第160話 腕比べ

 数時間後、俺たちは魔導飛行船の上から河の中州を占拠する数十名の軍勢と、川岸からその軍勢と睨み合っている、ぼぼ同数の軍勢を発見した。


「ええと、中州に軍を置いているイェーリング卿がブロワ辺境伯家側で、南方の河岸で牽制しているのがお味方のベッカー卿です」


 軍監として同行しているブリュア氏だが、普段は紋章官をしているそうで、南部の零細貴族の当主や子息たち、主だった家臣などの顔と名前、その経歴などをすべて記憶しているそうだ

 なにしろ、この国の貴族は多い。

 お隣のアーカート神聖帝国も同じだけど。

 当主が全員を覚えるなど不可能であり、大物貴族家は必ず紋章官を抱えていて、彼らは主人が初見の貴族に会う前に、必ず情報をレクチャーするのだそうだ。

 今回彼が軍監になったのも、俺が多くの貴族を知らないのでそれを補うためでもあった。


「共に騎士爵を持つ、ささやかな領地を経営する貴族様です」


 零細とか貧乏とか直接的には言わず、ささやかという部分が洗練された大物貴族家の紋章官らしかった。

 紋章官という役職名で呼ばれるのは、昔は戦場で敵貴族の武具に記された紋章から、その人物を特定する仕事をしていたからなのだそうだ。

 今は戦争がないので、同国に多数存在している味方貴族やその家族、主だった重臣などの情報を集め、必要に応じて主君にレクチャーする。

 数千から数万の貴族に関する情報を記憶するので、家には代々記憶方法に関する秘伝が伝わっているらしい。

 物語法とか、頭文字法とか、語呂合わせとかが秘伝なのであろうか?

 昔から物覚えは普通である俺からすれば、大変羨ましい能力である。


「ここも睨み合いか……」


 両軍が睨み合っているのは、中州の所有権で揉めているかららしい。

 昔は河を挟んで領地が分かれていたが、ある日洪水になって急に中州ができた。

 言うまでもないことだが、どちらかが譲るわけもなく、共に中洲の領有権を主張して揉め続けている。


「農地にしても、実入りが少なそうな……」


「ちょっと洪水があったら水没するから、農業は困難だろう」


「だよなぁ」


 エルは、数十名の軍勢で陣を敷くと余剰スペースがなくなる中州を見て溜息をついていた。

 『どうして中州なんて取り合うんだ?』と思っているはずだ。


「とはいえ、それを主張せずにいられないのが貴族なのですよ」


 領地を持つ貴族が、『どうぞどうぞ』などと言うのは論外だそうで、だが争ってもそう利益が出るはずもなく、今までは共に中州には立ち入り禁止にしていたそうだ。


「ですが、再び数年前から揉めていると報告を受けています」


 農地転用ではなく、その中州で漁をすると魚が多く獲れるそうで、勝手に入った双方の領民たちの間で諍いが発生していたそうだ。


「それ以降、夜中に勝手に中洲に入って魚を獲った、獲らないだので、喧嘩レベルの争いが絶えないそうです」


 俺らからすると『この程度のことで……』なのだが、実際にそこで生活している領民たちからすれば、生活が少しでも豊かになるかならないかの瀬戸際なのだ。

 双方の領主たちもプライドがあって、兵を出さずにはいられなかったのであろう。


「ただ、中州の占拠はやりすぎです」


 ブリュア氏の一言に尽きるが、こんなところまで占拠させてブロワ辺境伯はなにを考えているのであろうか?


