第195話 ミズホ上級伯爵(その3)

「ダンゴ! ダンゴが食べたい!」


「伯爵様よぉ……お前は子供か?」


「ヴェル、あとで食べればいいでしょう」


「本当は今すぐ食べたいが、イーナがそう言うのであれば仕方がない……。あとで草団もみたらし団子も、両方食べるんだ。俺……」




 無事にミズホ伯国へと到着した俺たちは、国境沿いにある砦で身分を証し、そのまま領内に入ることを許された。

 魔刀を装備したサムライは、バルデッシュの異変を察知して急遽砦に派遣されていたようだ。


『テルアキ・ムラキと申します』


 いかにも侍といった風貌の若い青年は、丁寧な口調で挨拶をした。

 まるで時代劇の人みたいだ。


『やはり、首都の異変に気がついておったか』


『えっ? どうやって? 通信が使えないのに』


『これを使ってです』


 ムラキというサムライが示した場所には、止まり木で休んでいる一羽の鳥の姿があった。

 小型の鷹にも見えるが、大型のツバメにも見えた。

 見た目だけで、速く飛びそうな鳥ではある。


『ミズホ人は帝国中に在住しておりますから、万が一に備えて複数の情報伝達手段を整えているのです。通信の魔法と魔道具も駄目みたいですが、ミズホツバメならばバルデッシュの異変も二~三日で知ることができます』


