第93話 危険な冒険者デビュー戦(その2)
「周囲に魔物はいないわよね? ヴェルは『探知』の魔法でなにか感じた?」
「いや、雑魚の魔物すらないな。イーナ、なにか見つかったか?」
「特に気になるようなものはないわね。魔物はもっと奥にいるのかしら?」
「慎重に探っていくよ」
六人で地下遺跡に入った俺たちだが、慎重を期して入った割には罠もなく、魔物に至っては一匹もいない。
イーナから『探知』の結果を問われるが、魔物の気配すら感じず。
ただ、石造りの地下遺跡を順番に回り、あとから入る冒険者のために地図を作成することしか仕事がなかった。
正直、拍子抜けした気分だ。
「坊主、なにか『探知』できたか?」
「今のところはなにも感じないです」
「そうか、感じないか……。罠なども探してみたんだが、本当になにもないな。それなのに、多くの冒険者が帰ってこない。不気味だな」
「ええ……」
ブランタークさんもまさかこの展開は予想できなかったようで、なぜこの地下迷宮で冒険者たちが行方不明になったのか、いまだわからなかった。
「この先に広場があります」
「広場?」
三十分ほどであろう。
薄暗い地下遺跡を進んでい行く俺たちであったが、広いが特に迷いやすい構造でもなく、ほどなくして広大な空間へと出た。
「広いなぁ」
縦横数百メートル、高さも五十メートルはありそうなその広場は、石造りの壁と床を石で覆われているだけで、他にはなにもなかった。
本当にただの広い空間なのだ。
「あっ、でも……」
この中で一番目がいいルイーゼは、広間の奥になにかを見つけたらしい。
少し歩くと一番奥に入り口があったので、やはりこの地下遺跡は横にあった部屋以外は、ほぼ一本道の造りになっているようだ。
ただし、その前を巨大なものが塞いでいた。
「大きな竜の金属像ですね。ヴェンデリン様」
エリーゼが、巨大な竜の像を見上げながら感心したような声をあげる。
「芸術品なのかな?」
「古代魔法文明のものなので、高く売れるはずです」
「骨董品ってことか」
俺とエリーゼがそんな話をしている横で、ブランタークさんは警戒感を露にしていた。
「全員下がれ!」
「「「「「ブランタークさん?」」」」」」
「坊主、みんな! 戦闘準備だ!」
「えっ? これって造り物なんじゃあ……」
突然ブランタークさんが珍しく怒鳴りつけるような声で、俺たちに竜の像から下がりながら戦闘準備をするようにと命じた。
最初はそれに疑問を感じる俺たちであったが、すぐに彼の言葉が正しかったことが証明された。
突然、竜の像が咆哮をあげたからだ。
「古代魔法文明の遺産で、拠点防衛用に造られた金属製のドラゴンゴーレムか……。文献で記述は見たことがあるが、実物は初めて見たな」
「ブランタークさん、あのデカブツ強いのかな?」
「そりゃあな。ベテラン冒険者ばかりで編成された合同パーティを二回も全滅させているんだからな。エルの坊主も覚悟を決めろよ」
「こんなデビュー戦って、あんまりだ!」
全員が戦闘準備を整えた瞬間、金属製の竜は俺たちに向けて強烈なブレスを発射する。
どうやら、俺たちの冒険者デビューは波乱に満ちたものになりそうであった。
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