第一章 出会い
あれから数ヶ月が経った。そして俺は、高校生になった。俺が入学したのは、地元の普通よりちょっと上くらいの公立高校だ。なぜそこを選んだのかと言えば、不良がいないとか家から近いとかそんなしょうもない理由だ。
そして今日は入学式なわけで。
俺は雪国の生まれなので当然、未だに雪は残っている。しかも、雪と言ってももう四月なので、グチョグチョに溶けた一番面倒臭いやつだ。
———————————と。
「きゃっ!?」
「うわあっ!?」
スネに激痛が走る。
誰かが俺のスネにドロップキックをかましたようだ。
「す、すいませんんん!」
「い、いえ大丈夫です。」
よし、インキャかませたぞ。
—————っておい!なんだこの美少女は!?
親方、道端に女の子があ!と思わず叫んでしまいたくなるくらい可愛い。
黒髪のショートヘアで、天真爛漫なイメージだ。
「あのー、痛くなかったですか?本当にごめんなさい。」
おっといけない、心配されている。
「いえいえ、むしろあなたが無事で何よりです。」
サラッと、爽やかに。
「いや、そんなスネ押さえまくってたら心配しますって。わざとですか?」
ひどい。
無視された、カッコつけたのに。ぴえん。
「すまんすまん、冗談だ。ところで、君は?」
「えっと、禰木希美(ねぎのぞみ)って言います!この春から第七高校に入学することになった、一年生です!」
「へえ、奇遇だな。俺も七高の新入生なんだ。…ってことは方向同じか?ならせっかくの縁だから一緒に行くか?」
「はいっ!そしてもしよかったら希美とお友達になってください!」
やったね、まだ入学してもないのに美少女の友人ゲットだぜ!
そうして俺たちは、グチョグチョの雪道を談笑しながら進む。
「へえ、禰木は都会から引っ越して来たのか。」
「はい!父の職場がこっちになったんです!」
「あと…私って人のことをあだ名で読んでるんですけど、綾沢さんのこと、ひーくんって呼んでもいいですか?」
「えっ……………!?」
これは夢であろうか。朝からこんな美少女に出会い、なおかつあだ名で呼ばれるなんて。
「もちろんいいぞ。よろしくな、禰木。」
「…うんっ!よろしくね!ひーくん!」
いやあ、最高。今まで恋だとか愛だとかは無縁だと思ってたから避けてたけど、青春ってやっぱいいね。たぶんだけど、人生勝ったわ。
と、優越感に浸っていると…
「ひーくん!早く行かないと遅刻しちゃう!」
「あー、そうだな…ってうわっ!?」
何なのこの子!突然手を繋ぎ出したんですけど!
ひーくんドッキドキ!!
…と思ったのも束の間。
「行っくよー?…ええええええええい!!」
「おいおい…えええええええ!!?」
実は俺はこの春休みの間、ずっと動かず家に篭っていた。つまり、運動不足なのだ。
すなわち、急に走るのは辛すぎるわけで。
「やーめーてーくーれええええええ!!!」
◯
「はあ…はあ…間に合った…。」
「危なかったねー!」
「…てかお前はなんで同じ教室に来てるんだ?」
「そんなの、希美とひーくんが同じクラスだったからに決まってるよ!」
「でもまあ、初登校がお前と一緒で良かったよ。ありがとな、禰木。」
「ひゃうぇ!!?」
ん?なんか禰木の顔が紅潮してるぞ?
「どうしたんだ?」
「なんでも…ない…です…。」
「本当にどうしたんだ…?」
そう若干心配しながら、周りのクラスメイト達を眺めた。
「—————————————っ!?」
なんか見覚えのある顔が一つ、ある。
俺の好きそうな落ち着いたタイプで、黒くて短い髪型だった。
そう、穂雁だ。
俺は穂雁が私立高校だと聞いていたので、もう会えない、というか会うことはないと思っていたのに、まさか同じ高校だったなんて。
———おや?なんかこっちに近づいて…
「同じ高校だったんだね。しかも同じクラスだなんて、奇跡に奇跡だね。」
「そ、そうだな…。」
いくら一年前とはいえ、険悪になってもいいはず、というか気まずくなるはずだ。
なのに…
「ねえ、今度一緒に部活見学行こうよ。一緒に見て回るの、楽しそうでしょ?」
これだから女子は怖い。
まるで今までのことがなかったかのようになっている。
しかもなんか距離感おかしくない?
なんか疎遠だったんだよね?
気まずかったんだよね?
なんか距離感違うじゃん!?
少し、接し方がわからなかった。
時間が経ってようやく。
「みんな、おはよう」
担任が入って来た。男の担任で、優しそうなので、内心ホッとする。
「まずは、入学式行くからなー、椅子持って体育館行ってろよなー。」
どうやら移動するらしく、ボッチで行こうとすると…
「ねえ、一緒に行か———————」
「ひーくん!一緒に行こうよ!」
「あ、おう…。」
一瞬穂雁に話しかけられた気もしたが、希美が誘ってくれたので一緒に行くことにする。
何やら背中に針を刺されたような視線を感じるが、まあいいだろう。
偶然の美少女と一緒に行こうっと。
◯
「入学式長かったなー」
「校長の話長ー」
と、皆それぞれに話していると…
「…なあなあ、お前ってさ、高校でハーレム作る気?」
「え?」
突然と話しかけて来た。
「誰?」
と、俺は冷たく言ってしまった。
「あー、俺は古法基哉(ふるのりもとや)だ、基哉って呼んでくれ。前後の席同士よろしくな。」
「俺は綾沢緋人。緋人でいい。よろしく。」
「あと俺はハーレムなんて作らないから。」
「えー?だってあの美少女二人と入学早々仲良くなるなんて、絶対ハーレム目的だと思ったんだけどなあ。」
「一人は同中だからな。」
「じゃあ一人は今朝ゲットしたんだろ?」
「…………。」
事実なので何も言い返せない。
「じゃあ、がんばれよな。」
そう言って、あいつは自分のコミュ力の高さを武器に人脈をこれでもかと広げにいった。
うん、あいつ絶対俺のことハーレム目的の野郎だっていうことにしたよね。
一発かましていいかな?
そしてさっきからなんだか、チクチクと痛い目線がどこかから向けられているな…
…と、その時。
「はっ!?」
見ている。
穂雁がなんか意味深な目で俺のことをチクチク見ている。
やばい、絶対移動の時だ。
キレられるー。
というか、機嫌直しに行かないとまずいな。
そんなわけで、俺は放課後穂雁と一緒に帰ろうと決意したのだった。
次回———————出会い2 coming soon
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