「とっとと済ませますか……」


 手順は先ほどと変わらない。

 『エリアスタン』で麻痺させてから、捕虜にして中州を味方のベッカー卿の軍勢に占拠させるだけだ。


「今度は私がやりますわ」


 今度は中州で、銅鉱山ほど広くはない。

 そこで魔法の練習がてら、カタリーナに任せることにした。

 彼女が『エリアスタン』を発動させると、中州にいたイェーリング卿の軍勢が全員痺れて動かなくなり、一時間と経たずに全員が捕縛された。


「大変助かりました」


 ベッカー卿からお礼を言われ、占領地と捕虜の管理を任せて次のポイントへと向かう。

 同じ作業なのであとは省略するが、俺、カタリーナ、ブランタークさんで順番に『エリアスタン』で軍勢を麻痺させ、現地の味方と一緒に捕縛する作業の繰り返しだ。


「出たな! 竜殺しの英雄め! 我こそは、『火壁』と呼ばれた……あべし!」


 たまに、『エリアスタン』をレジストして向かって来る魔法使いもいた。

 だがそういう輩も、すぐにノックアウトされて捕虜の仲間入りとなる。


「名乗りくらい聞いてあげたらいかがですか?」


「時間の無駄。そもそも興味ないから」


 『火壁』を名乗る魔法使いは、初級と中級の間くらいの魔力しか持っていなかった。

 もし名乗りをあげてから対戦しても、一分と保たなかったであろう。

 彼は、『スタンウィップ』と名付けた電気の鞭魔法に絡め獲られ、すぐに意識を失ってしまった。


「一流なら、名乗っている間に倒されたりとかしないからな」


 気絶してモーリッツたちに縛られている『火壁』を見ながら、ブランタークさんも辛辣な意見を述べていた。


「随分と、魔法使いの数が少ないですわね」


 カタリーナは、貴族なのに雇っている魔法使いの数が少ないと思っているようだ。

 あとレベルも低いと。


「中級の魔法使いなんて、そう簡単に雇えないからな」


 零細貴族同士の争いで、短期間ながら雇われてくれる中級魔法使いはほぼ皆無だそうだ。

 満足な報酬が出せないんだろうなぁ……。

 魔法使いは、臨時でも雇うと高いから。


「冒険者稼業で荒稼ぎか、大物貴族に雇われているか。フリーの中級魔法使いなんてそうそういないさ」


 あとはレンブラント男爵のように魔法で荒稼ぎしている人ばかりなので、零細貴族が出せる謝礼などには見向きもしないそうだ。


「結果、『火壁』君のような微妙なのが来るんだよ。アレでも雇うと高額だしな」


 初級と中級の間くらいでも、この手の争いでは切り札になれるほど役に立つのだそうだ。


「数十名同士の争いで、『火壁』を作れる魔法使いは戦力になるし、そもそもそう簡単に雇えない。もの凄く貴重だからな。向こうも苦労して雇ったんだろうが、今回は俺たちがいて不運だったな」


 ブランタークさんは、本心で『火壁』君に同情していた。

 普通零細貴族同士の紛争で、俺たちのような魔法使いに遭遇すること自体が不運なのだから。

 

