第72話 お出かけ
「しっかし夏休みがたった一週間か……」
バスから外の景色を眺めながら、俺は呟いた。
ギフテッド学園の夏休みはとても短かい。
なんとお盆前後の1週間程度しかないのだ。
しかも冬休みや春休みは、それより更に短かいというおまけつき。
泰三の奴が全く里帰りしない事を不思議に思っていたのだが、まあそれだけ短いのなら納得だ。
そもそも何故こんなにも短いのか?
その理由はいたって単純だ。
学園は午前中が通常の授業であり、午後はギフト関連の物になっていた。
午後の授業が別の事に割り振られている分、俺達は一般の学生に比べ圧倒的に通常のカリキュラムが足りていない状態になっている。
その足りない分を穴埋めするために、休みが大幅に削られているという訳だ。
まあ一般的な休みの期間はギフト関連がなくなるので半日授業なのだが、泰三なんかは毎日不満をぶーたれていた。
かくいう俺も、休みに入ったら朝から晩まで思う存分訓練するつもりだったので、肩透かしもいい所である。
「あ、一日中訓練できなくて残念とか考えてるだろ?」
「まあな」
理沙は俺の考えをズバリと当てて見せる。
勘のいいやつだ。
もしくは、俺が分かりやす過ぎるかだが。
「それで、何を買うんだ?」
「ガキンチョ共のおもちゃとかさ」
ガキンチョ共というのは、オオカミのシロが生んだ子狼達の事だ。
「ペット用の専門店にいいのが置いてあってさ。それを買ってやろうと思って。通販じゃそういうのは買えないからな」
学園生活内での買い物は、細かい物なら購買部。
それ以外は学園直通の通路がある専用の大型のスーパー兼ホームセンター。
もしくは学園が用意した端末からの、特殊なネット通販だけだった。
基本的に学生寮はペット禁止なので、通販もホームセンターの方も動物用品は置いていない。
「学校の方でそういうのは用意してくれないのか?」
「飼育用品は既定の物だけで、特殊なのはダメってなってるんだ。融通が利かないんだよなぁ」
文句を口にする割に、理沙は嬉しそうな顔をしている。
まあ女性は基本買い物が好きって言うからな。
彼女もその御多分に漏れないのだろう。
「しっかし……編入してから外に出るのは初めての事だけど、手続きってあんなに面倒くさいんだな」
「まあ一応、政府の管理する特殊な学園だからなぁ」
学園への人の出入りは厳重に管理されている。
外から入ってくる様な業者だけではなく、それは生徒も例外なくそうだった。
今回の様に、飼育上どうしても――実際はどうしてもって事はないだろうが――必要な物を買いに行くだとか。
実家への帰省だとかでないと、基本的には申請は通らない様だ。
因みに俺は、理沙の買い物の付き添い人という事で許可を貰っている。
「わざわざこんな物まで付けさせて、御大層なこった」
俺は腕に嵌められたバンドを弄る。
位置特定の機能が組み込まれた物で、簡単には取り外せない様になっていた。
外にでている生徒の位置は、これで常に学園側に把握されているのだ。
「ま、私たちの身を守るものだししょうがないさ」
ギフト持ちはその能力故に、外部の人間に目をつけられやすい。
まあ俺のギフトはともかく、理沙の能力なんかは稀有な物だから、それを狙ってという可能性は十分考えられた。
このバンドはそういったイレギュラーを対策する為の物だ。
バンドには装着者のギフトを感知する機能も備わっており、能力を使ってそれが検知されれば、緊急事態としてその場所に警察なりなんなりが駆け付ける事になっている――学生は基本的に緊急時以外、学園外でのギフト使用を禁止されている。
しかも簡単には外せないので、万一誘拐されても学園から追跡する事も出来るという訳だ。
外出する生徒にとっては、このバンドはまさに安全装置と言っていい代物だった。
まあギフトで悪さするとたちまちバレるという言う弊害もあるが、それは悪さする奴が悪いとしか言いようがないのでどうでもいいだろう。
「よっと!」
理沙がバスのボタンを押す。
どうやら次が目的の場所の様だ。
バスが止まったのは大きなショッピングモールの手前。
運賃を支払い、俺と理沙はバスから降りた。
夏真っ盛りと言わんばかりに、鋭い陽光が俺達を焦がす。
「やっぱ外はアッツいなぁ」
理沙が顔に手をかざし、天を仰いで目を細める。
今日の気温は確か33度だったはず。
熱いのは仕方がないだろう。
が、それは一般人の話だ。
能力者にはプラーナがある。
肉体を強化すればこの程度の熱さ、どうって事はないはずだ。
俺は熱耐性が備わってるから、プラーナによる強化とかは特に必要ないけど。
「プラーナ使えばいいんじゃないか?」
「ちっちっち、分かってないなぁ。竜也は。夏は暑いからこそいいんじゃないか!」
そう言うと理沙は両手を広げ、くるりと一回転する。
「成程。敵は強ければ強いほど倒し甲斐があるってのと同じか」
試練は大きければ大きい程、乗り越えた時に人を成長させる。
きっと理沙はそう言いたいのだろう。
「いや、全然違うんだけど……まあにぶちんの竜也に言ってもわからないか」
そういうと彼女は呆れた顔で此方を見て来る。
俺が鈍い?
ありえないな。
「おいおい。自分で言うのもなんだけど、俺の反射神経はかなりのもんだぜ」
「はいはい」
理沙は呆れた様に両手を軽く上げると、目の前の大きな連続アーチを潜ってショッピングモールの入口へと向かう。
どうやら彼女は俺の言葉を信じていない様だ。
「よし!じゃあ今度勝負しようぜ!」
動物の能力をギフトで宿せる理沙も、その辺りは相当自信があるのだろう。
だがそれでも俺の方が上だ。
戦いの中で鍛え、レベルアップによって強化されている俺の反射神経を舐めて貰っては困る。
そこんところはハッキリさせておかないとな。
侮られたままでは、キングの沽券に関わるってもんだ。
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