 この速そうな鳥は、ミズホツバメという名前らしい。 

 ミズホ伯国で品種改良が盛んな、伝書鳩代わりに使う鳥なのだそうだ。


『魔法が絡む通信と移動は駄目みたいですが、ミズホツバメが墜落することはなかったみたいですね』


『よく見ると、目が円らで可愛らしい鳥ですね』


『ミズホツバメの飼育を趣味にしている人もいるくらいですから』


 エリーゼは、ミズホツバメを気に入ったみたいだ。

 ミズホツバメの品種改良と繁殖とレース、そして飼育自体がミズホ人の間で趣味として広がってるそうで、確保も容易なのだとムラキさんが説明する。


『馬車よりは速いよな、やっぱり』


『そういうわけです。フィリップ公爵様におかれましては、やはりお館様との面会をお望みでしょうか?』


『然り。できれば、今すぐにでもじゃ』


『お館様もそれを望んでおり、案内役として拙者もお供します』


 ローデリヒ以外で初めての一人称が『拙者』な人間の登場であったが、ムラキさんは侍そのものなので違和感がない。

 先頭の彼が馬に乗ってミズホ伯国内へと山道を進み、それに馬車がついていく。

 しばらく山道を登っていたが、三十分ほどで山頂に到着した。

 するとそこには、時代劇などでよく見る峠の茶屋そのものが建っており、店先では和服風の服を着たミズホ人たちがダンゴを食べながらお茶を飲んでいた。

 当然、元は日本人である俺は立ち寄りたかった。

 ダンゴを食べながら、お茶を飲み干したかったのだ。

 ところが、誰一人寄り道しないで領主館へと向かうのが当たり前だと思っている。

 これに異論がある俺が騒ぐのは当然とも言えた。


「エッボ、ダンゴをダッシュで買って来い」


 みんなに、このまま茶店に寄らずに進むことを決められてしまった俺は、馬車内にいるエッボをパシリにする案を決行する。

 人の行動に散々ケチをつけた嫌な奴なので、パシリにしてもなんの罪悪感も湧かないからだ。


「私はテレーゼ様の家臣なのでお断りします」


「……」


 正論ではあるが、やっぱり嫌な奴である。

 『了解っす!』とか言いながら走っていけば、まだ少しは可愛げがあるのだが……。


「その前に、両替をしないと買い物ができませんよ」


「独自通貨なのかよ!」


 ミズホ伯国が、いまだに独立国である証拠でもあった。

 エッボの言っていることは正論なのだけど、やはり少しムカついた。


「ただ、帝国に従属する際に通貨改定は行っているのでな。そう面倒でもないぞ」


 テレーゼが、もう一言加える。

 ヘルムート王国とアーカート神聖帝国の間では、あまり貨幣に差などない。

 単位も同じセントで貨幣のデザインは違っていたが、重さや金などの含有量は条約で決められていたからだ。


「ミズホ伯国では、一セントが『一モン』。百セントが『一シュ』一万セントが『一リョウ』となっておる」


 貨幣の形も違う。

 ただ、銀と金の含有量に違いはなく、換金比率にも差はないそうだ。

 そこは両国に合わせたのであろう。


「なら、セント通貨でもダンゴは買えるのでは?」


「大商店ならともかく、茶店くらいだとミズホ貨しか受け取らぬぞ」


「そんなぁーーー!」


「妙なことで我侭を言うの。そういう男は可愛げがあって好きじゃがの。両替所で手数料なしで換えてくれるから安心せい。ヘルムート王国の貨幣でも両替してくれるぞ」


 現地の貨幣がないのなら仕方がない。

 馬車が領主館に到着するまでは、大人しくすることにしよう。

 山道を下りると人里が見えるが、どう見ても昔の日本の農村である。

 田んぼには、今は冬なので裏作の麦が植わっている。

 家屋は木製と石造りで萱葺きはなかったが、造りが和風なので帝国の外の地域とはまるで違っていた。

 農村から町に入り、さらに馬車を進めると、ようやく領主館が見えてくる。


「凄いお城ですね」


 エリーゼが驚いているが、領主館というよりは三重の堀に囲まれた、巨大な天守閣を備えた星型の要塞であった。

 大阪城と五稜郭を合わせたようなものに見える。


「ミズホ城はいつ見ても大きいの」


「難攻不落なのでは?」


「落ちない城や館はないが、落とすとなると犠牲が多そうじゃの」


 篭城側の数倍の兵力で攻めても、この城を落とすのに甚大な被害が出そうではある。


「過去にはかなりの犠牲が出たのでしょうね」


「いや、このミズホ城を攻めることができた者はおらぬな」


「えっ?」


「攻め入られると国土が荒れるので、ミズホ軍は常に領地境で迎撃するからの」


 山を越えて少数で大軍を迎撃する。

 犠牲も多いが、大半は帝国軍が大敗して敗走するので、それを追撃しながら周辺領域で略奪に勤しんでいたそうだ。

 犠牲が多いので、損害の補填のためらしい。


「略奪は帝国軍も勝てば行うし、先に攻めた帝国が負けたのが悪い。戦うとほぼ負けで、追撃されて略奪を受ける。帝国軍の物資だけなら文句はないのであろうが、ミズホ伯国の周辺にいる貴族たちは堪ったものではない」