「あとは、ここ十年ほどの東部地域は、なぜか魔法使いが不作なんだよな」


 なぜか、中級以上の魔力を持つ新人がほとんどデビューしていないそうだ。


「魔法使いは足りないから、大体生まれた地域に縛られる。だから、東部の貴族たちが金で引っ張ろうとしてもなぁ……」


 地元優先なので、まず来ないというわけだ。

 東部の貴族が、地元貴族の数倍の金を出すのなら……同じとような財政状態でそれは不可能か。

 最初は無理できても、長期間雇うのは難しい。


「ブロワ辺境伯と仲が悪いうちのお館様には、坊主という近年一番の出来星がいるからな。ブロワ辺境伯も相当焦ったと思うぜ」


 俺を意識したからこそ、バウマイスター騎士爵領内で反乱を起こし、俺の足を引っ張ったわけか。

 だが、バカなことをしたと思う。

 もしあんなことをしなければ、俺は領地の開発が忙しいからと言って、出兵を断っていた可能性もあったのだから。


「うちで後方かく乱なんてしなければ、もしかしたら呼ばれなかったかもしれないのに」


「いや、やっぱり伯爵様は呼ばれたと思うぜ。戦力になるからな。それに実際にコケにされた以上、伯爵様はブロワ辺境伯に仕返ししないといけないのさ」


 貴族としての俺は、ブロワ辺境伯にコケにされたので、絶対に兵を出して復讐しなければいけないらしい。


「その結果、大量の捕虜と前から持っていた利権まで奪われですか……」


 実際に被害に遭った貴族たちも、のちの裁定で不利になれば、出兵と占拠を要請したブロワ辺境伯を責めるであろう。

 もしかすると、損失の補填すらしなければならなくなる可能性もあった。


「とにかく、全部の紛争地帯で味方側を有利にして戻ります」


「えげつな」


 それから半月ほど。

 俺たちは西から東へと移動し、境界線で睨み合っている貴族同士の紛争に介入。

 ブロワ辺境伯家側の軍勢を『エリアスタン』で麻痺させ、捕らえて大量の捕虜を得ることに成功した。

 紛争案件である利権や領地も、すべて味方側に占領させて守備を任せたので、ブロワ辺境伯家側は青息吐息のようだ。

 仕事を終えてブライヒレーダー辺境伯本軍が本陣を敷いているエチャゴ草原に戻ると、ブライヒレーダー辺境伯がご機嫌な表情で出迎えてくれた。


「報告は聞きましたよ。ブロワ辺境伯に一泡吹かせたようですね」


「身代金だけで、相当にふんだくれますよ」


「死者がゼロなのに、捕虜が膨大ですからね」


 ブロワ辺境伯家側の貴族が繰り出していた軍勢は、すべて『エリアスタン』で麻痺させられて捕虜になっている。

 貴族本人や家臣の数も多く、多額の身代金が取れるはずだ。


「ただ、もの凄く彼らの怒りを買ったようですよ」


 ブライヒレーダー辺境伯の視線の先を見ると、かなり距離を置いて対峙していたブロワ辺境伯家諸侯軍が、なぜか目視できる距離にまで接近していた。

 同時に、敵軍から数十名の騎士や陣借りの傭兵たちが前に出て来た。


「我こそは、ブロワ辺境伯家にその人ありと言われたライヒアルト・シュタイナウアーである! ブライヒレーダー辺境伯軍の勇者に一騎討ちを求める!」


 次々と名乗りを挙げてから武器を掲げる若い騎士や、感状目当ての浪人たち。

 彼らの武器はやはり訓練用の刃が丸まったものであったが、一騎討ちを求めていた。


「『腕比べ』が始まりましたね」


「腕比べですか?」


「ええ、前回の大惨事を教訓に考えられたものですね」


「私が若い頃の紛争ですね。その時には、死に物狂いで槍を振るいましたとも」


 ここ最近、新規組のフォローや食料や物資の管理、会計などで嫌味なほどにさり気なく活躍しているクラウスが珍しく声をあげた。

 そういえば、彼は数十年前に多くの死者が出た両家の紛争に参加していたはずだ。


「そうです。クラウスさんは当時参加していたのですね」


