第16話 パウルとヘルムート

「「……」」

「どうです? わかりますか? パウル兄さん、ヘルムート兄さん」

「一つだけわかったことがあるさ。なあ、ヘルムート」

「ああ。俺たちは、下級官吏の試験に受かりそうもないってことだな」

「王都の警備隊にでも入るさ」

「ヒラの一兵卒だが、 俺たちならなんとか潜り込めるからな」

「それだけが、このバウマイスター騎士爵家に生まれた唯一の利点かもしれない」


 もうすぐクルト兄さんが結婚するので、結婚式が終わったら俺たち弟三人は領地を出て行かなければならない。

 わずかな支度金を受け取り、すでに成人しているのでバウマイスター騎士爵家の籍から外れる。

 一応貴族の息子なので、エーリッヒみたいに頭が良ければ下級官吏の試験に受かり、貴族家の当主になれるかも……そのハードルは極めて高いが。

 もしくは、俺とヘルムートみたいに平凡な者たちは王都で警備隊員になるしかない。

 平民が目指すとかなり競争率が激しいそうなので、生まれのおかげで俺たちは恵まれているとも言えた。

 上を見ればキリがないので、この際贅沢を言っていられないだろう。

 仕事があるだけありがたいと思わないと。

「俺とヘルムートは、似たような兄弟だな」

「ああ、存在感が希薄だ」

 いつも家族から、二人で一人みたいな扱いだしな。

 クルト兄さんのように跡継ぎではないし、ヘルマン兄さんのように体が大きいわけでも、実はクルト兄さんよりも領民たちに慕われているわけでもない。

 弟のエーリッヒのように、頭がいいわけでもなかった。

 二人とも警備隊に入って、慎ましく平々凡々に暮らす人生というわけだ。

「パウル兄さん、俺たちに嫁さんが来るのかね?」

「それぞまさに、神のみぞ知るだな」

「だよなぁ……クルト兄さんはいいよなぁ……」

 俺もヘルムートと同じ意見だ。

 ヘルマン兄さんかエーリッヒが跡継ぎなら、心の中に変なモヤモヤを抱えないで済んだのかもしれない。

 ただ早く生まれただけで、自分と能力に差がないクルト兄さんが跡継ぎなのだから。

「そんなことで鬱屈していても仕方がないだろう。王都はバウマイスター騎士爵領とは違って、賑やかで遊ぶところも多いと聞くからな。楽しいことだけを考えることにしよう」

「それは嬉しいけど、警備隊の給料で遊べるのかね?」

「ヘルムート、そこはこう上手く節約するんだよ」

「王都は物価が高いって聞くし……」

「暫くは一緒に住むか?」

「それがいいかな」

 節約になるが、実家にいる時とそんなに違わないような気がするな。

 だがこれも、奥さんを迎え入れた時のために少しでも多く貯金をするためだ。

 あと、王都で少しは遊びたい。

「さてと。屋敷の裏の森でなにか獲ってくるかな」

「ヴェルが毎日森に入って色々と獲ってくるから、俺たちは川に釣りに行けって父上から言われていたじゃないか」

「そうだった。それにしても、あいつは小さいのに器用だよな」

 エーリッヒと同じく頭がいいみたいだし、領地の外に出ても上手くやっていけそうな気がする。

「父上も母上も、年をとってから出来た子だ。案外、領地に残すかもしれないぞ」

「それはないだろう」

 クルト兄さんと揉める原因になりかねないのだから。

「この領地は、俺たち兄弟には狭すぎるのさ」

「領地自体は広いだろう」

「開発できなきゃ。そんなものないに等しいじゃないか。釣りに行くぞ」

「わかったよ、パウル兄さん」

 そのあと二人で川に釣りに出かけたが、残念ながら小魚が少ししか釣れなかった。

 その代わりというのも変だが、ヴェンデリンがホロホロ鳥を獲ってきたので、誰も俺とヘルムートの釣果を気にしなかったのはよかったと言えるのかね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る