第47話 二つ名

全力で荒木真央を地面に向かって叩きつけたが、奴の意識はまだ残っていた。

俺は放出した闘気を足場として蹴り、上空から奴に向かって突っ込んだ。


「くくく」


奴との距離が目と鼻に迫る。

最後の悪あがきとばかりに、荒木が重力弾を飛ばして来た。


だが明かにパワーが足りていない。


その攻撃を問題ないと判断した俺は構わず突っ込み――重力弾が当たった瞬間、少し違和感を感じたが――そのまま奴に向かって拳を振り下ろした。


「なんじゃ……甘いのう」


拳が地面にめり込み、土煙を上げた。

叩き込んだ俺の拳は荒木真央の顔面ではなく、そのすぐ横に突き刺さっている。


別に躱されたわけではない。

化け物とはいえ相手は小さな女の子、やりすぎは良くないと考え、わざと外したのだ。


とは言え――


「まだ降参しないのなら、次は本気でぶん殴るぜ」


本人がどうしても続けると言い張るのなら、容赦なく止めを叩き込ませて貰う。

流石に俺はそこまで甘くはないからな。


「よかろう。負けを認めよう」


だが奴はあっさりと自分の負けを認める。


ふぅ……何とか勝てたな。


俺は拳を引き抜き、倒れている荒木真央に手を差し伸べた。

彼女はその手を握り、ゆっくりと起き上った。


「紳士的なその態度に免じて、一ついい事を教えてやろう」


「良い事?ああ、お前の正体についてか」


試合前に約束している。

俺が勝てば正体を教えると。


「ああ、それは止めじゃ」


「はぁ?約束したじゃねぇか」


「くくく。支配者という物は、平気で嘘を吐く生き物じゃ。よく覚えておくがよい」


荒木真央は、小馬鹿にした様な顔を此方へと向ける。

ムカつく顔だ。

こんな事なら、手心なんて加えなけりゃ良かったぜ。


「じゃあ、一体何を教えてくれるってんだ?」


「初夏とはいえ、まだまだ涼しい季節じゃ。服はちゃんと着た方が良いぞ?」


「はぁ?」


何言ってんだ?

俺はちゃんと服を…………………………げ!?


着てねぇ!


「ふぁっ!?」


両手で咄嗟にあそこを隠す。


一体何時の間に服を?


そんなチャンスは……


「あの時か!? 」


最後に奴が放った攻撃。

何か体に纏わり付く様な感じの不自然な物だった。


あれは俺にではなく、服を狙っての攻撃だったと言う訳か。


「ふふ、ではの」


「あ、ちょ、待て!?」


気付けば荒木真央は空高く舞い上がっていた。

奴は俺にウィンクすると、逃げる様に飛んで行ってしまう。


くっそ……やられた。

なんつうガキだ。


「しょ、勝者!鏡竜也!」


股間を抑える間抜けな姿の俺に、寒々とした勝利のアナウンスが告げられる。

恐る恐る観客席の方に目をやると、女生徒の大半は顔を両手で抑えていた。

それ以外の観客は無言で此方を見ている。


ただしその中で泰三だけは、一人嬉しそうに笑いながら手を叩いていたのを俺は見逃さない。

絶対後で殺す。


「やれやれ」


最後に一発かまされて、なんだかまったく勝った気がしない。

とは言え、勝ちは勝ちだ。

両手は離せないので、俺は心の中でだけガッツポーズしておいた。



この日、俺は荒木真央を倒し学園最強へと上り詰める。

そんな俺には、王の字が刻まれた二つ名が付けられた。


人は俺をこう呼ぶ。


裸王ストリー・キングと。



ざっけんな!!




――――――――――――


ここで一章終了になります。


面白かった。

悪くなかった。


そう思われましたら、フォローと評価の方よろしくお願いします><

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る