 ブライヒレーダー辺境伯は、先日の反乱事件の経緯を知っている。

 だが、クラウスをどう裁くのかは俺の管轄なので、彼が近くにいても気にしていないようだ。


「なんとか生き残れました、という感じですね。慣れぬことをしましたから」


 いまだに原因は不明らしいが、突如睨み合っていた両軍が動いて激突し、双方で百名以上の死者が出たと聞く。

 当時は武器が訓練用のものではなかったので、死傷者が激増したのだそうだ。


「その後、反省の意味を込めまして、今の仕組みに落ち着きました」


 両家同士の密約で、武器は訓練用のものを使用することになったそうだ。

 他にも、模擬戦形式による一騎討ちの奨励である。

 陣借り者たちも含めて、彼らは主君である貴族たちの前で優れた武勇を見せ、褒美や感状、昇進や仕官に繋げる。

 ただ、逆に負けて評価が落ちることもあるので、参加は慎重に、自己責任でというとわけだ。


「みなさん、勇んで出て行きますね」


 ブロワ辺境伯家の要求に答えるように、ブライヒレーダー辺境伯家や、行動を共にしている貴族家からも陣借り者や騎士たちが前に出て行く。

 両軍が見守る中、数十もの模擬戦形式の一騎討ちが始まり、すぐに勝敗が着く者、逆に長々剣を交わす者たちなど、様々な光景が展開された。

 基本的に負けて馬から落とされると、捕虜にされて終わるようだ。

 戦況を見ると、両家はほぼ互角に見えた。


「あっ! トーマスが出ている」


 新規組のリーダーであるトーマスは、自分とあまり年齢が変わらない騎士と一騎討ちを始めた。


「トーマスが優勢だな」


 双眼鏡で見学していると、一騎討ちはトーマスの方が有利に見えた。

 俺の剣の腕前は決して褒められたものではないので、絶対にそうだという保証もないのだけど。

 ただ今回は俺の見立てが正しかったようで、しばらくすると相手側が馬から落とされ、トーマスに剣を突きつけられて捕虜となった。


「そういえば、馬なんてあったっけ?」


「必要とのことで、私が借りておきました」


「そいつは、どうも……」


 一騎討ちに参加したい兵士たちのために、クラウスが何頭か予備の馬から借りてきたそうだ。

 さすがの準備のよさに、俺は少し顔を引き攣らせていた。


「あのトーマスという人は、馬も上手いようですね」


 雇ってみてわかったのだが、トーマスは非常に使える人材であった。

 剣も槍も弓も馬も、教養や計算なども、高レベルで器用にこなすからだ。

 天才ではないが、努力家と見た。

 部屋住みの頃から暇を見ては、なんでも取得しようと努力したらしい。

 できることが増えれば、いつか仕官できて自分も独立した家をもてる。

 という風に考えて、自分を鼓舞しつつ努力を重ねていた。

 クラウスが、トーマス本人から聞き出した情報だけど。

 新規組の指揮も水準以上にこなすし、こういう人材は実はもの凄く欲しかったりする。


「ブロワ辺境伯家の騎士を捕らえて戻るようです」


「感状と褒美を出すか」


 これも士気を鼓舞するためのものなのであろうが、味方が敵の騎士を捕らえて戻って来ると、ブライヒレーダー辺境伯も他の諸侯軍に参加している貴族たちも、みんな事前に用意していた感状にペンで記載を始めていた。

 何時、どこで、誰が、誰を一騎討ちで捕らえたのだと記載し、その功績を称えつつ褒美と一緒に与えるわけだ。


「こういう方法で、士気を鼓舞するのか……」


 これがゲームだと、忠誠心が上がるわけだな。


「はい。感状は自分の武功を証明する大切なもの。仕官を目指す陣借り者ならば、余計に手に入れたいわけです」

 

 さすがは、年の功でよく知っているクラウス。

 小憎たらしいほど絶妙なタイミングで、俺にアドバイスをしてくれる。


「トーマス殿が戻ったようです」


 捕らえられたのがよほど悔しかったのか?