 普段は交易すら行っている温和な相手なので、中央の帝国軍が攻めなければ略奪などされないのだと。

 遠征の度に非難轟々であったらしい。


「一度、強引に周辺諸侯に動員をかけて数箇所から同時に攻め入ったこともあったらしいの」


 結果は、ミズホ伯国軍も動員戦力の半数を失う大損害を受けたが、帝国軍はその八倍以上の兵を失ったそうだ。


「領地が隣接する諸侯軍では、全滅したところもあったそうじゃ。フィリップ公爵家も兵を出したが、三分の二が帰って来なかったと、当時の領主の日記に記載されておる」


「全滅じゃないか」


「どう糊塗しても、エルヴィンの言うように全滅じゃの」


 フィリップ公爵家諸侯軍が、北方攻め口を単独で担当したがゆえの悲劇であったらしい。


「なのに、彼らは領地を広げぬ。アキツ大盆地から出て来ないのじゃ。そんなわけで、ミズホ伯国は保護国化の道を辿ったというわけじゃな」


 テレーゼの説明が終わると、馬車はミズホ城の外苑入り口へと到着する。

 先導しているムラキさんのおかげで、ノーチェックで三層の堀を通り抜けて天守閣のある本丸へと到着する。

 馬車を降りると、裃姿の初老の男性が姿を見せた。

 ムラキさんよりも偉い、上級の陪臣だと思われる。


「イエノリ・キラ・ミズホと申します。お館様の元に案内いたします」


 さすがはテレーゼというべきか。

 そのまま顔パスで、領主に会えるようだ。


「ミズホ? ご一族の方ですか?」


「分家ですが」


 ミズホ伯国の人間には、庶民にも全員姓があるのだそうだ。

 そして、イエノリさんのようにキラの後にミズホが付いている人間は分家の人間か、功績が著しいのでミズホ家から名誉姓を与えられた人間らしい。


「(本当、戦国時代とか江戸時代みたい……)」


 功績があったので豊臣の姓を与えられたとか、松平の姓を与えられたとか、そういう話によく似ているのだ。


「お館様の元に案内いたしましょう」


 イエノリさんの案内で城内に入るのだが、やはり土足厳禁で中は畳敷きであった。

 久しぶりに見る畳からは、懐かしい匂いがする。

 

「布のブーツ?」


 全員靴やブーツを脱ぐと裸足だったので、イエノリさんが足袋を貸してくれたのだが、初めて履く足袋に全員が違和感を覚えているようだ。


「でも、蒸れるのを防げるな」


「ブランタークさんは、水虫防止にいいのでは?」


「伯爵様よ、俺は水虫じゃないからな」


 ブランタークさんは、殊更自分が水虫でない事を強調していた。

 そんなことをしたら、余計に怪しまれると思うけど。

 それに水虫は、ブーツを履く冒険者と軍人の職業病としても有名なのだ。


「冒険者や軍人で水虫になる者は多いのである! ブーツの中が長時間の移動や行軍で蒸れるゆえ。某はこれを買って帰るとしよう」


 導師は、自分が水虫であることを否定しなかった。 

 

「草を編んだ床敷きですか? 変わっていますのね」


 その上を歩きながら、カタリーナは畳を興味深そうに眺めていた。


「引くと開くドアなんだ」


「木枠のある紙を張ったカーテン? 本当に不思議」


「変わった花瓶」

 

