第28話 氷部vs四条 ②


――パワーで押し負けた。


視界を覆い尽くす白い煙の中、渦巻く炎が姿を現し、此方へと突っ込んで来る。

私の生み出した結晶では四条王喜の攻撃を防ぎきる事が出来なかった。


「くっ!」


ガードは不可能。

咄嗟にそう判断した私は、転移でそれを躱す。

悔しいが、もはやパワーでどうこうする事は出来ない。

転移を上手く使って隙を作り、彼を無力化するしかないだろう。


「なっ!?」


思わず声を上げる。

転移した瞬間、急に体が沈み込んだかからだ。

足元を見るとグラウンドが液状に変わり、私を太ももまで飲み込んで絡みついてくる。


「つぅかまえたぁ」


見ると四条王喜は屈んでグラウンドに両手を付けていた。


「能力による液状化!?」


それは恐らく、土と水の能力の合わせ技だろう。

グランド一面を泥沼に変えてしまうとは、とんでもないパワーだ。


「ひへへへ。この状態じゃぁ、もう転移はできないよなぁ」


私は自分の置かれた状況に唇を噛む。

四条王喜の能力で捕らえられているこの状態では、能力の干渉を受けて転移する事が不可能だからだ。


「く……」


何とか抜け出そうと試みるが、藻掻けば藻掻くほど体が沈んで行く。

まるで底なし沼の様だ。

泥に冷気を送り込み、固めて足場に変え様とも試みる。


だがパワーで勝る相手の能力で変化させられている状態を、冷気で上書きする事は出来なかった。


これは非常にまずい状況だ。

このままでは、間違いなく私はなぶり殺しにされてしまう。


「どうだぁ?氷部ぇ。俺の物になる気になったかぁ?」


「ええ、そうね。これだけ強いとなれば、申し分ないわ」


彼の申し出に、私は笑顔で答えた。

勿論嘘だ。

ドーピングして得た強さに、価値などない。


だが今はこの状況を……


「嘘を!付いてんじゃねぇ!!」


四条王喜が叫ぶと同時に、その手から炎の槍が飛んで来る。

最初に防いだものとは次元の違うパワーを秘めたその槍は、私の放った氷の結晶を容易く貫き私に迫った。


「くっ!」


咄嗟に氷の鎧を上半身に纏う。

衝撃に上半身が吹き飛ばされそうになるが、何とかギリギリ凌ぐ事は出来た。


だが――


「おいおい、いいのかぁ?体が沈んじまうぞぉ?」


アイスアーマーは重い。

上半身だけとはいえ、その重みで体が更に沈んでしまう。


もう既にへそ近くまで体は沈み込んでいた。


「はははは!沈んで窒息死するか!槍で焼き殺されるか!好きな方を選びな!氷部ぇ!」


四条が再び炎の槍を投げつけて来る。

私はそれを氷の鎧で受け、そして――


鎧を解除した。


「覚悟を決める必要がある様ね」


「あぁん?死ぬ覚悟かぁ?」


「違うわ」


私には……やるべき事がある。

組織を叩き潰して、弟の仇を取る。

それを叶えるまで、死ぬわけには行かない。


「貴方を殺す覚悟よ!」


四条王喜を殺す。


彼も被害者ではある。

だが、赤の他人の為に命を投げ捨ててやれる程、今の私の命は安くはない。

覚悟を決め、私は全てのプラーナを両手に集中させる。


そして放つ。


私の最強最大の奥義を――


氷竜絶牙ドラゴンズバイト!!」


放ったプラーナが白き竜へと姿を変える。


「死になさい!」


私は確かな殺意を籠めて、竜をコントロールする。

これが直撃すれば、いくら今の四条王喜でも只では済むまい。

恐らく命を落とす事になる。


だが迷いはなかった。


私は生き残る!


「舐めるなぁ!!!」


四条王喜が足元に拳を叩きつける。

その瞬間、泥沼化したグランドが大きく跳ね上がり、人型の、巨大な泥の塊が生まれでた。


上空に輝く、月の光が遮られる

それは見上げる程に巨大なゴーレムだった。


「叩き!潰せぇ!!」


ゴーレムが巨大な腕を振り上げ、私の生み出した竜へと振り下ろされる。


「くっ!」


相手が大きすぎて、回避させるのは無理だ。

そう判断した私は、竜をそのゴーレムへと突っ込ませた。


氷竜絶牙ドラゴンズバイトと巨大な泥のゴーレムがぶつかり合い、凄まじい衝撃波が発生する。

下半身が泥に沈んでいなかったなら、きっと私は吹き飛ばされていただろう。


それ程の衝撃が。


「凍り付きなさい!」


氷竜絶牙ドラゴンズバイトを正面から受け止めたゴーレムの表面が、冷気によって凍り付いていく。


だが――その全てが凍結するよりも早く、ゴーレムによって私の竜は粉々に砕かれてしまった。


「相打ち……」


だが砕かれた竜は光の閃光となって、強烈な冷気を周囲にばら撒いた。

その置き土産の直撃を受け、ゴーレムも完全に凍結しきり動きを止める。


「相打ちぃ?舐めんなぁ!!」


四条王喜が吠える。

それと同時にゴーレムを覆う氷に罅が入り、バリンと大きな音を立てて砕け散った。


「そんな……」


体から力が抜けていく。

プラーナを使い過ぎた反動だ。

もう私に、戦う力は残っていない。


「へへへへ。叩き潰せ!ゴーレム!!」


四条の命令を受け、ゴーレムが私の前にやって来て腕を振り上げた。


――私は死ぬ。


――こんな所で、こんな奴にやられて。


ごめんね……刹那。

姉さん、貴方の仇を取れそうにないよ。

ごめん……


ゴーレムの巨大な腕が振り下ろされた。


私は全てを諦め、ゆっくりと目を閉じた――


「きゃっ!?」


その時、 体が急に強く引っ張られ、私は思わず悲鳴を上げた。

強く抱きしめられる感覚。

恐る恐る閉じていた眼を開けると、そこには――


「よう。余計な真似すんなとか言うなよ」


笑顔で軽口を叩く、鏡竜也の姿があった。

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