第95話 危険な冒険者デビュー戦(その4)
「無事にドラゴンゴーレムの動きを止めたとはいえ、また空気中から魔力を貯めて再稼動という可能性も……」
「それなら大丈夫だよ、ヴェル」
「どうしてだ? ルイーゼ」
「あのね。ドラゴンゴーレムのお腹の下にスイッチがあったんだ。それをオフに切り替えたから」
「そんな、玩具でもあるまいし……」
約半日。
俺とブランタークさんが、『魔法障壁』でブレスと尻尾による攻撃を防ぎ続けたドラゴンゴーレムは、ついに魔力切れで活動停止に追い込まれた。
前世で読んだラノベとかなら、ろくに戦闘にもなっていないので読者から文句でも出そうな展開であったが、こちらは実際に命を賭けているのだ。
確実で安全な方法を取ったくらいで、文句を言われる筋合はない。
そんな風に派手に戦うのは、あのアームストロング導師に任せるに限るのだから。
再び空気中の魔力を集めて再稼動という危険も考えられたが、その懸念はルイーゼが停止したドラゴンゴーレムのお腹の部分にある停止スイッチを発見したので、これで安心ということになっていた。
防衛用の戦闘ゴーレムなので、停止スイッチがついていてもおかしくないのか。
よく見るとスイッチは、オンとオフに切り替え可能になっている。
すぐにルイーゼがオフに切り替え、俺たちはドラゴンゴーレムが守っていた後方の扉を開けて、その中に入ることにする。
先にある、ドラゴンゴーレムが守っていたものが気になったからだ。
「大丈夫ですかね?」
「空中の魔力は無限だが、量は微量だからな。再稼動に必要な量を集めるのに、最低でも数週間はかかる計算だ」
万が一停止スイッチが嘘でも、ドラゴンゴーレムが再び動き出せるようになるまでには時間がかかるらしい。
俺たちのような想定外の敵にブレスを長時間連続で吐いた結果、一気に魔力を使いはたして停止してしまったのであろう。
それでも、半日は全力で攻撃できるのだから、本当に性質の悪い兵器であった。
「たまにやって来る侵入者に対し、今までは奇襲で強烈なブレスを一発吐けば終了だったんだろうな。ブレス一発分なら、数日もあれば魔力は貯まる」
「なるほど」
そういうコンセプトだと推察されるが、ドラゴンゴーレム停止後の調査で、これまで犠牲になったのは行方不明になった冒険者たちだけであった。
古い残骸が一個もなかったのだ。
地下遺跡は完全に隠匿されていたので、その前にドラゴンゴーレムのブレスで消し炭にされた人はゼロ。
入り口を開くスイッチを見つけた学生は、まさに奇跡を引き当てたらしい。
ドラゴンゴーレムは数千年以上も稼動しておらず、さぞや魔力は満杯に近い状態であったのであろう。
地面に転がっている、燃え残った哀れな犠牲者たちの装備品の量から推定するに、ここは本当に未盗掘の地下遺跡であったようだ。
「さてと、問題はこの先にある部屋か……」
広いフロアに設置された、強烈なブレスを吐くドラゴンゴーレム。
それをどうにか活動停止にして、俺たちはどこか気が緩んでいたのかもしれない。
行方不明の冒険者たちも全員ここではてていたことを知り、さすがにこの先にはなにもあるまいと決めつけ、油断してしまったのだ。
「お宝でもあるのかな?」
「人工とはいえ竜が守備していたんだから、お宝はありそうな気がするわ」
エルはともかく、普段真面目で慎重なイーナですら警戒感を欠いた状態で、そのままドラゴンゴーレムの後ろにある扉を開けてしまう。
この時点で、二人になんら異常もなかったことも、かえって油断を誘ってしまったようだ。
「お前ら、もう少し罠の存在も考慮して慎重に探れ!」
二人に続いて、ブランタークさんも注意しながらドアを開けて先に行き。
続けて、俺とエリーゼ。
最後に、ルイーゼが後方を警戒しながら部屋に入る。
「あれ? 行き止まり?」
その部屋は十メートル四方ほど。
なにも置かれておらず、天井も壁も床もすべて石でできた部屋であった。
「行き止まりかな?」
「……まさか……!」
「あのブランタークさん?」
「すぐに部屋を出るんだ!」
呑気に行き止まりかと言っているエルの後ろで、突然ブランタークさんが大声をあげた。
「いきなりどうしたんですか? なにもないし……」
「いいから、早く!」
だが、結局間に合わなかった。
突然その部屋の床一杯に、円の中に複数の幾何学的な模様が組み込まれたものが浮かび上があってきたからだ。
ブランタークさんの命令に従って部屋を出ようとしたものの、足の裏が瞬間接着剤でくっつけられたかのように動かなくなり、もはや逃げようがなかったのだ。
「魔法陣! 『探知』できなかった!」
古代魔法文明時代の遺跡には、魔導技術を用いた罠が多く存在していると聞く。
当然、冒険者予備校の授業で過去の事例については教わっているし、普通の魔導技術を用いた罠は、ある程度実力がある魔法使いなら探知可能であった……はずなのに……。
「ちっ、油断した!」
「ブランタークさん! 足が動かない!」
「すまない、現役時代に比べると勘が鈍っていたようだな。どこに飛ばされるかわからないから、臨戦体勢を解かないように」
「こんなことって!」
ブランタークさんがそう言い終るのと同時に、俺は『瞬間移動』を唱えた時に感じる、どこかに引っ張られるような感覚を最後に意識を失ってしまうのであった。
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