 ルイーゼは襖を、イーナは障子、ヴィルマは飾られている生け花を見て不思議そうな表情を浮かべていた。

 他にも欄間や、床の間とそこに飾られた掛け軸や焼き物など、今までに見たことがないものに興味津々なようだ。


「多分、ヘルムート王国人でミズホ伯国に入ったのは、我らが最初であろう。実に面白いのである!」


 導師の言うとおりで、ヘルムート王国の人間はバルデッシュから出ることを禁じられていた。

 中には破っている人間もいるかもしれないが、ミズホ伯国はまた別国扱いなので、そう簡単には入れないはず。


「うちのお館様の書いた紀行記にも、ミズホのことは書いてなかったな。もし行けたら、絶対に言っていただろうから」


 ブライヒレーダー辺境伯は、そういうのが好きそうだからな。

 ミズホ伯国の記述はほとんどなく、せいぜいバルデッシュで見かけた、ミズホ風の建造物などを見た感想が書かれていただけだ。


「こちらでございます」


 天守閣の最上階に謁見の間があり、イエノリさんの案内で室内に入ると、まるで時代劇で見たかのようにミズホ上級伯爵が畳敷きの上座に座っていた。

 年齢は五十歳くらいであろう。

 姿勢よく上座で正座をしており、いかにもできるといった感じの男性だ。

 後ろの床の間には、高そうな壷や、墨で書かれた山水画に似た掛け軸もかけられていた。

 主君の刀を預かる小姓もいて、まるで時代劇のようである。

 まさに、日本のお殿様といった風貌だ。

 パっと見た感じで違うのは、誰もちょん髷を結っていない点であろうか。


「久しいの、フィリップ公爵殿よ」


「一年ぶりくらいであろうかの? 妾がバルデッシュ詰めになる前に会ったキリであろうか」


「そうだったような気がする。帝都詰めの時にクーデターとは不幸だったな。我が伯国には、そんな義務はないがな」


 皇帝を支えるために、七名の公爵の内最低三名はバルデッシュに詰める義務があり、テレーゼの当番の時に先帝の崩御とクーデターが起こってしまったらしい。

 もっとも、陛下の葬儀があったので選帝侯は全員が帝都に詰めていたのだが。


「羨ましい限りじゃ。妾など命からがら逃げ出して、このように無様を曝しておるぞ」


「逃げ出せただけで合格であろう。おっと、隣のお客人たちを紹介してほしいものだな」


「妾の恩人たちじゃ」


 テレーゼによって俺たちがミズホ上級伯爵に紹介され、続けてミズホ上級伯爵も自己紹介をする。


「ミズホ上級伯爵トヨムネ・ミズホである。ヘルムート王国の最終兵器殿に竜殺し殿であるか。なるほど、フィリップ公爵殿は運がいいようだな」


「でなければ、脱出は困難であったの。それでじゃ」


「兵なら出すぞ」


「早い回答じゃの」


 今まで一度も外征経験がないミズホ伯国軍による、初の出兵となる。

 考慮する時間を想定していたテレーゼは、ミズホ上級伯爵の素早い決断に驚いていた。


「あのニュルンベルク公爵は、我らミズホ人が憎いらしいからな」


 ニュルンベルク公爵からすれば、強固で一つの帝国と相反するものの象徴がミズホ伯国であり、愛国者でもある彼に言わせると、今まで散々に帝国軍に損害を与えたミズホ伯国は滅ぼすのが当たり前という考えのようだ。


「いくら犠牲を出しても、ここでミズホ伯国を潰しておけば、帝国の明るい未来に繋がると考えているのであろう」


 元々ニュルンベルク公爵領では、ミズホ人とミズホ資本は彼の愛国政策によってかなり被害を受けている。

 平時でも対立しているのに、戦時ならば余計にそうであろうと。


「ニュルンベルク公爵領内にあるミズホ伯国の資産はすべて没収。ミズホ人もほとんど捕らえられて、女子供でも収容所送りだそうだ」


「徹底しておるの」


「ツバメ便による最新の報告だ。帝都でも同じことが起こっている」


 他にも、フィリップ公爵領の主要民族であるラン族の資本と人間も同じ被害を受けており、外の少数民族なども同じ扱いだそうだ。


「狂ってますね」


「あの男には正義なのだよ。バウマイスター伯爵」


 しかしまあ、帝国もよくあんな危険な男を公爵として飼っていたと思う。 

 なんとか廃嫡はできなかったのであろうか?


「あの男は、フィリップ公爵領もうちも蹂躙する予定だ。各個撃破されるくらいなら、最初から手を組んだ方がマシだ」


「であろうな。しかし、あの男は本当にわかっておるのかの?」


「なにがですか?」


「強い一つの帝国とは片腹痛い」


 帝都バルデッシュ周辺にいる人たちを便宜的にアーカート人と呼んでいるが、細かく言えば多数の民族の集合体であった。

 言葉と宗教が同じなのであまり差がないのと、帝国が統一感を見せるため、勝手にアーカート人と呼んでいるだけなのだ。


「だからだよ。黒い髪のミズホ人と、肌の色が違うラン族が狙われた」


 徹底的に滅ぼして、そこから取り上げた利益を自称アーカート人たちに配分する。

 そうすれば、日和見な連中の忠誠も期待できるはずだと。


「(生粋の国粋主義者というか……)」


 ニュルンベルク公爵。

 どう考えても、友達付き合いは遠慮願いたい人であった。


「兵の準備を進めておく」


「妾も、フィリップ公爵領と北方諸侯に動員をかけよう」

 

 同時に、東部や西部の諸侯にも声をかけておくともミズホ上級伯爵に説明した。

 

