気がつき彼は心底後悔した。

日常に飽き飽きしていたのではないのか？そんなのは所詮、思春期最後のちょっとした反骨心だっただけだ。そんな事実が死に直面した今、突きつけられる。

（なんで音楽なんか聴いてたんだ！！しかも爆音で！くそ、下らない！ちっぽけな現実逃避なんぞバカらしい！畜生！何でこの痛みが来るまで、それに気が付かなかった！？お陰で手に入れられるはずの幸せが今消滅した！最高だなぁ！！？？）

足が踏み潰されいく痛みのためか、思考が激情に支配されていた。

過去の自分であっても、意味不明な理論であっても、でも何かに当たらないとおかしくなりそうだった。

最も、狂ったところで１秒にも満たないうちにただの肉片に成り果てるだけだが。

ギュッと目を閉じ蓮は祈った。

（もし、来世があったなら——— せめて天寿を全うして、平穏な日々に感謝して生きよう）

その思考をよそに、無慈悲に頭蓋が割れる音と共に彼の意識が途切れた。