第73話 見張り

「竜也は何か買わないのか?」


理沙が女性向けの可愛い小物を手に取り、聞いてくる。

男子高校生がファンシーショップでいったい何を買えと?


「俺はいいよ。しかしずいぶんと買い込むな」


「ここに行くんならって、真奈美とか美美子に頼まれてるからな」


「ああ、成程」


外出許可は気軽には取れないので、ここぞとばかりに理沙に頼んだのだろう。

宇佐田はともかく、空条辺りが理沙にガンガン物を頼んでいる姿は容易く想像できた。


「荷物係、しっかり頼むぜ」


「へいへい」


狼達用のおもちゃは学園で飼育している動物への品なので、事前申請していれば配達で送る事が出来る。

だが私用品の配達は既定の通販品以外、学園側から納入の許可は出ない。

そのため、自分達の手で持ち帰る必要があった――もちろん学園に戻る際入念に中身はチェックされる。


能力者を育てる特殊な学園とは言え、面倒くさい話だ。


理沙の話では、数年前まではここまで厳重ではなかったらしい。

だがブースターが学園内に出回った事で、今の厳しい管理体制に代わってしまったそうだ。

まあ氷部の弟の様な廃人になる人間が出てくれば、ある程度は仕方がない事なのだろう。


「その代わり、昼飯はあたしの奢りだからさ」


「おう、期待してるぜ」


ここのフードコートにあるかつ丼は、結構人気らしい。

俺はそれを奢って貰う予定だ。


「んじゃ、買ってくる」


買う商品が決まったのか、商品を籠を手に持って彼女はレジへと向かう。

俺はそんな理沙には聞こえない様、独り言ちた。


「しっかし……何もんだ?」


実はさっきから、というか学園を出た瞬間から、俺達は複数人に後をつけられていた。

相手の目的は分からないが、人目の多い所で何かして来る事はないだろうと思い、今の所は放置している。


「まあ大した腕でもなさそうだし、万一仕掛けてきたら返り討ちにする感じでいいか」


普段なら嬉々として自分から突っ込んで行くところだが、今日は理沙の付き添いでここへとやって来ている。

本当にただ見張ってるだけの可能性も高いので、買い物の邪魔をしてまで排除に向かう必要はないだろう。


問題は理沙にそれを伝えるかどうかだが……まあ言わなくていいか。

せっかくの買い物気分に水を差す事になってしまうからな。


そんな事を考えていると、清算を済ませた理沙が戻って来た。


「よし!次は服だ!服買いに行くぞ、竜也!」


「そんな引っ張るなって」


そう宣言して彼女は俺の腕をグイグイと引っ張る。

心なしかそのテンションは高めだ。

やはり理沙も女の子だけあって、稀のショッピングに少々浮かれている様だった。


因みに、俺は服なんかは学園専門の通販で十分派だ。


真央ショッピングの品ぞろえは馬鹿みたいに豊富だし、身体データを入力しておくと着た時の3Dモデリングも見る事が出来るので、サイズ間違いも起こらない。

更に検索や買い物記録から、お勧め一覧に似た系統の服が提示されるので凄く使いやすかった。


まあこれで荒木真央の息がかかっていなければ最高だったのだが……


ああそういや真央ショッピングと言えば、女子連中は虚偽のデータを突っ込んでいる事が多いそうだ。

届いた下着がスカスカだったり、服のサイズが一回り小さくてピチピチな事が多々あるらしい――空条調べ。


本人達曰く。

痩せるはずだったとか、成長期なのでそこが成長する予定だったとかほざいているそうだ。

数日でそんなに変化する訳ないだろうに。


馬鹿なのだろうか?


「服を買いに行くのはいいけど、下着売り場は勘弁してくれよ」


「ば……バッカお前!そんなん所に竜也を連れて行くわけないだろ!」


「ははは、冗談だよ」


流石にそこに付き合うのは、俺も死ぬほど居心地が悪いからな。

本気でそこに行くなら、外で待たせてもらうさ。

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