 睨み付けるような表情を崩さないブロワ辺境伯家の騎士を連れて、トーマスは戻って来た。


「ご苦労様。ええと、この捕虜になった騎士の名前は?」


「クリストハルト・レッチェルトです」


「なあ、クラウス」


 レッチェルトは、トーマスの改姓前の家名であったはずだ。

 つまり、この捕虜はトーマスの兄ということになる。


「仕官して間もないのに、トイファー殿の武功は素晴らしく」


 クラウスの言うトイファーとは、トーマスが新しく名乗った家名である。

 どうせ捨て駒にされた瞬間から、レッチェルト家にトーマスという名の男子などいないことになっているはずなので、心機一転でクラウスが新しい家名を考えてあげたそうだ。


「トイファーだと! お前は俺の弟!」


 どうやら捕虜になって血が昇っているらしく、このクリストハルトという男はバカみたいなことを口走っていた。


「クリストハルト殿とやら。トーマス・トイファーは俺の家臣なのだが、貴殿の弟だと言うのか?」


「当たり前だ! トーマスはっ!」


 ようやく、己の失言に気がついたようだ。

 レッチェルト家はトーマスをバウマイスター騎士爵領での反乱に参加させるため、その存在を抹消してしまった。

 それなのに、その抹消した男を弟などと言うのだから。


「本当にトーマスは、貴殿の弟なのですか?」


「いや……。よく似ていただけだと思う」


「似ていた?」


 存在しないはずの人に似ているというのも変な話だ。

 どうやら、弟に一騎討ちで負けて捕らえられ、相当動揺しているらしい。


「いや、そんな男は見たことがなかった!」


「そうですか……」


 クリストハルトの言葉で、トーマスはもう自分はレッチェルト家には戻れないと悟ったらしい。

 少しだけ、寂しそうな顔をしていた。


「お館様、トイファー殿に褒美と感状を」


「そうだったな」


 俺は急ぎペンで記載した感状を渡し、魔法の袋から以前にエルからアドバイスを受けて購入しておいた鋼製の剣を渡す。

 かなり高価な一品で、このレベルの剣に騎士などは家紋などを施し、常に帯剣するのだそうだ。


「これからも、トーマスの働きに期待する」


「ありがたき幸せ」


「あとは……(クラウス、相場がわからん!)」


「(金貨二~三枚にございます)」


 他にも褒美として金貨を渡すのだが、その相場がいまいち不明なのでクラウスにそっと聞いてみた。

 知らなかったらブライヒレーダー辺境伯に聞けばいいし、もしそうなら『クラウス、ザマぁ』とか思ったのだが、やっぱり知っていたようだ。


「(よく知っているな)」


「(年の功にございます)」


 相場はわかったので、ここはトーマスの忠誠心を上げておこうと、金貨五枚を袋にそっと入れて渡す。 

 ここで奮発しておけば、他の新規組も頑張るはずだ。

 しかし、平均でも日本円で二百万円から三百万円だ。

 そう滅多に紛争などないので、その時には貴族も苦労して貯えた金から奮発して褒美を出すのであろう。

 周囲の目もあるから、余計に見栄を張るのだと思うことにした。


「あとは、正式にお見合い会への参加許可も出すから」


 最後のはどうでもいいような気もしたが、アラサー男のトーマスはスキップでもしそうな笑みを浮かべながら戻って行く。 

 クラウスの言うとおり、若い男には女らしい。


「こういう光景を見ますと、バウマイスター伯爵も大貴族の仲間入りですね」


 ブライヒレーダー辺境伯は、そんな俺の様子を見て一人感慨に耽っているようだ。


「ところで、エルは?」


 女性陣は他の貴族たちの手前もあって、うちの陣地で食事の支度をしていたのだが、なぜか俺の護衛であるはずのエルの姿が見えなかった。


「エルヴィン様なら、あそこにいますが」


 クラウスが指差した方角では、エルが前に出てブロワ辺境伯家の騎士と一騎討ちをしている光景が展開されていた。


「あのバカ……」


「エルヴィン君も若いので、手柄が欲しいでしょう」


 ブライヒレーダー辺境伯の言うとおりなんだが、エルは捕まると取り戻すのが面倒なので、一騎討ちには出ないでほしかった。


「優勢みたいですよ」


 エルの相手は、思ったほど強くなかったようだ。

 十分ほど剣を交えると、エルに馬から落とされて捕らえられてしまった。

 一騎討ちはエルの勝ちだ。


「お館様、敵の騎士を捕らえてきました」


 他の貴族たちもいるので、エルは俺のことをお館様と呼びながら得意気に戻ってきた。

 捕まった捕虜も、若造に負けたせいであろうか?

 心なしか、悔しそうな表情を浮かべていた。


「このおバカが! お前は一騎討ちに出るな!」


「痛っ! だって、手柄が欲しいもの! 感状も一枚くらい持っていないと、同僚たちに格好つかないから」


 ただ功績は功績なので、ちゃんと感状と褒美を出したが、先に拳骨を落すのは忘れなかった。

 こうして初めて経験する特殊な戦争は続いていたが、この争いが終わるのは一体いつになるのか?

 一日も早く未開地開発に戻って……はっ!

 まさか俺は、ローデリヒに洗脳されているのか?

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