「駄目元でも、少数の参加は見込めるからの」


 みんながみんな、過激なニュルンベルク公爵に賛同するはずなどないのだから。


「互いに軍を整えて殺し合い、生き残った方が勝利か。わかりやすくはあるの。それで、導師殿とバウマイスター伯爵殿はどうするのかな?」


 ミズホ上級伯爵の前なので、テレーゼは珍しく俺をバウマイスター伯爵と呼んでいた。 


「そうですね。乗りかかった船ですし、傭兵扱いにしてください」


 このままヘルムート王国への帰国を目論むのもいいのだが、陸路でも海路でも困難が予想されるし、一つ困った件がある。

 ニュルンベルク公爵がバルデッシュで稼働中の、通信と移動魔法を阻害する魔道具の存在である。

 どうやらかなり広範囲にまで効果があるようで、現在ヘルムート王国にも被害が出ているはずだ。

 ここで強引に戻ってみても、領地まで通信と移動魔法が使えないようなら意味がない。

 未開地で魔導飛行船が動かないと、開発に大きな支障があるからだ。

 となれば、これは木っ端微塵に破壊しなければならない。

 テレーゼたちがニュルンベルク公爵に勝利したとしても、これがアーカート神聖帝国に残っては意味がないのだ。


「(あなた。やはり、あの魔道具の破壊を目指すのですか?)」


「(エリーゼには隠し事はできないな)報酬は、お持ち帰りができるものを出来高払いでお願いします」


 エリーゼと小声で打ち合わせをしてから、俺たちは傭兵としての参加を表明する。

 例の魔道具の破壊については、なにも言わない方がいいだろう。

 下手に口にすると、テレーゼが確保を企むかもしれないので、あくまでも軍事作戦に便乗して破壊しなければ。


「(それでいい)」


「(某も賛成である)」


 ブランタークさんと導師も同じ意見のようだ。

 この二人が、俺の考えに気がつかないはずがない。

 あんなにヤバイ魔道具を仮想敵国に委ねることの危険性を、誰よりも理解しているはずだから。


「有力な戦力の参加であるか。助かったな、フィリップ公爵殿よ」


「しかし、報酬の条件が適当よな。もっと具体的になにかないのかえ?」


「それは実際に働いてのことでしょう? その働きを見て、テレーゼ殿が適切な報酬を与える。次期皇帝候補には必要な能力です」


 俺たちも、自ら戦いに赴く以上は負けるつもりなどない。

 当然勝利を狙うが、それで得た戦功に対し、テレーゼがどれだけの報酬を出すのか?

 これは、自国の貴族たちのみならずヘルムート王国にも伝わるのだ。

 ケチって少なければ隣国に笑われ、自国の貴族たちも新皇帝に失望する。

 ある種、意地の悪い宿題でもあった。


「次期皇帝のぅ……。覚悟はしておるよ」


 当時首都にいた他の選帝侯と、即位したばかりのアーカート十七世の生存は不明である。

 生きたまま軟禁されている可能性もあったが、ここは殺されたと思って動かなければいけないであろう。


「こんな理由で初の女帝とは、テレーゼ殿も不幸だな。バウマイスター伯爵たちの参戦もあるのなら、少し条件はマシであるか。早速我らも兵を集めよう。兵を出す理由もあるからな。あの男、軍人でもない同胞に手を出しおって」


 南部と首都で行われているミズホ資本からの資産の没収と、ミズホ人の収容所送りの件を言っているのであろう。


「では、妾たちはここで」


「気持ちはわかるが、どうせ軍を集めるには時間がかかる。フィリップ公爵も一晩くらいは泊まってゆっくりしていけ。北方の山道を抜ければ、すぐフィリップ公爵領に到着するのだから」


「そうですね。ここでテレーゼ殿に倒れられても困りますし」


「ほれ、バウマイスター伯爵殿もこう言っておるぞ」


「わかった、遠慮なく休ませてもらおう」


 もっともそれっぽい理由を語ったが、俺の目的はただ一つ。

 ミズホ伯国の観光がしたいからである。

 特に、食の面では見逃せないものが沢山あるはず。


「実は一つ、約束して欲しい報酬があるのですが……」


 テレーゼとミズホ上級伯爵はすぐに俺の条件を受けいれたので、なんの憂いもなくミズホ伯国観光を楽しむことにするのであった。

 まあ、戦の前のバカンスというやつである。

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